ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.10.05

ガテンがいかず


 「ためしてガッテン」というNHKの番組がある。
 地上波をほとんど見ないワタシとしては、
結構見てる番組である。
 料理の話と健康の話が大半を占めるが、
先日は「耳管開放症」がテーマであった。
 こっちとするともう話のネタはよーく知ってる話なので、
いつもとは違った立場で番組を見ることになった。
 印象は、意外にも
回りくどい、わかりにくい、誤解を招き易い、
表現だったので、びっくりした。
 考えてみれば、事実を淡々と説明したのでは
視聴者の興味を引くことができないので、
わざとわかりにくく「謎の~」とか
「耳鼻科医も知らない~」とかの表現をつけ、
 「耳が全く聞こえなくなることがある」
とか
「巨大耳あかが脳に浸潤して命にかかわる」
などといった
センセーショナルな話で脅かそうとする。
 巨大耳あかとは「真珠腫」のことで、
確かに全く間違ってるとは言えないが、
普通の耳あかとは全く別モノだし、
鼻すすり型耳管開放症から脳内に浸潤するような真珠腫ができることは、
ほとんど全くまれである。
  その昔、みのもんた氏のお昼の番組で、
いろいろな疾患にテーマを定めてとりあげる番組があった。
 たいがい、学会では聞いてこともないような、
怪しげな医者(?)が出てきてショッキングなコメントをし、
会場のオバサンたちに悲鳴や歓声をあげさせるのが目的の
粗悪な番組であった。
 プロがみればあきれるような内容なんであるが、
当時、ウチの死んだバアちゃんなどは、結構見ていた。
 食事中などにふいにバアちゃんが
「○○って怖いんだってねー。」
などと言い出すと、
「また見たな、あの番組見ちゃダメっていってるでしょ。」
とたしなめるのだが、
またこっそり見ていて、
見るとどうしても人に言いたくなって、
また言って、
内容が内容なので、すぐバレてまた注意される、なんて事をしてたなあ。
 さすがにあの番組はヒドかった。
 ただ今回、専門家として招かれていた東北大耳鼻咽喉科の小林教授は、
人間的にも学問的にも大変立派な先生で、
間違いなく耳管開放症については日本の第一人者であり、
ワタシも何回も講演を聞いたことがあるし、
実際に当院から患者さんを紹介して耳管開放症の手術をお願いしたこともある。
 多分、放送局の意向であんな演出になり、
ご本人もある意味、心外なのではなかろうか。
 民放地上波はハナから信用がおけないが、
天下のNHKがあれでは困るなあ。
 今回の「ガッテン」も間違ったことを言ってるわけではないが、
真実がちゃんと伝わっているかは疑問である。
 耳管開放症については、以前当ブログで解説したので、
その辺知りたい方はこちらをご覧ください。
 ちょうど2年くらい前のブログです。
↓クリックしてお読みください。
耳管開放症の中島美嘉さん
耳管開放症の治療
 そう思ってみると、ワタシがふんふん、へえー、と思いながら見ている、
耳鼻科以外の他科の疾患の話も、
ある程度歪曲された話も多いのだろうかと、
けっこう不信感を持ったりしちゃいます。
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2012.10.03

