ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2009.11.13

査定くらっちまった


 「オノン」という薬があります。
 ロイコトリエンというアレルギーを起こす物質をブロックする薬で、
適応症は「気管支喘息」と「アレルギー性鼻炎」。
 最近は発売されて年数が経ったので、
いわゆるジェネリック薬の製造販売が認められています。
要するに特許期間が切れたので、コピー薬を他のメーカーも作っていいというわけです。
一般名「プランルカスト」といいます。
 当院は院外処方ですが、ジェネリック薬は患者さんの希望により
先発品に変えて処方していいですよ、という形にしてます。
 先日戻って来た、保険審査でこの「プランルカスト」が大量にカットされちゃいました。
 理由は病名漏れ。
 「オノン」は「気管支喘息」と「アレルギー性鼻炎」の両方の適応があるが、
同じ薬ではあるが、後発品「プランルカスト」は「気管支喘息」の適応しかないため。
 全く同じ薬でなんでこんなことがあるかというと、
「オノン」は発売時にまず「気管支喘息」の適応をとり、その後、臨床試験をして
遅れてアレルギー性鼻炎の適応が追加になったわけです。
 この時間差があるから、「気管支喘息」の「プランルカスト」は許可になっても、
「アレルギー性鼻炎」では「オノン」は通っても「プランルカスト」は保険が通らない。
 もちろんその辺はわかってたので、病名のチェックなんかはしてましたが、
常識的に考えて、まあ、大丈夫でしょうとは思ってました。
「オノン」で出しても、薬局でジェネリックに変更される場合がほとんどなので、
すべてチェックできてなかったこともあります。
 カットされると、病院のほうがその差額をすべて負担します。
薬局や、もちろん患者さんには負担なし。
 けっこう痛いですね。
件数が多いし、薬の性質上長期に出すことの多い薬なので、かなりの金額です。
 しかも、適応症は同じ薬なのでその後「プランルカスト」は臨床試験等をしなくても、
時間が経過すれば自動的に適応追加になります。
 その適応追加になったのがなんと、先月なのだ。
 それが、今月になって急に過去数ヶ月分に遡ってきられちゃいました。
 だから先月分からは、この薬、「アレルギー性鼻炎」で、堂々と保険が通るわけです。
 うーセコイぞ、意地悪すぎ。
先月からOKだってこと知ってて、その前までをカットしてるわけでしょ。
 例えていうなら、見通しのよい道幅の広い道路を、
流れにのって70km/時で走ってたら
スピード違反でつかまっちゃった。
しかもその道は来月から制限速度が80km/時に変更されることが、
すでに決まってる、みたいな。
 もともと政府としては、医療費を削減するためにジェネリック薬を推進する運動してるわけなのに。
 まあ、こちらに非はあるので、泣き寝入りですが、
もっと無駄な薬使ったり、いい加減な処方したりしてるやつらを何とかしろー、
と、心の中で叫んだりします。

