ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

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2008.12.21

子供の鼓膜チューブ留置術

 この1週間は、やたら子供の鼓膜切開とかチューブ留置手術が多かった。
 やはり、年内にナントカしたいという、お母さんとお医者さんの思惑が作用してんだろうなー。
特に、幼稚園児のチューブ留置が3件もありました。
 そういえば、トモキ君のお母さん、コメントありがとうございました。
勝手に書いちゃってスイマセンでした。
(バックナンバー『師走でおわす』参照)
 大学病院には、子供の中耳炎なんかほとんど来ませんから、
大きな病院の先生は、子供の中耳炎の実態がわかりません。
 私が、研修医で大学にいたとき、
以前全身麻酔で入れた子供のチューブが外来で抜けないので、
全身麻酔でとることになりました。
いくらなんでも、そりゃねーだろ、と思ったけど、
誰もあばれる子供のチューブを抜くことが出来なかったのです。
大学病院のレベルなんて、子供の中耳炎に対してはそんなもんです。
 私もその頃は、まだ何も出来ない研修医でした。
 やがて、何年もトレーニングをし、様々な耳鼻咽喉科の手術や処置の技術を身につけました。
大きな病院で、医長になり、たくさんの手術を術者としてやるようになりました。
チューブを入れるのも、かなり上手くなったと思っていましたが、
子供の手術はすべて全身麻酔でした。
 そんなある時、ある子供の手術をしました。
両方の耳にチューブを入れ、扁桃腺とアデノイドを切除する手術です。
ごくありふれた手術ですが、その時チューブを入れようと鼓膜切開してビックリしました。
 鼓膜はペナペナで中耳の向こう側に張り付いていて切開するのも大変です。
しかも、切開しても中耳にスペースがないので、チューブが入りません。
そう、まさにトモキ君と同じような鼓膜だったのです。
 私はそれまで、そんな鼓膜をみたことがありませんでした。
しかも、外来の診察では、それがわからなかったのです。
患者さんは、別の医療機関から手術目的で紹介されてきた子だったので、
ろくに、観察もせず、手術予定を組んでしまったのです。
 まことにお恥ずかしい話ですが、私はそのときの手術記録に書いた文章を覚えています。
「チューブが入れられるような鼓膜ではない。」
 今の私だったら、「全麻までかけて、何いってんだこのヘボ医者が。」と罵倒するとこです。
 あの時私にもっと技術があれば、と悔やまれます。
 その後、開業してまだ間もない頃、ある子供の診察をしました。
名古屋のほうの耳鼻科で中耳炎の治療をしていたが、引っ越してきたのでこちらで診てほしい、
ということでした。
両方の耳にチューブが入っています。
「どちらの病院で手術したのですか?」
「その先生のとこです。」
「外来で?」
「はい外来で、鼓膜麻酔で。」
 おー、こんな子供にも局所麻酔でチューブいれられるんだー、すげー。
正直、ビックリしましたし、また、自分でも考えていたことなので
何とかこの技術を身につけたいと思いました。
 そして、いろいろ、工夫、努力し、経験をつんで、 今ではすべての年齢の子供に
局所麻酔でチューブを入れられるようになりました。
 この技術のいいとこは、何より、外来で手術出来るので、
コストやリスク、時間、手間の面ではるかに有利です。
入院、全身麻酔となると、術前に採血、胸のレントゲン、心電図、術後は点滴です。
特に全身麻酔のリスクの高い0歳児などは助かります。
 もうひとつ、入れたチューブの管理もできます。
大きな病院で全身麻酔でチューブを入れても、
チューブがつまったり耳垢が固まってしまうと、処置が出来ません。
外来で、チューブ管理が出来れば、処置だけでチューブの状態を戻すことが出来ます。
 特に近年、滲出性中耳炎だけでなく、乳幼児の難治性、反復性の中耳炎に
チューブを入れると、ウソみたいに中耳炎を起こさなくなります。
 まあ、どんな子にも入れられる、といっても難しい子は難しいので
そういう手術の前は、かなりのプレッシャーです。
トモキ君のときは前の晩、夢見ちゃいました。
 あー、この子、やっぱチューブだなー、でも、あばれるし、大変そうだなー、
と思っていた患者さんの手術が終わると
「この子は、もうこれで大丈夫。」とほっとするのだが、
また少しすると、新手のツワモノが現れるんだよなー。

