ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2008.12.27

子供が熱を出した時

 朝、外来に行くと受付のノムちゃんがへらへら笑ってます。
「おはよう、どしたの?」
「先生、インターネットの受付、100人越えてます。」
「げー、そりゃ笑うしかないわ。」
 ご存知のように当院はインターネットから受付が出来ます。
待ち人数を見ながら受診していただく訳ですが、100人待ちかー。
70人、80人待ちとかいうと、泣きそうになりますが、100人越えるともう笑うしかないわな。
しかし、診療開始時間と同時に受付しても、100何番てのはただ事じゃない。
 さて、
「熱があって、小児科で中耳炎っていわれて、治療してたんですけど・・・。」
なんていって初診でかかる人は、結構多い。
「あっ、そーですか。(・・・ナンカ、やな予感。)」
「うーん、なんともないですね。」
「えー中耳炎で、鼓膜がはれてるからって、抗生物質を飲んで点耳もしてたんですけど。
で、治ってないから耳鼻科行けって、さっき言われました。」
 うーむ・・・・。
 以前私が勤務してた病院は、耳鼻科と小児科nの外来は廊下をはさんで向かい合わせでした。
外来の診察をしてると、時々、突然小児科外来の看護婦さんが飛び込んできます。
「ちょっと、先生お願い。」
彼女は患者さんの子供を抱えてます。
「おー、ちっと待っててね。」
診ていた患者さんの診察が終わると、看護婦さんはその子を抱っこして
診察椅子に座ります。
「何歳?熱はいつから?」
「1歳半、4日前から39度下がんなくて○×小児科から紹介です。」
「ふーん、今日の外来は?」
「S先生です。」
「どれどれ、うーん、お、当たり、S先生も確率上がってきたか。」
「はーい、じゃあ、耳鼻科の受付してきまーす。」
 子供の熱発は、中耳炎が原因であることが多い。
一般的に言って、38.5度の熱が3日続いた場合、
1歳以下なら70%、4歳以下でも40%が中耳炎が原因といわれてます。
 私がいたそこの病院では、小児科医が中耳炎を疑うと、
看護婦さんが、子供だけ抱えて、廊下を挟んだ耳鼻科外来に飛んできます。
お母さんも小児科外来に置いたままです。
そこで、私が診て中耳炎があれば、耳鼻科で診るので、改めて耳鼻科の受付をするわけです。
なければ、小児科に戻します。
総合病院は、診療科ごとに初診料がかかってしまいますから、
中耳炎がなければ、耳鼻科はタダなので患者さんは助かります。
 小児科の先生と相談して、そういうシステムにしました。
今、思ってもこのシステムは良かったと思います。
 面白いのは、中耳炎の小児科医の的中率です。
その病院は、小児科の評判が高く、先生が5~6人もいましたが、
中耳炎に関しては、平均5~6割、若い先生は3割位の的中率です。
ベテランの先生で、7割くらい当ててくる先生がいましたが、まあ上出来でしょう。
 「おー、今日はあの先生か、多分はずれだな」、とか、「お、この先生腕を上げたな」、とか。
また、小児科医にとっても、すぐ答えが出るので、診断力アップになります。
 まあ、それくらい、小さい子の耳を診るのは難しい。
耳鼻科医でも、5年目以下だと、きちんと診断できないことがあります。
 当時、その病院のベテランの小児科の先生が診て、中耳炎はない、といったのだが
何回も、我が子の中耳炎を経験しているお母さんが、
どうも、怪しいので、と耳鼻科を受診したら、案の定中耳炎だった、ということもありました。
 母親の印象の方が、小児科医の診断を上回ることは珍らしくありません。
 そんなわけで、小児科の先生が中耳炎がわからないのはしょうがない、
でもなー点耳薬はないだろ。
そもそも、鼓膜に穴が開いてなければ、点耳薬は意味がない。
外耳道の菌を奥に流し込んだり、
耳だれが出たときわかんないから使わない方がいいことのほうが多いです。
意味のない、抗生物質飲ませるのも、問題ですな。
耐性菌が増えて、肝心な時に薬が効かなくなる怖れもある。
 そういえば、この間、中三川先生からの中耳炎はバッチリあたりでした。
(先の先生、こっちは最近10戦くらい連敗中です。)
ウチの外来のスタッフも、すごいですねー、といった雰囲気でしたが、
当のお母さんは、中耳炎だからすぐ耳鼻科に行けって言われて
それが、中耳炎だというだけで、何がすごいの?という顔でした。
 実は、お母さん、それがすごいことなんですよー。