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2009.10.01

酸素カプセルの効果

 
 先日の専門医試験について関係者(?)の方からコメントを頂いて、
そんなに受験者の実数は多くなかったそうで、どうも失礼しました。
 まあ、合格には変わりないわけだし、
日々の禁煙指導にも力を入れる今日この頃なんですが、
今日来た患者さんの話。
 若い女性なんですが、勤め先の美容院(?)で、酸素タンクに入ると鼻が痛い、とのこと。
 酸素タンクって、高圧酸素療法のことですか、
そんなのが美容院にあるんかい?
 と、訊ねたら、今ではあちこちにある、って話。
うちの職員も知ってた。
 何のために入るの、って訊くと
「美肌効果」「気持ちがすっきりする」
へー。
 スタッフなので1時間1000円で入れるんですよ。
 えー、そんなに金取るの。
ときいたら、1000円は破格に安いらしい。
5000円以上とるとこはざらだとか。
 うーむ。
 高圧酸素タンクはそもそも医療機器で、ホンモノは高価なため
大学病院レベルでしかない。
 一酸化炭素中毒やバージャー病、ガス壊疽、潜水病などで使用されるが、
耳鼻科領域では突発性難聴への効果があるため我々には馴染み深いものだ。
 要するに「ヘンリーの法則」ってのがあって(高校で習いましたね)
気体の圧量を高めると溶解度が増す、という。
 だから血液中に余計酸素を溶け込ますことができるわけだ。
 理論的には循環が改善し、体が元気になる可能性もあるけど、
さて、実際の効果はどうなんだろ。
 美肌効果は、疑問だし、ダイエットに関してはもう全く関係ないでしょう。
疲労回復も気分的なものが多いでしょうね。
まあ、以前書いた「点滴パーラー」ほどはあくどくないが、何となくコンセプトが似てる感じ。
 少なくとも1時間で何千円も払う価値はないでしょうね。
1000円だって高い。
800円で日帰り温泉入ったほうがずっといい。
 実際、私も大学病院勤務の頃、頚部膿瘍の患者さんをストレッチャーに乗せて、
何回か入ったことがある。
特に疲労回復した覚えはないが・・・。
 アレルギー性鼻炎、花粉症や、中耳炎の既往がある人などは、
中耳炎の発症や、鼓膜に穴が開いちゃったりすることもあるので要注意ですよ。
 ちなみに今日の方の場合アレルギー性鼻炎があるので
中鼻道の閉塞からの、いわゆるリバースブロックが原因と思われます。
 ただ、少なくともこの方の場合、
1日20本弱吸ってるタバコをやめることのほうが
酸素タンクに毎日入るよりも、美肌や疲労回復には数千倍の効果があるのは
まず、間違いないでしょう。
逆にお金もうくしね。
 みんな、よく考えてね。
 

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2009.09.30

謎のくさいだま

 
 先日来院した女子高生。
「今日はどうしましたか?」
と訊ねると
「くさいだまが気になります。」
との返答。
「!?クサイダマ????」
初めて聞いた単語だ。
「それって何なの?」
「くさい玉が出るんで、友達に訊いたら、それくさいだまだから耳鼻科で取ってもらえば。」
と、言われたそうな。
 「!」
ははあ、あれかな。
「それって、たまに口から出る1~2ミリのカスみたいやつで、
ぐずぐずしてて、白っぽい黄色でくさいニオイがするやつ?」
「あ、それです。」
 なるほど「くさいだま」って言われてんのか。
誰がつけたか知らんがなるほどねー。
 念のためパソコンで調べると、ホントに「くさいだま」でヒットしてくる。
 正確には「膿栓」といいます。
 口蓋扁桃(俗に言う扁桃腺)にはぽつぽつ穴が開いています。
この穴が大きい人はそこに食べ物のカスや雑菌が繁殖して
カッテージチーズのカケラみたいな塊りができます。
 自然に取れたときある程度の大きさがあると、
口の中に異物感を感じ、吐き出してみるとくさいのです。
 ほとんど病的なものはありませんが、
中には繰り返し大きなものがたまったり、口臭の原因になることもあります。
 外来で簡単に取れちゃうのですが、扁桃のポケットの大きい人は
また、たまっちゃう事は多いです。
 重症例は扁桃腺そのものを手術で取ったりするわけですが、
通常は、うがいや口腔ケアだけで経過を見ます。
 溶連菌感染以外は抗生物質も不要です。
 しかし、「くさいだま」とはよく名づけたもんだ。
なんか、ポケモンの名前かと思った。
勉強になりました。