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2008.12.16

インフルエンザではありません

 さて、寒くなり、中耳炎の患者さんが増えてきました。
 「あー、T君の中耳炎の培養の結果来てますよ。えーと・・。」
 む・・・、一瞬つまる私。
 「あのね、T君の中耳炎、原因菌はインフルエンザ菌でした。」
 「えー、ウチの子、インフルエンザなんですかー。」
 と、驚くお母さん。
 ほら、来た。
だからやなんだよ、この菌、ナントカしてくれよ。
 あわてて説明します。
「えーとね、T君はインフルエンザじゃないです。
予防接種とかしてるあれね、あれはインフルエンザ・ウイルスで、これはインフルエンザ菌なんです。全く別物です。」
 そう、中耳炎の起炎菌として、常にランキング・ナンバー2の座を守ってるインフルエンザ菌、
名前が同じなので、いつもインフルエンザ・ウイルスと間違われるので
説明が、厄介です。
 何故、こんなことになったかというと、
もともと「インフルエンザ」という病気は恐ろしい感染症として古くから知られていました。
しかし、その原因は不明でした。
19世紀になり、細菌学が発達した時に、
いろいろな感染症は細菌によってもたらされるということがわかってきました。
 そこで「インフルエンザ」の病原体探しが始まったわけです。
そして、インフルエンザの患者さんから大量に検出されたグラム陰性桿菌が
インフルエンザの病原体だろうとして「インフルエンザ菌」と名づけられてしまったのです。
 インフルエンザの病原体はインフルエンザ・ウイルスですが、
当時は細菌よりずっと小さい「ウイルス」という存在が知られてなかったのでした。
 このことを説明するのに大変な労力を要する。
おまけに、最近は「BLNAR」という、抗生剤に耐性を持ったインフルエンザ菌も増えており、
これの説明にもかなりの時間を食う。
 ちなみに、中耳炎の起炎菌の1位は「肺炎球菌」ですが、これも、
「えー、ウチの子、肺炎なんですか?」
というお母さんに、肺炎も起こしますけど、中耳炎も起こすんですよ、と説明しなきゃなんないし、
この肺炎球菌にも「PRSP」という耐性菌が増えている。
 しかも、この1位、2位の菌で子供の中耳炎の原因菌の8割以上を占めるのだ。
 毎日毎日、繰り返し、たくさんの人に説明してる。
あー、めんどくせえ。
 昔(今もいるかも知れんが)J2のどっかのチームに
「小野シンギ」という選手がいたが、この人も
「いや、小野シンジじゃなくて小野シンギです。」などと、苦労しただろーなー。
 まったく、このインフルエンザ菌、ナンカ別の名前に代えてくれませんかー。
 そーいえば、中耳炎の起炎菌ランキング3位の「モラクセラ・カタラーリス」は
10年位前までは「ブランハメラ・カタラーリス」と呼ばれてたのだが、なぜか学名が変わったのだ。
こっちは、別に変えなくても困ってなかったんだが・・・。
 ちなみに、インフルエンザそのものの語源はラテン語の「影響」という意味の単語
英語では「インフルエンス」ですね、そっから来てます。
これは、この病気の原因を昔の人が、天体や寒気の「影響」と考えたことに基づくといわれてます。
ご参考までに。