突発性難聴の話

 エレファントカシマシとかいうバンドのヒトが
突発性難聴で休業だそうだ。
 実はこのバンド名前以外はほとんど全く知らないんですが、
突発性難聴について少しお話をします。
 突発性難聴はある日ある時突然に片耳の聞こえが悪くなる病気で
原因は不明です。
 というより、原因不明のものにこの病名がつきます。
 原因が分かっているものは「騒音性難聴」とか
「ウイルス性難聴」とか「薬剤性難聴」の病名がつくわけだ。
 難聴と同時に耳鳴りがおこり、
場合によっては難聴が自覚されず
耳鳴りだけが唯一の症状である場合も
少なくありません。
 音を感じ取る神経細胞の障害で
感音性難聴に分類されるが、
その中では比較的治ることの多い疾患です。
 程度は様々で、ごく軽度の難聴から
ほとんど聾になってしまうものまであります。
 頻度的には比較的多く、
当院のような個人の診療所でも週に何人かは初診の方がいます。
 原因は不明ですが、
治療はほぼ手順が決まっており、
中心となるのはステロイド剤です。
 通常は内服で経過を見ますが、
場合によっては入院加療をすることもあります。
 治り方も様々で、
薬もなにもなくても治っちゃう人もある一方、
どんなことをしても聴力が回復しない人がいます。
 4割は完全治癒、3割は改善、残り3割は聴力の改善なし、
と言われますが、ワタシの感触ではもっと治癒率は高い印象です。
 まあ、開業医には救急車で搬送されるような重症例が少ないので、
全体としてはこんなものかもしれませんが。
 確実に言えることは、
発症から治療開始が早いほど治る確率が高く、
逆に1ヶ月以上経過したものは一般的には治りません。
 植木鉢のお花がしおれた時点で水をやると復活しますが、
完全に枯れてしまうと戻らない、
という感じです。
 めまいを伴う例もあり、
めまいにとらわれて内科、脳外科などで治療を行い
耳鼻科的な診断が遅れると難聴が残ってしまう場合があります。
 もちろん当初の内耳のダメージが強く、
早期からきちんとした治療をしても
聴力が戻らない方もあります。
 人間の体の様々な組織は再生能力がありますが、
神経細胞は再生しないので
一旦死んでしまうともう戻らないのです。
 ステロイドが奏功しない場合は高圧酸素療法や
星状神経節ブロックなどの補助的療法を追加することもありますが、
あくまで補助的療法であって、
これやれば絶対治る、
という治療法は今のところありません。
 浜崎あゆみさんや元ウインクの相田翔子さんも
突発性難聴だったときいています。
 ただ、今回のエレファントカシマシの方は
入院して手術までされたとか。
 突発性難聴の手術ってあまり聞いたことないのだけれど、
何やったんでしょうか?
 ワタシが不勉強なだけなのか?
 ともかく、お大事に。
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2012.09.20

今夜のライブはギターなしで


 北朝鮮飯店のライブが終わっての連休は翌週の学会の準備。
 昨日行われた研究会での発表原稿をまとめていたのだ。
020_20120920194243.jpg
 会場は足利市民プラザ小ホール。
 ここは、オーディオメトリーで一回、CRPで一回ライブをやったことがあるなあ。
 でも今日はギターは無しです。
028_20120920194242.jpg
 今年のスギ・ヒノキ花粉症と来年の展望について
マジメに 講演して参りました。
 でも、最後はこんなスライド出したりして。
029_20120920194242.jpg
 終了後の懇親会、他の先生方と「まつむら」さんでお食事。
 実は、ここの娘さん、今年何と群馬大医学部に合格!
ワタシ(と妻の)後輩となったのだ。
047_20120920194242.jpg
 せっかくですので写真に入ってもらう。
 おめでとうございます。
 「まつむら」さんも昔から良く美味しいお料理をごちそうになっていますが
娘さんの方も風邪ひくとウチかかったりして良く知ってるのだ。
 足利出身の、しかも知り合いが後輩になるとは
こちらも大変ウレシイです。
 良いお医者さんになってください。
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2012.09.19