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2009.09.29

試験、合格しました。


 先日、札幌まで行って受験してきた「日本禁煙学会認定指導医試験」に
私と妻とそろってめでたく無事合格しました。
 ああー、よかったー。
 休診にして行った以上、「結果を出さねば」というプレッシャーがあり、
また、副院長だけ受かって私が落ちてたらカッコ悪いなーなんてのもあったりして。
 試験前は、なんとなく受かるんじゃないの、なんていう楽観論に支配されてましたが、
いざ、会場に行くと、受験生モード全開の先生方にびっくり。
 しかも200人を越える受験者。
 試験会場も、試験開始ぎりぎりまでみんなテキストを放さず、
ウチはテキスト2人で1冊というセコイ体制なので、
待ち時間手持ちぶたさで落ち着かなかった。
 試験は結構できたと思ってはいたが、
法令関係の問題が意外と多く、苦戦したので、心配はありました。
 でも、落ちたから、医者ができないわけじゃなし、
次の試験は来年9月、会場が四国は愛媛松山だって言うんで、
落ちたら、今度は道後温泉、ポンジュースじゃー、と思ったのですが。
 そもそもこの試験を受けるきっかけは当院が禁煙外来を始めたことに端を発します。
禁煙外来は検査機械をそろえ施設基準を認可してもらい、保険診療ができるのですが、
我々は医学部でも研修医時代も「禁煙学」というものを系統的に学んだことがありません。
 禁煙外来に資格は要らないけど
お金もらってやる以上、やはりきちんと勉強したいと思いました。
そして、この試験のことを知り、やっぱ取っといた方がいいだろう、
っていう事で受験に至ったのです。
 今朝、学会からメールが来てて、
試験結果が発表になりました、とのこと。
しかし、そこには結果は書いてない。
 合格者66名はホームページから閲覧できます、って、
合格者66人しかいないのかよ。
ざっと200人以上は受けてたのに。
(ちなみに私の受験番号は152番、副院長は150番。)
こっそりホームページを開き、2人の名前を確認しました。
 合格率なんと3割強、よく受かったもんだ。
 「最初からこんな合格率だって知ってれば、もっと勉強してたよねー。」
なんて、妻はのんきなこと言ってますが。
 思い返せば受験当日、試験前のセミナーからも出題される、
ってことで一生懸命ノートとリながら聴いたわけです。
 その講義の始まる前に、何やら小さい金属の箱を机に並べる妻。
「なに、それ。」
「これ、ミントのキャンディー。あたし、この手の講義すぐ眠くなっちゃうから。
こっちがスースーするやつで、こっちがもっとスースーするやつ。
舐める?」
「いや、いい。」
 で、講義が始まって少しして横にいる妻に小声で話しかける。
「ねーねー、今の患者さんの話さー、・・・・ん?あれ。」
もう寝てるじゃん。
あわてて袖を引っ張る。
「(小声で)こら、起きろ。飴舐めろ。」
 ま、その後はずっと起きてたみたいですが。
 そんなこんなで無事合格してよかったです。
別にこれで、収入が増えるとかじゃないんですけどね。
 日本禁煙学会の「禁煙キャンペーンコマーシャルコンテスト」の入選作品の動画を
当院のホームページに掲載しました。
「小倉耳鼻咽喉科」のホームページを開いていただき横の「禁煙外来」の
ボタンをクリックしていただけると見られます。
なかなか傑作ぞろいですので是非一度ご覧ください。

