2023.06.20
夏風邪の季節になってきました。
以前も書きましたが、夏風邪は「夏にひく風邪」ではなく、
夏の高温多湿な環境で元気になる
コクサッキーウイルスなどのエンテロウイルス族やアデノウイルス
による風邪です。
すなわち「ヘルパンギーナ」「手足口病」「咽頭結膜熱(プール熱)」
の3つを「夏風邪」と呼びます。
なので、「内科で夏風邪と言われました。」
という患者さんには
どの夏風邪でしたか、と質問するのですが、
大概は答えられません。
患者さんが聞き漏らしたのか、
また勝手に夏風邪と思い込んだのか、
はたまた夏風邪を知らない内科医が、
テキトーなことを言ったのか・・・・。
RSウイルスや、コロナウイルス、ライノウイルスは、
夏にひいても夏風邪とは言いません。
冬風邪という言葉はありませんがいわば冬風邪です。
さて、今は雨のシーズンですが、
気象用語では
強い雨、激しい雨、非常に強い雨、猛烈な雨という言葉は、
それぞれ1時間雨量が20mm以上30mm未満、
30mm以上50mm未満、50mm以上80mm未満、
80mm以上と決められています。
なので、もし気象予報士の知り合いがいた場合、
「昨日は猛烈な雨だったねえ。」
と言った場合、
「いやあ、昨日のは猛烈な雨では無く、
非常に激しい雨だったんじゃない?」
というような会話になるのでしょうか。

2023.01.24
天気予報やニュースなどでは、
10年に一度の強烈な寒気が流れ込むとの話題が
繰り返し報道されています。
今朝の朝日新聞の天声人語でも、
「八甲田山死の彷徨」を引用しながら寒さへの注意を
喚起していましたが
その中の
「かつて経験したことのない寒気だった」
というくだりを
「かつて経験したことのないサムケだった」
と読んでしまい、一瞬、えぅ?と思ってしまった。
仕事がらカルテの記載などでも
「寒気」は「カンキ」ではなく、
「サムケ」と読むことの方が圧倒的に多いので。
気象庁の人は、まず「カンキ」と読むのであろう。
高校生は「生物」を「セイブツ」と読むが、
食料品を扱ってる人は「ナマモノ」と読むだろうし、
一般には「食べてる最中だ」は「食べてるサイチュウだ」でも、
和菓子屋さんは「食べてるモナカだ」としか読まないだろうなあ。
あ、ワタシの苗字、九州地方では「コクラ」らしいです。

2022.07.27
サル痘に関するNHKのニュースで、
アナウンサーの女性が「発疹」を「ハッシン」と発音していました。
えっ、これって「ホッシン」じゃねえの、と違和感があり。
調べてみると、意外な事実が判明。
「発疹」の読みは「ホッシン」も「ハッシン」も正解。
だが、どとらかというと「ハッシン」の方が正しく、
NHKは「ハッシン」に統一してるらしい。
なんて、こった。
逆だと思っていた。
さらに調べると「ホッシン」は
特に医療現場で、そう発音されることが多いという。
ナルホド。
医療現場特有の発音はあります。
たとえば「腔」の字には正しくは「コウ」という読みしかありませんが、
医療現場では「胸腔」「鼻腔」「口腔」など、
すべて「クウ」と発音します。
これはおそらく聞き間違いを防ぐためだと思われ、
「ビコウ」というと「鼻孔」で鼻の穴のことになります。
手術後の「抜糸」は、歯科では「抜歯」と区別するために、
「バツイト」というと聞いたことがあります。
他にも医療現場では「発赤(ほっせき)」「発作(ほっさ)」など
「発」を「ホッ」の発音で呼ぶことが多いですが、
さすがに「発作」を「ハッサ」とは呼ぶことはないものの
「発赤」に対しては国語辞典では「ハッセキ」の読みもあるようです。
それにしても「早急」はもともと「サッキュウ」だが、
「ソウキュウ」と誤読する人が増えたので、
最近は「ソウキュウ」も正しいことになったのと同じく
「ハッシン」も誤読の一般化だと思ってて
「ハッシン」と発音するヒトを
今まで心ひそかにバカにしていたが、オレの方がバカだったとは。
ソウキュウに考えを改めなければ。