ニューキノロン系の薬剤について


 コメント欄にいただいたご質問にお答えします。
(質問の内容は右コメント欄をクリックしていただけると読めます。)
 高齢者にいきなりニューキノロンを使うのは最終手段だ
の論拠ですね。
 そのコメントは、おそらく単純に年齢と原因菌いうより
高齢者とニューキノロンとの関わりで述べられたものではないでしょうか。
 青カビから発見されたペニシリンを端緒とする抗生物質は
セフェム系、マクロライド系など様々なグループがありますが、
基本的に土壌の微生物が産生する天然の物質をもとにしています。
 一方ニューキノロン系と呼ばれる薬は人工的に合成された薬で、
抗生物質と同じく抗菌薬ではありますが合成抗菌薬と呼ばれます。
クラビット、ジェニナック、オゼックスなどが代表的です。
 主として腎排泄が多く尿路感染症でのみ用いられていたキノロン剤ですが
1980年代初頭に従来のキノロン剤から抗菌力、抗菌スペクトルが
飛躍的に進化したバクシダールが発売され
ニューキノロン系と呼ばれるようになりました。
 ちょうどワタシが医者になった頃の話です。
 ニューキノロン系の特徴は高い組織移行性と
広い抗菌スペクトル、そして高い殺菌能力です。
 その一方で発疹、胃腸症状などの通常の抗菌薬にある副作用の頻度も比較的高く、
ニューキノロンに特徴的な血糖値異常や関節毒性、
横紋筋誘拐症や腎不全などの時に重篤な副作用も報告されています。
 症例を選んで使えば切れ味は鋭いが、
なんでもかんでも使うべきではない薬です。
 抗菌スペクトルの広さから通常は内服では殆ど効かない
緑膿菌などの耐性菌にも有効です。
緑膿菌は弱毒菌なので健常者に感染を起こすことは稀ですが、
耳鼻科領域では慢性中耳炎と外耳道炎では常に主要な原因菌です。
 とびひは夏場の子供に多い病気ですが原因菌は主として黄色ブドウ球菌です。
通常はセフゾンなどがよく効きますが
最近耐性ブドウ球菌によるとびひをとこどき見ます。
 耳鼻科は培養を取るので、
たまたま、皮膚科でなかなか良くならなかったとびひに対し、
原因菌を特定し、皮膚科の先生にニューキノロンの使用を推薦したところ
軽快して感謝されたことが何回かありました。
 空気のないところで発育する嫌気性菌というグループの細菌があります。
ニューキノロンはこの手の菌にも有効です。
これも通常はあまり遭遇しませんが
耳鼻科領域では慢性副鼻腔炎の急性増悪や扁桃周囲膿瘍では原因菌になる場合が少なくありません。
特に副鼻腔内は薬剤の移行が悪いので組織移行性の高いニューキノロンは有効です。
 マイコプラズマは乳幼児には少ないですが、
学童期から大人、老人までの咳の風邪としては常に念頭におくべき疾患です。
通常のペニシリン系、セフェム系の抗生物質が効かないので、
クラリス、エリスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質が用いられてきました。
 ただ、近年、というよりこの2,3年マイコプラズマに
このマクロライド系の抗生物質が急速に効かなくなってきてしまいました。
現時点で耐性率は7割超とも言われています。
 ニューキノロンはこのマイコプラズマにもよく効くので
マクロライドでコントロールできない場合の2次選択薬として有用です。
 しかし、現時点でニューキノロンを第1選択で用いるべきではないでしょう。
マイコプラズマは確定診断が難しく疑い例で治療を行うことがほとんどです。
 そもそもマクロライド系が効かなくなった背景には
マクロライド系抗生物質の不適切な使いすぎがあります。
 マイコプラズマが多くは自然治癒する病気である事を考えれば
ニューキノロン剤は最後の手段として温存しておかねばなりません。
 そんなわけで、その先生の真意は、
確かにニューキノロンはよく効く薬であるが、
 そのニューキノロンが効かなくなると手の打ちようが無くなる場合があり、
ことに老人の場合には肺炎などの時に致命的な感染症の例があるということ。
 そして、ニューキノロンそのものが持つ
重篤な副作用を惹起する危険性を常に考慮する必要があること。
 この2点を踏まえて発せられたコメントではないでしょうか。
 つまりもっと診断力を磨け、ということでしょうかね。
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1件のコメント
2012.09.10