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2009.09.25

都合のいいデータ

 
 昨日、インフルエンザ出てないですね、なんて書いたら
今日午前中いきなり陽性者現る。
 うーん、油断禁物。
 さて、新型インフルエンザのおかげで、いろんな便乗商法が出ている。
 マスクや消毒薬のメーカーはまあ、売り上げ伸ばしてるでしょう。
こういうのは別に便乗とは言いませんね。
 先日、街でお茶屋さんの店先に
「緑茶うがいで新型インフルエンザに立ち向かおう」
なんてポスターが貼ってありました。
 うーん、効果は・・・・、
 あまりないでしょう。
 そもそも、インフルエンザ対策としては、手洗い、マスクは非常に有効だが、
うがいは、さほど意味がありません。
ウイルスは粘膜についたらすぐ侵入しちゃうので。
 でも、実害はないので、そんなに問題はない。
 インフルエンザに効く、なんていうニセの薬やサプリメントなんか出ちゃったら困りますけど。
(スギ花粉のときはけっこうあるんだ、この手が。)
 困るのは製薬メーカーが医者をだまそうとしていろんな資料を持ってくる。
 某メーカーが、
「インフルエンザのネズミにこの薬を投与したら、
死亡率が明らかに激減しました。」
なんて、データを持ってくる。
 その薬はいわゆる去痰剤で、耳鼻科でも内科小児科でも日常的にヤマほど使ってる薬だ。
いい薬で安全性も高いけどインフルエンザウイルスに効くというのは、マユツバだ。
 よくデータを見ると、この実験でのラットへの投与量は体重1キログラム当たり40ミリグラム。
おいおい、この薬、通常人間の大人で1回15ミリグラムだぞ。
体重60キログラムの大人なら、2400ミリグラム飲ませてるってことになる。
インフルエンザに効果あっても、ほかどっかおかしくなるよ、
そもそもそんなにいっぱい、どんぶりで薬飲めっつーの?
錠剤にして1回160錠の計算だ。
 別のメーカーはわが社の薬をタミフルに併用すると明らかに効果が倍増します。
って持ってくるグラフでは、確かに有効率が倍近くでてるんだけど、
よく見ると、n(エヌ=検体数)が6人とか8人とかだったりする。
 実験した人数が1桁のデータなんか信用できるわきゃねえ。
 メーカーの上層部のブレーンがこういうデータをでっち上げて
それを社員に洗脳し、いや、中にはわかってやってる社員もいるのだが、
ともかくアホな医者をだまして、自社の薬を使わそうとする。
 先の40ミリグラムのメーカーの人は、良心的な人なので
ホントかよーと、データを見てるオレに突っ込まれる前に
「いや、これ、とんでもない量なんで、普通飲めないんですけどね。」
と、自ら白状したけど。
(でも一応必ず紹介しろと上から言われてんだろう。)
 先日はある抗生物質メーカーが
「日本で新型インフルエンザの死亡率が低いのは抗生物質を一緒に出す医療機関が多いからだ。」
なんて、データを持ってきた。
 違うだろ。
 医療保険の整ってる日本は、初期の段階から病院にいって治療するケースが多い一方、
海外では、医療費が高く、所得水準も低いので、重症化してから受診するケースが多く、
日本のように初期から洗練された医療が受けられないせいだ。
 最初っから、インフルエンザや発熱にバンバン抗生物質出して、
いざ二次感染って時に、薬の効かない耐性菌しか残ってない方が、もっと怖いぞ。
 ただでさえ、かぜ薬だ、とか、熱があるから、と称して
盲目的に必要のない抗生物質を出すアホな医者が多い我が国。
メーカーももっと医者を教育して正しく薬を使わせるようにしないと、
あっという間に薬が効かなくなって、自分の首をしめることになるぞ。
(もうすでに、その薬、かなり効かなくなってるけど)
 インフルエンザに関しては、医者もメーカーも私利私欲でなく
社会全体の利益を考えて取り組んでいただきたい。

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2009.05.20

忙しい日

 月曜日は忙しかったなー。
 午前中が1時10分までかかったが1時半から養護学校の検診。
現地まで20分以上かかるので、昼メシ抜きで看護婦さんと車で行く。
 養護学校の検診は人数は少ないが、手間がかかる。
 なんせ半分は車椅子やストレッチャーだし、20パーセントは病棟まで往診だ。
 去年も書いたけど、ここで
「ハイ、耳垢。耳鼻科行って取ってもらって。」
と、いうわけにはいかない。
養護学校の健診
 人工呼吸器ついて、寝返りもうてないような子が、耳垢とリに耳鼻科にかかれるわけは無い。
 今年も、鉗子やら異物鈎(耳用のフック)やら、持ち込んで無料の耳垢とりサービスです。
おかげで、健診でひっかかった子はナシです。
 3時に健診が終了後、即座に病院にとってかえし、午後の外来。
 これが、ナゼカ混んでる。
 昼メシ抜きで腹へったなー、と頑張って延々と続く外来をこなし
終わったのは午後8時半近く。
 その後、風呂に入ったり何だかんだで11時過ぎにやっと夕食。
「ああー、疲れたー。いただきまーす。」
と、冷蔵庫から出した缶ビールを開けようとすると、いきなり病院の電話が・・・。
 げげげ、と思ったが、しょうがない。
 3歳の子供の耳痛、発熱。
太田の人で、近くの耳鼻科はどこもつながらないので、足利までかけたらしい。
解熱鎮痛の座薬があるというので、
とりあえずそれ使って明日耳鼻科受診でも大丈夫です、と説明するのだが
どうしても診てほしい、という強い希望で、診察することに。
 とりあえず、缶ビールを冷蔵庫に戻し、代わりにノン・アルコール・ビールを出してくる。(涙)
 結局、太田の伊勢崎よりの方から来た患者さんを診たのは、
12時15分前で、診察が終わって本物のビールが飲めた時は日付が変わってました。
 グイッと飲んで、やっと一息。
あー、明日も健診があるのかー。
いや、今日でした。