2022.05.22
先日来院されたおばあちゃん。
「なんか、ミミズが鳴いてる、と思ってたんだけど、
ずっと消えないので耳鳴りだった。」
そういえば、春になって暖かくなると、
夕暮れどきに何処からともなくジーっという音が聞こえます。
これを「ミミズの鳴き声」と称することがあり、
俳句でも「蚯蚓鳴く」という言い回しがあります。
しかし、ミミズは鳴きません。
発声器官もセミやコオロギのような音を発生する機構もないので
地面から聞こえる「ジー」っという音は
実際にはケラの鳴き声と言われています。
だが「蚯蚓鳴く」は秋の季語だそうで、
春の季語では「亀鳴くや」となるそうです。
いや、カメも鳴かないぞ。
我々が春の宵に耳にする「ジー」という音は、
「クビキリギリス」という
バッタの仲間の声だと思います。
いかにも耳鳴りっぽい無機質な音で、
同じバッタ目でもスズムシやコオロギのような風情はありませんね。
秋に成虫になり冬眠して冬を越すので、
他の虫より早く春から鳴きだすらしいです。
耳鳴りの音を「セミの鳴き声のよう」
と表現される患者さんは非常に多いですが、
「クビキリギリスのような耳鳴りがします、」
と言って来院された患者さんには
耳鼻科医になって40年近くたちますが
いまだに一人も逢ったことがありません。

2022.03.03
先日のNHKのあさイチ。
特集は「魅力がありすぎる徳島」。

「美しすぎる」

「すごすぎる」

「野性味あふれすぎる」

いつ頃からでしょうが、
若者言葉として「〜過ぎる」という言葉を
「とても〜である」という意味、
あるいはその強調形として用いる例が
目につくようになりました。
いわく「このスイーツ、美味し過ぎ❤️」
「槙野のあのシュートは凄過ぎですね。」
「双子のパンダ、可愛過ぎます。」
これらはいずれも「とても〜である」を
さらに強調しようとして用いてる、
ちょっと前なら「チョー〜」で
表現された言い回しです。
「このスイーツ、チョー美味しい❤️」
「槙野のあのヘッド、チョー凄かった。」
「双子のパンダ、チョー可愛いです。」
「〜過ぎる」という言葉はもともと形容詞を伴って
「あまりに〜なので(かえって)・・・ではない」
という否定の文脈で用いられて来ました。
英語でいえば「too〜to …」構文というやつで
「He is too old to drive a car.」
「彼は車の運転をするには歳を取り過ぎている。」
とか
「The ice on the lake is too thin to skate on.」
「この湖の氷は薄過ぎてスケートは出来ないなあ。」
という類です。
それがいつの間にか最上級の言い方に変わったのは、
「美人すぎる海女さん」なんてのが
ニュースになった10年くらい前あたりからでしょうか。
だが、この時点では
「あまりに美人すぎるので本物の海女さんではなく、
(やらせで)モデルさんが演じているんじゃないかと思っちゃうほど」
という従来の文法になっていたのですが、
この前半部分が切り取られた形で拡散しました。
さらに最近の言い回しと合体して
「神過ぎる対応」とか
「このゲーム、ツボ過ぎる」
「天使過ぎるアイドル」
なんていう表現は、
10年前だったらなんのこと言ってるのか
まったく理解できなかったと思う。
古くは1971年の野口五郎の大ヒット曲に
「君が美し過ぎて」というのがあります。
千家和也作詞のこの歌詞だと
「美し過ぎて、君が怖い」となっています。
歌詞の内容は
「君はとても美しいのでボクは魅力を感じているが
あまりに美し過ぎると怖いという
(反対の)感情が湧いてくることがある、
それによってボクは苦しめられ、
間違いを起こしそうだ、と歌っているので
昨今の「〜過ぎて」とは違い、
従来の用法を踏襲しているといえます。
言葉はうつろいゆくものとはいえ、
オジサンには、どうも最近の「〜過ぎて」という
この表現は抵抗があります。
若者には抵抗ないのかしら。
例えば、ある会社の会議で
若手社員「部長、ワタシが考えたこの企画、どうでしょうか。」
年輩部長「うーむ、こりゃあ、キミ、斬新過ぎるね。」
若手社員「良かったー、ありがとうございます。」
なんていう、行き違いは無いのだろうか。
新型コロナオミクロン株に罹った患者さんの
インタビューをNHKの朝のニュースで流していました。
「熱が高過ぎて寝られませんでした。」
この人の場合「熱が高すぎて寝られなかった。」
というコメントは
「熱が多少あっても寝られるが、
高さがその限度を越していたので寝られなかった。」
ということなので、従来の表現を逸脱してはいないのですが、
本来なら「熱がとても高くて寝られなかった‘。」
という表現だろうかと思われます。
しかし、これも段々定着しちゃうのかも。
いや、NHKのあさイチでやってるのだから、
もう正しい用法なのか。