野性の証明


最高気温は連日30度超えであるが、
朝晩の気温は徐々に下がりつつある。
 朝、犬の散歩にいくと
最後のミンミンゼミが過ぎゆく夏に
必死にしがみついているかのように啼いている。
 犬のリードを持つ背中に感じる朝陽に夏の名残りの温度を感じつつも、
頬に当たるわずかな冷気は明らかに秋のそれである。
 そして耳鼻科の外来の様子もほのかにに秋の気配を感じさせる。
 真夏によくなってしまう鼻炎や耳管狭窄症、中耳炎などが
再びジワリと増えつつある。
 人間の体には気圧や気候の変化に対するセンサーが備わっている。
 この気圧の変化が耳の不快感として感じられている。
 環境や生活が完全にコントロールされた現在では
ほとんど意味がないが、
まだヒトがケモノだった頃は
気圧や天候の変化は場合によっては個体の生死を分けるほど
重大な問題だったはずだ。
 気圧の低下は天候の悪化の前触れであり
野生動物にとっては一刻も早く知りたい情報である。
 世代間のDNAの伝承という気の遠くなるような回数の
積み重ねによって獲得した機能は、
その後ヒトという生物の生活態度の変化により
その機能の必要性の減少によって
表に出ることがなくなったものの、
それでも遺伝子の箪笥の奥の方に折り畳まれ仕舞われている。
 目や耳と言った特定の感覚器ではなく、
体のいろいろな部分からそれを感じ取っているのだろう。
 例えば食べ物の味が味覚の神経だけでなく、
嗅覚や触覚、温痛覚などの総合的感覚として
知覚されるように、
複数のセンサーが重なりあって知覚していると考えられる。
 皮膚や消化器およびそれ以外の未知のセンサーと共に
鼓膜の張力(聴力ではなく)は確実にその一役を担ってると考えられ、
耳管狭窄症の人や耳管開放症の人などは
この時期になると不調を訴える方が多い。
 鼓膜の動きに対する気圧の影響だけでないことは、
鼓膜に穴が空いていて気圧の変化を受けないはずの人が
耳の不快感を訴えることでもわかる。
おそらく耳管などにもそのセンサーがあるのだろう。
 そして耳以外にも、めまいや消化器運動や、ホルモン分泌の異常、
抑うつ気分や不眠症にまで気圧の変化は影響を及ぼしているのではないだろうか。
 台風がくると喘息の発作を起こしたり、
雨が降ると関節が痛むなんてのも
古来のDNAに組み込まれたセンサーの遺残が働いているのだろうなあ。
 いわゆる「野生の本能」は言葉ヅラより
実はよっぽどナイーブなものだったりするのである。
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2012.07.05

実は、アレでした。

 先週末、大阪までタイトなツアーを強行したが、
実はワタシ、健康に若干の問題を抱えていた。
 金曜日から何となく喉が痛く、
ああ、風邪ひいたかなあという気がしていたが、
夜もフツーにスイミングなど行っていた。
 土曜日になり嚥下痛が増し、
何となく身体もだるく首筋がいたい。
 嚥下痛は夏風邪だろうか、
首や身体のだるさは風邪のせいか
それとも昨夜のバタフライのやり過ぎなのやら、
何かわからず。
 念のためロキソニンを2錠、チケットホルダーに
忍ばせて出かけたが
大崩れもなく酒も飲んで夜行列車で翌朝帰宅。
 日曜日は自宅でブログを書いたりギターの練習したりして
おとなしく過ごしていたが、
寝台車でぐっすり寝たせいか体調はやや良くなっていた。
 しかし、夕方になり体のだるさ、嚥下痛はやや増加。
 首のぐりぐりが痛くなり、
なんか、体も痒い。
 まさかアルコール性の肝障害じゃ無いだろうなあ。
 うーん、マズイなあ。
 結局、夜はアルコールを飲む気にならず
夕食時はノンアルコールビールにした。
 さあ、もう今夜は早く寝ようと寝室に向かう途中
ふとある病名が閃光のように頭に浮かんだ。
 ああ、そうだ、そうだ、それだ。
間違いない、もう、そうに決まった。
 あらゆる状況が腑におちた。
 翌朝、アサイチで妻に頼んで
診察室で検査してもらう。
 やはり、ビンゴ!
 「溶連菌感染症」であった。
 毎日毎日、何人もこの診断してるのに……。
 