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2009.04.11

哀愁のケフラール

 昨日も、まだまだインフルエンザ。
しかもB型もいたが、夕方来た患者さんは久々にA型でした。
今日も、B型が出たし、まだ続くのかよー、こんなに暖かいのに・・・・。
 さて、今日かかった、初診の赤ちゃん。
問診票の、飲んでる薬のところに「ケフラール」。
「尿管逆流症って、いわれてる?」
「ハイ。」
んなら、いいです。
 ケフラールって薬、私が医者になった頃(およそ4半世紀近く前か!)に出た抗生物質で、
それこそ、めちゃめちゃ売れた薬だと思います。
 いわゆる「セフェム系」の抗生物質で、当時ホントによく効いた。
時まさしく、抗生物質バブルの頃で、
何でもかんでも「とりあえず」抗生剤、って頃だった。
 その甲斐(?)あって、その後急速に耐性化が進み、
いまや、殆ど臨床的には役に立たないという、
逆に場合によっては耐性菌を元気にさせるので、使わない方がいいこともある、という薬だ。
 でも、この「尿管逆流症」には効くらしい。
私、専門外なのでよくわかりませんが、一応、論文取り寄せて読んだことがあります。
英語の論文だったけど、書いたのは日本の研究者でした。
 だから、今、この薬をそれ以外に使うことは、まず、無い。
(それでも20数年前と同じに効くと思って出してるナサケナイ医者もいたりするが。)
続いて、ヒットした「セフゾン」って抗生物質も、今や相当効かない薬になってます。
コッチは「黄色ブドウ球菌」に対する抗菌力があるので、「とびひ」なんかでは、
まだけっこう使われてますが、中耳炎なんかでは完全に出番ないですね。
 だから、そうやって処方されてる「ケフラール」を見ると、
昔は、一世を風靡した歌手が、いまや売れなくなって場末のドサまわりやってるみたいで
妙な哀愁があります。
ギャラ(=薬価)も、相当安くなったしね。