2021.11.20
外来にかかった子供を見てスタッフが
「あれ、○○ちゃん、前髪アシメになってるね。」
と言いました。
「アシメ」という言葉は初めて聞きましたが、
瞬間的に「アシンメトリー(左右非対称)」
のことだろうと思いましたが、
やはりその通りだったようです。
「a」は否定を示す接頭辞ですが、
医学用語では比較的よく用いられます。
肺、呼吸を表す「pnea」という言葉に「a」がつくと
「apnea」=無呼吸になります。
音、声を表す、iPhone、テレフォンの「phone」とくっついて
「aphonia」は「失声(症)」という意味になります。
鼻は「nose」ですが、これにくっついて「anosmia」になると
「嗅覚脱失」「無臭症」ということになります。
~血症という意味の「nemia」に「a」がついた
「anemia」は「貧血」です。
さらに「aplastic anemia」というのがあって、
これは「作る」という意味の「plastic」、
プラスチックの語源ですが、
これに「a」がくっついて否定されていますので、
「再生不良性貧血」という病気のことです。
ちなみに医療関係者はしばしばこの病気のことを
ギョーカイ用語で「アプラ」と呼びます。
だから「アシメ」がすぐわかったのかも。

2021.09.15
先日の朝日新聞の天声人語に
「金木犀」の話題がありました。

季節の話題として毎年この時期取り上げられる「金木犀」ですが
気になったのは2行目にある「臭覚の弱い身」のくだり。

天下の朝日新聞ともあろうものが、
これは「嗅覚」の間違いではないか。
「臭(シュウ)」は「臭う」、
「嗅(キュウ)」は「嗅ぐ」であり、
ニオイを感じとる感覚は「嗅覚(キュウカク)」といいます。
ワタシは毎年看護学校の講義の1時間目に
耳鼻咽喉科は「感覚器」を扱い、
「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の五感のうち3つを担当し、
しかももう一つの感覚である「平衡(感)覚」も
耳鼻咽喉科の領域なのですよ、と説明します。
そのときに、
ときどき「臭覚」という人がいますが
正しくは「嗅覚」なので、
プロとなるあなたたちは、そういう恥ずかしい間違いをしないように、
と付け加えます。
ところが、今回ちょっとネットで調べてみると
なんと辞書では「臭覚(しゅうかく);嗅覚に同じ」となっていて
必ずしも誤用とは言えないないらしい。
ちょと前まではこんなことは無かったはず。
これは、おそらく誤用が多用されて一般化した例でしょう。
言葉というモノはまさに生き物なので、
時代に応じて変化していくのが習わしです。
古文で習うような言葉と現代語ではだいぶ言い回しが違い、
それは長い期間に変化してきたものですが、
変化の中にはたとえ当初は誤用であっても
その言葉が多く「流通」すれば
それがやがて誤用ではなくなる、というケースがあります。
しかもそういうことはかなり短時間で起こり、
ワタシの60年余りの人生の時間の中でも
変化を目にすることができます。
例えば「重複」や「早急」という言葉です。
「重複」は中学生のころ「ちょうふく」と読むと教わりましたが、
「じゅうふく」と誤読する人が多くなった結果、
今はどちらでも可、になっています。
「早急」は「さっきゅう」がもともとの読み方ですが、
「そうきゅう」でもいいことになり、
今や「そうきゅう」の方が多数派かも。
せっかく覚えた「正しい読み方」が、
誤読者の「数の理論」でなし崩しになるのはちょっとクヤシイ。
「重複」という単語は国語の教科書で、
スポーツ中継のアナウンサーの表現か何かの文章で、
「重複した表現はかえって迫力をそぐ」
という文章で出てきたことまで覚えています。
この字の「読み」は
期末だか、中間だかの試験のヤマの一つだったような・・・・。
でも、できれば正しく「嗅覚」という言葉を使いたいものです。
国民の大多数が麻生財務大臣並みの国語力だったら
「未曾有」の読みも「みぞゆう」になるかも知れんなあ。