溶連菌感染症は通常、唾液等の接触で感染し、
空気感染は無く、飛沫感染も稀である。
 子供だと、高熱や発疹、イチゴ舌など、
派手な症状が出る場合もあるが、
大人は熱が出ない事も多い。
 そう言えば、この間、診察中、子どもさんのツバが
口に入ったような気がしたわ。
 オレいつもマスクしてないからなあ。
 ふだん、風邪の時には薬は飲まないワタシだが
溶連菌となれば、抗生物質を飲まねばならない。
 早速、朝からパセトシンを飲みはじめ、
夕方にはもう殆ど症状が改善しました。
 さすが、効くなあ。
 溶連菌感染症は風邪と違い細菌感染なので
ウイルス性の風邪よりはるかに症状は早く良くなるのだ。
 しかし、今後除菌のため
10ー14日程度抗生物質を飲み続ける。
 人にいうのは容易いが、
自分となるとメンドクサイなあ。
 一回飲むと一週間効果が持続する
ジスロマックなる抗生物質もあるのだが
ちょっとこれも問題あり。
 殆どの抗生物質が効いちゃう溶連菌だが、
ここ数年、見ていると
ジスロマックを含むマクロライド系の
抗生物質に限って薬の効かない耐性株が増えている。
 そんなわけで、教科書通り、
ペニシリンをコツコツ飲むのが無難でしょう。
 妻いわく
「レディアちゃんがご飯食べない時と
父ちゃんがお酒飲まない時はよっぽど具合悪いのよねー。」

 ・・・・お騒がせしました。
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5件のコメント
2012.06.19

急性喉頭蓋炎という病気

 ちょっと前に「ペリトン」すなわち「扁桃周囲膿瘍」のお話をしました。
読んでない人はクリックして参照⇒「扁桃周囲膿瘍の話
 いわゆるのどの痛みで、もう一つ重要な病気が
「急性喉頭蓋炎」です。
 喉頭蓋とは、のどの奥にあり口から飲みこんだ食物が
気管に入らないように蓋をする、
靴べらみたいな形をした軟骨板です。
 ここに感染がおきて腫れあがると、
患者さんは激しいのどの痛み、特に嚥下痛といって、
物を飲み込む時に強い痛みを感じます。
 通常は扁桃周囲膿瘍と同じく風邪症状から始まりますが、
やはり扁桃周囲膿瘍と同じく、手遅れになると死に至ることのある疾患です。
 ただ、扁桃周囲膿瘍との大きな違いは、
口をあーんと開けただけではワカラナイ、という点です。
 扁桃周囲膿瘍はその口の中の所見を見て、
内科の先生があわてて耳鼻科を紹介すると書きました。
 一方喉頭蓋は、のどのやや奥になるので、
普通に内科の先生がみても、そこまでは見えません。
 ちょっとのどが赤い位だなあ、
このヒトはおおげさなヒトなんだなあ、
と思ってしまう場合があります。
 で、適当に薬を出してそのまま帰すと、
数時間のうちに腫れあがった喉頭蓋が気道をふさぎ、
呼吸困難になったが救命間に合わず死亡、
などという事例が時々起きます。
 状態が悪化するまでの時間はペリトンよりさらに早い。
 扁桃周囲膿瘍が気道のスペースが広い部分での疾患であるのに対し、
喉頭蓋炎は気管のすぐ上の狭い部位での腫脹をきたすので、
短時間のうちにあっという間に窒息し致死的状況になってしまいます。
 救急外来でも耳鼻科の医師がいないと発見が困難なので、
しばしば医療訴訟になることの多い疾患です。
 耳鼻科医がみると外来ですぐその重症度がわかるので、
大事に至ることはありませんが、
内科の先生が診断するのは大変だろうなあと思います。
 この間来た患者さん。
 のどの痛みで内科の病院を受診し、風邪と言われ
点滴もしたが、嚥下痛が強く翌日朝、自己判断で当院を受診。
 普通にしゃべれるし、熱も高くなく全身状態も良好。
 大したこと無いのかな、と喉頭を見ると、
おお、急性喉頭蓋炎じゃあ。
 すぐ患者さんに説明し、紹介状を書いてその足で日赤に行ってもらう。
 即入院し、治療を開始してもらった。
 その晩、ちょうどカンファランスで日赤に行く用事があったので、
日赤の先生に、
「どうだった?」
 と、尋ねると、
「点滴でかなり強力に薬を入れたんですが、
腫れが強くて、やっぱり午後キセツしました。」
 との返事。
 「キセツ」は「気切」と書き「気管切開」の事である。
 ああ、やっぱりね。
 気管切開は窒息を防ぐためにのどを切って気管に呼吸路を確保する手術である。
 つまり、そのまま帰宅させたら死んじゃってたかもしれないわけだ。
 危ないところでした。
 よかったですね。
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2件のコメント
2012.06.11

