ゾレアの花粉症への適応拡大について
このほど、花粉症の新しい治療薬が認可されました。
アレルギー性鼻炎としては初の生物学的製剤「ゾレア」です。
このブログを読まれる方は医療関係者の方ばかりではないので、
生物学的製剤について簡単に説明します。
簡単に説明するの、ムズカシイな。
この薬はヒトの抗体のクローンでして、
そもそも抗体とは、特定の微生物を攻撃するために生体が作る物質。
たとえば、おたふくかぜにかかると、
体がそのおたふくかぜウイルスを認識して、
そのウイルスだけを攻撃する物質(=抗体)ができます。
それによっておたふくかぜは治り、
身体がその抗体を作り続ける間は、おたふくかぜにはかからない。
抗体にはいくつかの種類がありますが、
そのうちIgE抗体というグループはもともと寄生虫を攻撃する抗体ですが、
これが、まちがって反応するのがアレルギーです。
花粉やダニ、ハウスダストを敵と誤認して、
くしゃみで吹っ飛ばそう、、鼻水で洗い流そう、鼻を詰まらせて侵入を防ごう、
とするのがアレルギー性鼻炎です。
このアレルギーをおこすIgE抗体を攻撃するように、
プログラムしたIgE抗体をクローンによって大量生産したのが
ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤とよばれるもの。
攻撃する側も、される側もIgE抗体なので、混乱しますが、
ミサイル迎撃ミサイルと思ってもらうとわかりやすい。
湾岸戦争でイラクのスカッドを撃墜したパトリオットのような
ミサイル防衛システムです。
つまりこれを注射することにより、体が作ったIgE抗体が、
ことごとく撃墜され、スギ花粉が来てもアレルギー反応が起きないという仕組み。
問題点はいくつかあり、
アレルギーをおこすIgE抗体は体が作り続けるので、
注射はシーズン中約2週間ごとに打ち続けなければならないこと。
そしてさらに問題は、そのお値段。
例えばゾレア皮下注用150mgでは1瓶当たり4万6422円であり、
1回当たり600㎎を2週間ごと投与するとなると、1か月で37万円余り、
花粉症のシーズンは2か月~2か月半なのでざっと100万円。
仮に3割負担でも薬剤費だけで30万以上、
診察代、検査代、注射手技量もこれに加わる計算です。
もっと問題なのはこれを保険適応にすると、
その分の医療費、すなわちのこり7割が健保の負担になるということ。
これ、この間話題になったこの話と矛盾していますよね。
一応、中央社会保険医療協議会で花粉症への適応は了承されたものの、
製薬会社側から承認をひとまず留保したい、との申し出があり、
今シーズンの保険適応はない見通しですが、
現時点でスギ花粉症にこの薬は無いだろう、という印象です。
もともと、喘息では重症例に限って適応になっていて、
実際に使われている製剤ではありますが、
喘息では死んじゃう人もいる一方、
スギ花粉症の重症例ったってたかが知れてる。
中央社会保険医療協議会のガイドラインでは、
「厳密な」施設、患者、管理の適応基準が定められていましたが、
ざっと見た限りでは、それほど「厳密」には見えませんでした。
そもそも患者基準のスギRASTスコアがクラス3以上、なんて。
IgE値はクラス0~6までに分類されますが、
当院で検査したスギ花粉症患者さんのざっと9割が、
クラス3以上です。
過去にスギ花粉抗原の除去と回避を行った上で、
医療機関で「鼻アレルギー診療ガイドライン」に基づき、
鼻噴霧用ステロイド薬・ケミカルメディエーター受容体拮抗薬による治療を受けたものの、
コントロール不十分な鼻症状が1週間以上持続したことが診療録、問診等で確認できる、
なんて基準がありますが、
スギ花粉抗原の除去と回避が十分なされれたなら、
重症化することは絶対にありません。
まあ、このクスリ、大金持ちが自費で使うのはけっこうだが、
保険適応にして庶民に負担を求めることはありえないでしょう。
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