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2008.12.21

子供の鼓膜チューブ留置術

 この1週間は、やたら子供の鼓膜切開とかチューブ留置手術が多かった。
 やはり、年内にナントカしたいという、お母さんとお医者さんの思惑が作用してんだろうなー。
特に、幼稚園児のチューブ留置が3件もありました。
 そういえば、トモキ君のお母さん、コメントありがとうございました。
勝手に書いちゃってスイマセンでした。
(バックナンバー『師走でおわす』参照)
 大学病院には、子供の中耳炎なんかほとんど来ませんから、
大きな病院の先生は、子供の中耳炎の実態がわかりません。
 私が、研修医で大学にいたとき、
以前全身麻酔で入れた子供のチューブが外来で抜けないので、
全身麻酔でとることになりました。
いくらなんでも、そりゃねーだろ、と思ったけど、
誰もあばれる子供のチューブを抜くことが出来なかったのです。
大学病院のレベルなんて、子供の中耳炎に対してはそんなもんです。
 私もその頃は、まだ何も出来ない研修医でした。
 やがて、何年もトレーニングをし、様々な耳鼻咽喉科の手術や処置の技術を身につけました。
大きな病院で、医長になり、たくさんの手術を術者としてやるようになりました。
チューブを入れるのも、かなり上手くなったと思っていましたが、
子供の手術はすべて全身麻酔でした。
 そんなある時、ある子供の手術をしました。
両方の耳にチューブを入れ、扁桃腺とアデノイドを切除する手術です。
ごくありふれた手術ですが、その時チューブを入れようと鼓膜切開してビックリしました。
 鼓膜はペナペナで中耳の向こう側に張り付いていて切開するのも大変です。
しかも、切開しても中耳にスペースがないので、チューブが入りません。
そう、まさにトモキ君と同じような鼓膜だったのです。
 私はそれまで、そんな鼓膜をみたことがありませんでした。
しかも、外来の診察では、それがわからなかったのです。
患者さんは、別の医療機関から手術目的で紹介されてきた子だったので、
ろくに、観察もせず、手術予定を組んでしまったのです。
 まことにお恥ずかしい話ですが、私はそのときの手術記録に書いた文章を覚えています。
「チューブが入れられるような鼓膜ではない。」
 今の私だったら、「全麻までかけて、何いってんだこのヘボ医者が。」と罵倒するとこです。
 あの時私にもっと技術があれば、と悔やまれます。
 その後、開業してまだ間もない頃、ある子供の診察をしました。
名古屋のほうの耳鼻科で中耳炎の治療をしていたが、引っ越してきたのでこちらで診てほしい、
ということでした。
両方の耳にチューブが入っています。
「どちらの病院で手術したのですか?」
「その先生のとこです。」
「外来で?」
「はい外来で、鼓膜麻酔で。」
 おー、こんな子供にも局所麻酔でチューブいれられるんだー、すげー。
正直、ビックリしましたし、また、自分でも考えていたことなので
何とかこの技術を身につけたいと思いました。
 そして、いろいろ、工夫、努力し、経験をつんで、 今ではすべての年齢の子供に
局所麻酔でチューブを入れられるようになりました。
 この技術のいいとこは、何より、外来で手術出来るので、
コストやリスク、時間、手間の面ではるかに有利です。
入院、全身麻酔となると、術前に採血、胸のレントゲン、心電図、術後は点滴です。
特に全身麻酔のリスクの高い0歳児などは助かります。
 もうひとつ、入れたチューブの管理もできます。
大きな病院で全身麻酔でチューブを入れても、
チューブがつまったり耳垢が固まってしまうと、処置が出来ません。
外来で、チューブ管理が出来れば、処置だけでチューブの状態を戻すことが出来ます。
 特に近年、滲出性中耳炎だけでなく、乳幼児の難治性、反復性の中耳炎に
チューブを入れると、ウソみたいに中耳炎を起こさなくなります。
 まあ、どんな子にも入れられる、といっても難しい子は難しいので
そういう手術の前は、かなりのプレッシャーです。
トモキ君のときは前の晩、夢見ちゃいました。
 あー、この子、やっぱチューブだなー、でも、あばれるし、大変そうだなー、
と思っていた患者さんの手術が終わると
「この子は、もうこれで大丈夫。」とほっとするのだが、
また少しすると、新手のツワモノが現れるんだよなー。

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