小児副鼻腔炎の治療について

 こんにちは。
 全国1000万のサッカーファンの皆様、
帰って来たドクターおぐぐの耳鼻科相談コーナーです。
 今日は、こんなお便りを頂いたよっ。



こんにちは。抗生剤のことで悩んでいて、こちらにたどりつきました。5歳の女の子ですが、2月に副鼻腔炎と診断され、4か月たった今も抗生剤を飲み続けています。発熱や痛みはありません。鼻水はほんとにたまにでますが、透明のサラサラです。
鼻は時々詰まりますが、鼻水はほとんどでていません。
最初にレントゲンを撮ったきりで、ずっと飲み続けていることに納得いきません。
主治医は大丈夫大丈夫と言うのですが、本来4か月も抗生剤を飲み続けても大丈夫なのものでしょうか?しかも途中経過の検査もせず出し続けるものなのでしょうか?
まだ小さい子供ゆえに心配です。
ちなみに薬はリカマイシンです。


 イントロはふざけてましたけど、
いや、まじめにお答えしますんで。
 さて、5歳児の副鼻腔炎です。
 副鼻腔とは、鼻の周囲にある鼻腔と連続した空洞で、
大体、3歳~4歳くらいから形成されてきます。
 したがって、赤ちゃんの副鼻腔炎は原則的に無いわけですが、
幼児期や学童期は風邪に続発して副鼻腔炎を起こすことはよくあります。
 軽いものは薬など飲まなくても自然に、
または良く鼻をかんでいれば治ってしまう事が多いですが、
中には治療をしてもなかなか治らない例があるのも事実です。
 難治性の原因としては、
花粉症を含むアレルギー性鼻炎の存在、
風邪をひき易く感冒を反復する子、
鼻を上手にかむことが不得手のお子さん、
鼻腔に耐性菌が常在している場合、
等々があります。
 風邪のあと1~2週間たっても膿性の濃い鼻汁が続いたり、
咳や痰が特に起きぬけ、寝入りばなに多ければ、
副鼻腔炎を疑いレントゲンを撮ります。
 レントゲンで副鼻腔炎が確認されれば、
一定の流れで治療を行います。
 急性期には殺菌的な抗生剤を用い、
症状が改善してもレントゲン所見が残るようであれば、
一般的にはマクロライド少量長期療法を行い、
自他覚症状を見ながら3か月を目安に投薬をします。
 さらに難治性のものについては、
プレッツ置換法と言って、副鼻腔に直接薬液を入れる治療を行います。
 一般には副鼻腔の成長期である幼児期、学童期には、
副鼻腔炎は保存的療法で、よく治る場合がほとんどで、
手術をすることはまずありません。
 通常は1カ月前後でレントゲンを撮り、
治っているかどうかを確認します。
 ただし、親がみてほとんどハナが出なく症状がないと思っても、
耳鼻科医が鼻の中を覗くと、
奥の方に膿性の鼻汁が流れてきていることはよくあるので、
この方の場合、お医者さんが所見から見てまだ治ってないので
レントゲンを撮る時期で無いと判断しているのかもしれません。
 4カ月程度はマクロライド少量で経過を見ることはあります。
 マクロライド系の抗生剤を常用量の半分以下で使うので、
漢方薬的な作用で、抗菌作用を発揮しないので、
3,4カ月飲んでもそれほど問題はありません。
 ただ、一般的にはそろそろ何か次の手を打つ時期だとは思いますが。
 そして、ちょっと気になるのが薬の種類です。
 リカマイシンを使用とあります。
 リカマイシンは確かにマクロライド系の抗生物質ですが
一般的には少量長期療法に使われる薬剤では無いように思います。
 実は同じマクロライド系と言われる抗生剤の中でもいくつかのグループがあり、
その構造式から
14員環のクラリス、クラリシッド、エリスロマイシンと
15員環のジスロマック、
16員環のリカマイシン、ジョサマイシン等
に分別されます。
 これらは、すべて同じマクロライドなので、
抗菌スペクトル(どんな菌に効くか)などは
どのグループもほぼ同様の傾向を示しますが、
少量長期療法での効果が確実であるのは
14員環のグループだけだと思います。
 ひょっとして私が不勉強なだけで、
最近、新たに16員環マクロライドにも
同様の効果が証明されたというデータが発表されたのかもしれませんが・・・。
 薬剤アレルギーとか内服した時の味の問題で
次善の策としてリカマイシンを選ばれたのかもしれませんし、
現場の事情が分からないので何ともそれ以上はコメントできませんが
効果が不十分な可能性もあるのでは。
 もちろん副作用の面では、少量療法なら4カ月程度で何か重大な障害が出る、
という事は無いはずなのでそちらはご安心いただいてもいいと思います。
 しかし、4カ月経つのであれば、
どちらにしろ現在の状態と今後の見通しについて
主治医の先生にご相談されてもよろしい時期なのではないでしょうか。
 少なくとも一回レントゲン撮って、
治っていないまでも改善があるのかないのかは
確認してもいいのではないかと思います。
 そこで、ご質問に対するお答えとしては、
マクロライドの少量長期については4カ月程度飲むことはあり、心配はないが、
そろそろ何か検査をして治療方針を再検討する時期に来ているかも、
というのが、現時点でお伝えできる私の個人的見解です。
 あくまでも一般論であり、
実際にはここにいろんな条件、状況が加味されるので、
この通りに進まない事はよくあります。
 どうぞお大事にしてください。
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2012.06.04