2021.06.30
梅雨も末期になって来ており、
連日、天気予報で耳にする言葉は「線状降水帯」。
ムカシは聞いた覚えがないので、
新しい気象用語なんでしょう。
「集中豪雨」ってのはありました。
はなはだ不謹慎ではありますが、
「線状降水帯」
って、語感がカッコよくないすか?
なんかソソられます。
「扇情降水帯」か(笑)
中高と受験生だった身としては、
これは試験に出るぞ的な
要暗記ワードのニオイがします。
朝ドラ「お帰りモネ」じゃないすけど、
気象予報士試験には必出の単語かと。
4文字熟語は数多くありますが、
5文字はちょっと萌えます。
「線状降水帯」を聞いてまず頭に浮かんだのは
高校時代日本史で習った
「方形周溝墓」。
山川出版の赤い教科書の脚注にあったのを覚えています。
(赤が日本史、青が世界史)
他にも五文字用語、
「前方後円墳」「王権神授説」「天皇機関論」「神皇正統記」
「中性子崩壊」「電子親和力」「溶解度曲線」「重力加速度」
などのように、「線状降水帯」も
いかにも、試験に出るぞ―的なオーラを感じてしまい、
受験生生活を長く送った身としてはつい反応してしまいます。
ラインマーカーでマークしたくなる的な。
大学の時は主にドイツ語、ラテン語で暗記したわけだが
「胸鎖乳突筋」はなかなかソソる名前でした。
あ、「リットン調査団」も
カタカナ入ってますが同じ語感です。!(^^)!

2021.06.15
ヘルシーという言葉は
英語の「健康な、健康に良い」という意味の「healthy」からですが、
最近は主として食品に対し「カロリーの少ない」
という意味で用いられることがほとんどです。
「お野菜たっぷりでとってもヘルシー」とか
「糖質オフのヘルシーレシピ」
なんて感じ。
たしかに高カロリーの食事による
肥満や脂肪肝は糖尿病や高血圧など
さまざまな生活習慣病の原因になりますが、
カロリーの少ないことが健康、というわけではありません。
そもそもカロリー摂取過多が問題になってきたのは
日本ではたかだかこの5,60年のこと。
1950年代まではいわゆる戦後の食糧難が、
日本国民の健康に深く影を落としていました。
その前、江戸時代までは天候不良で飢饉が起こるたびに
何千、何万人もの餓死者が出て、
最大の飢饉といわれる典明の大飢饉では
日本全国で92万人もの人口減があったといいます。
そもそも人類の歴史は人類の誕生以後、数百万年の間
常に「飢え」との戦いでした。
人類は、いや、まだ、ヒトになる前の動物の時代から、
様々な手段で、少しでもカロリーの高いものを取り込む方策を講じ、
種の生存をはかってきました。
我々人間は血糖値を下げるホルモンは
インスリンただ一つであるのに対し、
血糖値を上げるホルモンは、
成長ホルモン、副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)
副腎髄質ホルモン(カテコールアミン)甲状腺ホルモン、
グルカゴン、ソマトスタチンなど数多くあります。
これはすべて、なんとか生物として生き残ろう、
と、ご先祖様が何千万年もかけて
苦難の末、手に入れたすべなわけです。
地球上には依然、飢餓と戦ってる国もありますが、
日本をはじめとした「豊かな国」では、
フードロスが社会問題になり、
エネルギーを生み出さない食品が、
「健康的」になってしまいました。
少なくともワタシが子供のころは、
「栄養満点」「お腹イッパイ」は売り文句だったのが、
今や「健康」と「カロリー」が
背反事項になってしまったというのは、
なかなか感慨深い。
とはいうものの、
ここのところ「鉄板プレート」がマイブームで
ついついカロリー過多になり、体重増え気味。
ダイエットしなければ・・・。

2021.04.27
一昨日から東京が緊急事態宣言。
大型連休にむけて「人流を止める」必要があると。
「人流」(!)
また変な言葉出たな。(^^;)
まあ、意味は分かりますよ。
「物流」に対しての「人流」なんでしょうね。
でも、広辞苑にも載ってないみたいだし、
「人の流れ」でよくないですか。
「人出」っていうムカシからある言葉もあるし。
「黙食」も新語ですね。
これは福岡のカレー屋さんが考案し、
ツイッターで拡散して一気に市民権を得たらしい。
それから派生して、一人で食べる「個食」
銭湯などの公衆浴場でおしゃべりしない「黙浴」
なんていう言葉も出来てるらしい。
まことに日本語は懐が深い。(*_*;
なんでもかんでも
新語をつくりゃ良いってもんでもないだろうに。
以前、近くの歩道橋の工事中、
歩道が狭くなるので死角になるところに
このような注意を促す看板がありました。

対向車に対しての使い方だと思いますが、
「タイコウ者」といえば、「対抗者」の字で
一般にはライバルとか打ち負かしたいと思う相手のことですよね。
でも、このシチュエーションではすんなり意味が通じちゃうんですが。
そのうち宴会なんだけど会話してはいけない「黙宴」とか
マスクしたまま飲み会を行う「覆飲」とか
居すわらないで1杯飲んだらすぐ帰る
「移酒屋」なんて言葉もできるかも。
「密」を作ってはいけないので
オリンピックも「非密開催」にすべきですね。