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2009.03.31

夏来にけらし

春過ぎて夏来にけらしプール熱 衣干すなよ 天の香具山
【解釈】プール熱だなんて、春が過ぎて夏が来ちゃったみたいだよ、
    でも(まだ実際はスギやヒノキの花粉が飛んでるから)洗濯物は天の香具山に干しちゃダメだよ。
【解説】元歌、持統天皇の歌は「万葉集」では「・・・夏来(きた)るらし」ですが
    「新古今和歌集」「百人一首」では「・・・夏来にけらし」になってます。
    「けらし」は「ける+らし」のつまったもので「~したようだ。」の意で過去の推量を表します。
  〔用法〕インフルエンザになりけらし⇒インフルエンザになったようだ
      あの二人は出来けらし⇒あの二人はデキてるみたいよ
      けらし明太子⇒したようだ明太子
 花粉症もヤマを越えたか、外来もだいぶ落ち着き、特に午後はガラガラです。
しかし、インフルエンザは、まだ出る。
 患者さん発生記録はまだ更新を続け、3月も終わろうというのに
一人もインフルエンザなし、の日はまだです。
さすがに毎日2ケタの患者さんが「陽性」だった頃に比べれば、
最近は1ケタですが、それでも最低一人は「陽性」が出てる。
今日も何人かいましたねー。
 おまけに最近は「咽頭結膜熱」の陽性者もちらほら出てきて、困ったもんだ。
この病気、俗に「プール熱」というアデノウイルスの感染症ですが、
名前のとおり、夏に流行るもの。
扁桃腺が腫れ、高熱が5日から1週間出ますが、抗生剤は無効です。
最近は迅速キットでインフルエンザや溶連菌みたいに外来でその場でわかります。
 インフルエンザと花粉症とアデノウイルスをいっしょに診るって、
最近は季節感がないのー。
この間は手足口病もいたし。
 まあ、最近は冬でもエダマメでビール飲んでるけど、
やっぱ、旬のものは、その季節に味わいたいもの。
 やっぱ、アデノは夏だよねー。
いや、別に自分がかかるんじゃなくて。

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2009.03.27

嚥下のリハビリ(その2)

(これはつづきです。その1からお読みください。)
 とりあえず、起きられるようになんないと。
 栄養チューブを鼻から入れて、検査結果が出るまで安静にさせられていたので
起き上がることも出来なくなちゃったのだ。
カロリーの面からは足りてるので、生物学的には生きているが、人間としてはこれではまずい。
 耳鼻科に転科して調べても、やはりこれ、とういう異常は見当たらず、
まあ、内科であれだけ調べてるし。
 文献を調べても、あまり参考になることが見当たらない。
ついに私は5000円もする「嚥下障害」なんていう、本まで買っちゃったが、ダメ。
 看護師さんとあれこれ作戦を立てる。
 当時、この手のリハビリのプロトコールなんてものは皆無だった。
 そして、手探りで、たどり着いたのが「トロミ」。
 ある朝、当直明け、
「先生、患者さんが食べなかった朝ごはん食べますか。」
「おー、食べる食べる。」
何せ、研修医は金がない。
当直ったって、病院から朝飯が出るわけではないので、こういうのは大歓迎。
 看護婦さんの控え室で食べさせてもらった。
「あれ、センセイ、生卵あまってますよ。」
「しまった、あせって食べたらご飯にかけるの忘れた。ショーユかけて飲んじゃうか。」
つるつるつる、ごくっ。
お、ナンカ、ひらめいた。
これだこれこれ。
こーいうツルリと入るものがいいのでは!
 そのころ、患者さんの食べ物の性状は「かたい」⇔「やわらかい」しかスケールがなかった。
病院食は「かたさ」「塩分」「カロリー」「添加物」などで細かく分類されてたが
嚥下に関しては「粘りけ」「トロミ」が重要だったのです。
 つまり、モノがかたまりでつるっと入っていけば
気管に入ってむせることが少ないわけです。
 最近の嚥下指導では「トロミ」は最重要ファクターで
かなり細かく研究されてるらしいです。
我々も、何とかそこにたどり着いたので、何とか解決の糸口が見つかったわけです。
 そして、リハビリ。
当時はリハビリ専門の部門がなかったので
整形のリハビリの人をよんで、独自のメニューを作ってもらいました。
マーゲン・チューブ(鼻から胃に入れる栄養チューブ)を抜き、
ベットの角度を上げ、少しづつ動く範囲を増やしていきました。
 毎日、ベッドサイドに行くたびにTさんの表情が豊かになります。
「どうですか、Tさん。大分、動けるようになったみたいですね。」
「いやー、センセイ。いつも、歩けー歩けーと言われてるので、
軍隊時代に行軍訓練をさせられてる夢を見ちゃいましたよ。」
なんて、言われたけど、歩けるようになったTさんはどんどん元気になり、
トロミ食も、功を奏して、経口摂取が可能になりました。
 約1ヶ月後、Tさんは、めでたく退院しました。
もちろん、自分の足で歩いて。
 今だったら、きちんとしたプログラム、ガイドラインがあるのでしょうが、
当時は何も参考になるものがありませんでした。
 その時思ったのは、人間は治る力がある、ということです。
治療といえば、それまで薬と手術のことだ、と思ってたのですが、
その薬や手術にしても、人間の治癒力の助けをしてるに過ぎないんだなということに
改めて気づかされました。
 そして、薬や手術やその他、リハビリ、生活指導等を用いて、
人間の「治る力」を最大限に発揮させるような状況を作ってあげるのが
医者をはじめとする「医療者」の役割なんだなーと感じたわけです。
そこが機械の修理と人間の治療の違うとこなんだよなー。
 地道にこつこつとリハビリを指導する理学療法士、作業療法士などの皆さん、
すばらしいなーと思います。
 自分の足で歩いたり、自分の口からご飯食べるって、大事なことですよね。