扁桃周囲膿瘍(ペリトン)の話


 耳鼻科では「ぺリトン」と呼ばれる、
正式名称は「扁桃周囲膿瘍」という病気がある。
 口蓋扁桃、俗に言ういわゆる「扁桃腺」が化膿して腫れ、
さらにその扁桃腺の裏側にバイ菌が入り込む。
 するとやがてそこに「膿瘍」という「膿の袋」が形成され、
扁桃腺の周囲がはげしく腫れあがるのだ。
 患者さんは猛烈な痛みで、食べ物はおろか、
自分の唾液も飲み込めなくなり、
しゃべることもできずよだれがだらだら。
 放置すれば膿瘍がさらに下にさがり頸部や胸郭に及ぶと命が危ない。
 もっとも、放置することは痛くて不可能なので、
耳鼻科に駆け込んでくるのだが。
 耳鼻科外来で扱う病気としては、かなり重症度が高い。
 時々、内科の先生がのどを見てあわてて耳鼻科紹介したりする。
 問診票に「のどが痛い」と書く人は多いが、
診察室に入って来た時の様子で、お、これは、と思う位の重症感である。
 まず、もごもご言って満足にしゃべれないので、
見当がつく。
 口を開けて「ああ、ぺリトンだね。」
とワタシが言うと、黙っていても看護婦さんたちがあれこれ準備を始める。
 扁桃周囲膿瘍の説明を患者さんにしてる間に、空の注射器が出てくる。
 そして口の中に針を刺して膿の貯留を確認する。
 患者さんに膿がたまってるから手術が必要ですね、
などと説明してる間にスタッフにより
手術用の手袋と11番のメスとカンシ等のペリトンセットが用意されている。
 そして、速やかにその場でメスで口腔内を切開し、膿を出してあげるのだ。
 もちろん、局所麻酔で患者さんはそのまま診察椅子に座ったままである。
 すると、膿盆に、だーーーーっと膿が出て、
中を洗浄しておしまい。
 通常2、3日は外来で抗生剤の点滴をするが、
これがあっちゅうまに良くなっちゃうんである。
 次の日は全く別人のようにニコニコした顔で外来にやってくる。
 大体は20代、30代のもともと元気なヒトに多い病気なので、
そのギャップはすさまじい。
 医者やってていろんな治療するけど、
ほとんどの病気が治るのは人間の(患者さんの)治癒力、免疫力だなあ、と思う中、
この病気と、魚の骨などの異物症は、
こりゃ絶対、オレが治したな、と思う病気である。
 あー、外科医でよかった、と思う瞬間である。
 ところで、このペリトン、教科書には書いてないが、
経験上ひとつの法則がある。
 それは、何故か続く、ということ。
 めったに来る病気ではないが、
一人来ると必ずと言っていいほどもう1、2人ペリトンのヒトが来るんである。
 別に伝染する病気でもないし、
花粉症のように季節的な要因が関係するわけでもないので
その理由は謎である。
 約2か月前に1週間のうちに3人来た。
 その前は半年以上なかったように思う。
 そして、先週木曜日にまた一人切開したのだが、
また今週同じ病気の人が来るんだろうか?
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4件のコメント
2012.04.20