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2008.12.16

冬の聴診器

 今朝は寒かったですねー。
イヌの散歩に行ったら、一面霜が降りてました。
 寒くなってくると、朝イチの診察前にちょっとした準備をします。
 それは、聴診器を暖めておくこと。
 耳診て、口診て、鼻を診て、そして咳が出てる子なんかの時は、胸に聴診器を当てますよね。
 夏場は、いいけどこの季節、聴診器も朝は冷えてます。
胸に当てられて、ヒヤッと冷たいのは嫌なものです。
 そこで、一工夫。
 聴診器を普段首にかけてるお医者さん、多いですよね。
私も、使わない時は首にかけたまま診察します。
 その時、聴診器の胸に当てる部分だけを、白衣の胸ポケットに入れとくのです。
私の体温で、温まってるので、患者さんは胸に当てられてもヒヤッとしません。
 これ、実は、私のオリジナルではなく、他の先生のアイディアです。
以前、医学雑誌のコラムかなんかに書いてる先生がいて、
お、これいただきっ、と思ったわけです。
 ま、ちょっとしたことなんですけど、
以前は手でこすったり、口で「はーっ」って暖めたりしてたんですが
これ、かなりいいアイディアですよね。
何よりシンプルなとこがいい。
 このブログをお読みで、まだやってない、お医者さん、看護婦さんがいたら、是非お試しあれ。
 ただ、やってみるとわかるけど、ちょっと慣れが必要です。
 というのは、聴診器は普通右手で持ちますから、
聴診したあとそのまま首にかけると、胸に当てるところは自然に右側に来ます。
ところが白衣のポケットは左側。
 だから、聴診したあと左に持ち替えて首にかけないと上手くいきません。
いまだに、年中かけなおしてます。
 左利きのお医者さん、もしくは右にもポケットがある白衣なら問題ないか。
(そんな、作業着みたいな白衣はいやだが・・・。)