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2009.03.27

嚥下のリハビリ(その1)

 昨日の夜は「嚥下研究会」という学会に出席して話を聴いてきました。
学会、研究会はちょくちょく行くのですが、大体「アレルギー関係」か「感染症関係」が主です。
昨日は、初めてだったのですが、若い女の人が多いのでびっくりしました。
なるほど、介護やリハビリ関係の人が聴きに来るので、若い女性が多いんだー。
時代は、こういう方向なんだなー、と思いました。
 嚥下、リハビリ、ときいて思い出したのは
20年以上前に大学病院で受け持った患者さんのことでした。
 「オグラさん、この患者さんを受け持ってください。」
教授に呼び出されじきじきに頼まれたTさんは、ある耳鼻科の開業医の先生のお父さん。
もう80歳以上のご高齢です。
 主訴は「嚥下障害と誤嚥」つまり物をうまく飲み込めず、気管の方に入ってしまうのです。
 えー、嚥下障害、困ったなー。と、思いました。
当時、医者になってまだ3年目。
嚥下障害に対する知識も経験もなかった。
 「じゃあ、オグラさん、頼みましたよ。」
ウチの教授(当時)は、医局員をすべて「さん」付けで呼ぶ礼儀正しい人でした。
 患者さんはすでに2ヶ月前から、第1内科に入院しており、
いろいろ調べたけど、わかんないので耳鼻科へ、と廻されたのです。
 さっそく1内にいって、カルテを見せてもらいました。
「うわー、内科のカルテはいっぱい書いてあるなー。」
オペ記事主体の耳鼻科のカルテとはえらい違いだ。
 そこには身長体重から始まって、瞳孔、結膜、眼球運動から
皮膚、呼吸音、心音、腹部、各腱反射等々、ありとあらゆる所見が網羅されており
ページをめくると、血液、尿の検査が何ページにもわたってずらりと並んでいる。
そして心電図、レントゲン、CT、エコー・・・・ともかくあらゆる検査が列挙されていた。
良く、こんなにやったもんだ。
 病室に行って、Tさんの顔を見て、
これから耳鼻科に転科して私が診ますのでよろしく、と挨拶してきた。
 で、内科の前の受け持ちの先生に
「じゃあ、明日ベッド用意しときますから、お願いします。」
と言ったら、
「じゃあ、ストレッチャーでお迎えお願いします。」
とのこと。
「ん?この人、歩けないんですか?」
「はい。」
「何で?」
「何でったって、ハテ、何でだろう?ねえねえ、看護婦さん何でこの人歩けないの?」
 おいおい、冗談じゃねえ。
カルテの一番最初に
「Admssion on foot」って、書いてあるじゃん。(独歩にて入院って意味です。)
この、じいちゃんは、歩って入院したんだぜ。
検査、検査でずっと安静臥床してたので、歩けなくなちゃったんだ。
ったく、もう。
 今では考えられないが、当時の内科なんてそんなもんだった。
 よし、オレが何とか食えるようにしたる。
 その日から、手探りの嚥下障害治療が始まったのだった。
(つづく)

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