足利医師会学術講演会から

 昨日は診療終了後、足利医師会の主催する学術講演会に行ってきました。
 演者は石川県の小児科医の吉田均先生で演目は
「小児上気道炎~見直しませんか、いわゆるかぜ薬~」
というものであった。
 内容は幼小児の風邪に関して、
抗生剤、咳止め、抗ヒスタミン剤、気管支拡張剤、解熱剤は
効果が無いばかりでなく治癒過程を遅らせ
合併症を招く恐れもあり使うべきではない、
という主旨のお話であった。
 良く言ってくれました。
 日々ワタシが考えてたことがそのままの内容だったので、
自分に対して大いに勇気づけられるような講演でした。
 ただし、ご本人も言っておられたが、
患者さんの家族に対する説明は非常に苦労すると。
 確かに、熱があって来院し、
中耳炎、インフルエンザ、溶連菌などが無ければ、
「これは風邪ですね。」
と言って、薬なしでお帰りいただく。
(当院では基本的にはそうしています。)
 すると1,2日で熱が下がり、
ああ、この子の免疫力で風邪が治ったなと親御さんは思う訳です。
 一方、病院にかかり
「これは風邪ですね。」
と言って、抗生剤はじめ多くの薬をもらって帰る。
 そして1,2日で熱が下がると、親は、
ああ、もらった薬のおかげで熱が下がったな、と思うのでしょう。
 お医者さんに対し感謝の念が強いのはどっちなのかなあ。
 あそこの先生はたくさん薬出してくれるので、いい先生だなどと思うのでしょうか。
 少なくとも薬出しちゃう方が簡単だし、
病院的にも儲けは多いわけですね。
 風邪に薬がいらないということを説明するのも大変だし、
タダの風邪だと診断をつけるのもそれなりの技術が必要です。
 野口先生のブログで、水いぼの件で似たような話が書いてありましたね。
水いぼについて
 彼も苦労してるようだ。
(また、勝手にブログ引用しちゃいました。)
 昨日聴いた話では経口抗生物質で細菌性髄膜炎は予防できないそうです。
 耳鼻科医として言わせてもらえば、
急性中耳炎も経口抗生物質では予防できません。
 だから、髄膜炎が怖いからとか、
中耳炎になると困るから、という抗生剤処方はありません。
 もちろん熱があるから抗生物質というのも全く意味が無いばかりか
却って耐性菌を増やし治療を困難にします。
 昨日の講演で吉田先生が最後に引用した
ジョンズ・ホプキンス大学のJames.A.Taylor博士の言葉
 「”Doing noting”is often better」
 (何もしない事がしばしばより良い治療である。)
 医者として常に胸に刻むべき言葉でしょう。
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