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2008.12.10

A美ちゃんの瞳

 日を追うごとに、街はクリスマスムードが高まっていきます。
街路樹のイルミネーション、お店のショウ・ウインドウ、テレビのコマーシャル、子供たちの会話。
 私は、この年の瀬の雰囲気、大好きなのですが、
毎年、この時期に思い出す、心の中にトゲのように刺さってるチクチク痛い思い出があります。
 今からもう15年も前、私がまだ、病院の耳鼻科医長として勤務医だった時代のことです。
 A美ちゃんは、もう2歳になるのに、まだ1回も立った事はありません。
立ち上がるどころか、起き上がることも、寝返りすら出来ません。
 彼女は全身の筋肉が次第に萎縮して動かなくなる難病でした。
生まれた時から、NICU(新生児集中治療室)を一歩も出たことがありません。
 知的発達は阻害されません。
次第に成熟していく精神の中で自分をどう捕らえてたのでしょう。
 私とA美ちゃんの出会いは、小児科からの依頼でした。
呼吸や栄養管理のため鼻からチューブが入ったA美ちゃんは、
寝たきりのこともあってしばしば中耳炎を起こしたのです。
 白衣を脱ぎ、消毒薬で入念に手を洗ったあと、
ガウンに着替え、帽子をかぶってマスクをつけNICUに入ります。
新生児のクベースがたくさん並ぶ中、A美ちゃんのベッドは一番奥にあります。
部屋中で鳴っている心電図のモニター音をかいくぐるようにして、
A美ちゃんのベッドに向かいます。
 中耳炎の処置は痛いものです。
しかも、A美ちゃんは、緑膿菌や、MRSAといった、
抗生物質の効きにくい菌が原因となることが多かったのです。
生まれた時から、咳や痰が上手く出せないため、しばしば気管支炎や肺炎になり
抗生物質を繰り返し使っていたためです。
 治療は、長引き、私は毎日のようにNICUに往診しました。
 A美ちゃんは、外に出たことが無いので肌は真っ白です。
そして、真っ黒い髪と、冬の夜空のような澄んだ大きな瞳が印象的でした。
何回か通ううちに、私の姿が見えると、また中耳炎の治療をされるとわかり、
私が、ベッドサイドに立った時には、もう大きな目からは涙があふれそうです。
 顔の筋肉も動かないので、顔をしかめたり、泣き顔を作ることはありません。
もう、呼吸筋の働きも衰えたので、人工呼吸器を使っていますが、
眼球を動かす神経は最後まで、傷害されないので、
目だけがあちこちキョロキョロ動きます。
 顔の表情は、全く無いのですが、その分、目の表情が豊かです。
 ああ、俺を見てまた怯えている、痛いことされて怒っている、
 目が雄弁に物語っています。
 俺のこと大キライなんだろーなー。
 やがて、反復する中耳炎のコントロールのために、私が両耳にチューブを入れる手術をしました。
その時も、怯えていたけど、その後はおかげで中耳炎のほうはだいぶ良くなりました。
 数ヵ月後、小児科の先生からまた依頼がありました。
 今度は、呼吸管理のため彼女に気管切開をして欲しい、というものでした。
 人工呼吸器を使うため、鼻から気管までチューブが挿入されていたわけですが、
やはり長期の呼吸管理のためには、首の前の部分に穴を開けて、
そこから気管に人工呼吸器をつないだほうがいろいろ具合がいいからです。
 「気管切開ですかー。うーん。」
私は思わずうなってしまいました。
気管切開の手術自体は、よく、内科から依頼があり、ベッドサイドで行うことは珍しくありません。
高齢や、肺の合併症、ガンの末期などの患者さんの呼吸管理に、気管切開をしばしば行います。
 しかし、子供となると、ほとんど経験がありません。
ましてA美ちゃんは、2歳といってもサイズはほとんど赤ちゃんと同じ。
手術中なんかあったら、即、生命にかかわります。
モノの本には
「乳幼児の気管はウドンのごとく細く、やわらかいため、しばしば視診、触診にても術中の指南が困難である。」
なんて、書いてあります。
 でもやるしかない。
「じゃあ、やりましょう、その代わり念のために麻酔科の先生にスタンバイしてもらっててください。」
 それからというもの、毎日毎日、その手術のことが心配でした。
昼飯食ってても気になります。
特に、お昼にウドンなんか出るとなおさらです。
その頃、薬剤師のF君とよく職員食堂で一緒にお昼を食べてました。
 「・・・ウドンかー。」
 「先生、そのウドン、どうかしましたか。」
 「いや、細いなーと思って・・・。」
 「そうですか?(ずるずる)そーいや、このウドン、あまりコシがないですね。
 まあ、病院の食堂のウドンじゃ、(ずるずる)こんなもんでしょう。」
 「コシねー、そう、コシがあると指でわかるから、いいんだけどねー、この箸くらいあればなー。」
 「(ずるずる)・・・へっ?」
 やがて、手術当日。
緊張で、手が震えそうだったけど、何とか麻酔科の助けも借りず、無事手術は成功しました。
 ほっとしていると、数日後、また小児科の先生から。
 「先生、カニューレが上手く入んないんで見てください。」
 気管切開したあとには、首の穴が閉じないように、
気管切開孔にツバ状のものがついたカニューレという短いチューブを入れておきます。
そこに人工呼吸器のチューブをつなぐのです。
カニューレは定期的に交換して消毒しなければなりませんが、入れるのにちょっとしたコツがあり、
特にA美ちゃんは小さいので、小児科の先生には交換が難しかったのです。
 「わかりました。今度から私がやります。」
 ということで、また私のNICU通いが始まりました。
中耳炎の処置ほどではありませんが、やはり彼女にとっては多少の痛みを伴ういやな時間です。
 往診に行くたびに、彼女の視線の攻撃を浴び続けました。
 秋が過ぎ、冬が来て、クリスマスが近づいてきました。
 私のいた病院は、大きな病院だったので、養護学校が併設されていました。
 毎年、クリスマスの日に事務員の一人がサンタクロースの扮装をし、
小児病棟と養護学校の子供たちにプレゼントを配る、ということが我々の病院の恒例になってました。
 その年、私は事務長にお願いしました。
「今年、是非僕がサンタ役やりたいんですけど。」
「うーん、お医者さんがやったのは前例が無いですよ。」
「いや、そこを何とかお願いします。」
「まあ、いいでしょう。」
「じゃあ、その日手術が3件あるので、1件目が終わったらすぐ来ますので。」
 ということで、クリスマスの日、一つ目の手術が終わって、あわただしく一旦手術室を飛び出します。
「センセ、早く、早く。」
小児病棟の婦長さんが待ってました。
生まれて初めて、サンタの格好をします。
「うーん、お腹になんか入れたほうがいいわねー。」
お腹にそこらへんにあったクッションを突っ込んで、いざ出陣。
 まずは、小児病棟へ。
 「わー、サンタだ、サンタだー。」
やっぱ、サンタはもてるなー。
「わー、サンタ、耳鼻科のオグラ先生だー。」
「わー、耳鼻科だ、耳鼻科だー。」
ま、メンは割れてるんで・・・。
 そして、NICUへも行きます。
赤ちゃんはまだ、サンタはわかんないけど、一緒にいるお母さんがうれしそうです。
 そして、部屋の奥のA美ちゃんのところへ。
 A美ちゃんはそれまで、ベッドを回るサンタを目で追っていましたが、
そばに行ってサンタの私の顔を間近で見たとき、一瞬、A美ちゃんの目の様子が変わりました。
 明らかに、あっ、このサンタは・・・、と息を呑む様子が見て取れました。
 「しまった、やっぱり、わかっちゃったな。まずかったかなー。」
 しかし、次の瞬間です。
突然、彼女の瞳に喜びの光が輝きました。
笑顔を作ることができないはずの彼女が、ぱっと満面の笑みを浮かべたように見えました。
A美ちゃんの大きな瞳が、冬の澄みきった星空のようにキラキラと輝きだしました。
部屋のあちこちで鳴っていた、心電図のモニター音が、一瞬、すべて聞こえなくなったような気がしました。
    「メリー・クリスマス!」
 ああ、サンタ、やらせてもらって、ホント良かった。
涙を浮かべたお母さんにも、何度も何度もお礼を言われました。
     
 ・・・・その後、病院を離れたのでその後の彼女の消息は知りません。
経過した年月、病気の予後を考えると、もう、天に召されているでしょう。
 今でも、夜空を見上げると、吸い込まれるような彼女の瞳を思い出します。
 今年も、クリスマスがやってきます。
    すべての子供たちに、素敵なクリスマスが来ますように。

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2008.11.26

点滴パーラー

 今朝のNHKのニュースで、東京で点滴専門のクリニックがサラリーマンに人気、
なんてのをやってました。
 映像では、受付のカウンターにきれいなお姉さんがいて
「今日は、何になさいますか。」
などとニコニコしながら訊いてくる。
そーすっとサラリーマンが
「今日は、首から肩が疲れてるので、その辺に効くやつを・・・。」
なんて、オーダーすると、
「かしこまりました、こちらへどうぞ。」
なんつって、別室で点滴してくれる、というもの。
 もちろん、お医者さんが、診察してオーダーをしてるらしいけど
全部を診てるわけではない。
保険診療では、ありえないから当然これ自由診療だと思いますが・・・、
 ちょっと、ヤバくないですか。
 まず、医療行為としての意味が無い。
ビタミン剤なんか打ったって、そんな元気になるわきゃないし。
せいぜい効果があるとすればブドウ糖でしょうが、そんなもん飴でも舐めときゃいいわけだ。
二日酔いの、脱水の時は、かなり効果的だと思うけど
サラリーマンが昼休みの15分の間点滴しても・・・?
その分、昼寝でもしたほうが、よっぽど健康にいいぞ。
 大体、そんな細かいオーダーに対応する注射薬なんか無いですよ。
 しかも、ブドウ糖なら原価はそれこそ砂糖水ですからたかが知れたもの。
それをおそらく数千円はとってやってるんでしょうから、まさに「水商売」ですね。
 まあ、効果としては
「体に針を刺して、薬を入れたぞっ。
高い金払って、痛い思いをしたんだから飲み薬よりはよっぽど効くだろう。」
という、まさに自己暗示。
 付け足しとしては、きれいなお姉さんに優しい言葉をかけてもらって、
10分ちょっと、安静にしていた、いうことくらいですか。
(これだけは、効果的かも)
 しかし、世に注射好きの人はいるようです。
 ウチも開院当初、診察のあと、注射を希望する方が結構いるのでビックリしました。
正直申しますと、開院当初、患者さんの数も少なく、経営も心配だったので
「注射してください。」
と、いわれると、しょうがないなー、でも患者さんが満足するし、
ウチも儲かるからいいや、とやってた時期がありました。(ゴメンナサイ)
 しかし、さすがに良心が耐え切れず、じきにやらなくなりました。
 ご本人が考えるような効果や意味のないことを説明し、
注射、点滴をやらないで帰っていただくということにしました。
 この、説明が時間がかかり、わかっていただくのが大変なんすけどねー。
ホントに、点滴したほうが、楽で、儲かるんです。
 大体、世の中に「風邪の注射」なんてもんはありません。
栄養なんて、末梢の血管からはいくらも入りません。
ビタミン剤、ブドウ糖、効果がないわけではありませんが、
口から食べられてれば、まず意味がありません。
風邪に抗生剤の点滴なんて、もってのほかです。
 もちろん、扁桃周囲炎なんかで、当院で点滴する方はいますが、
それは風邪ではない特殊な例です。
 元気がでる注射なんて、それこそヤバイでしょう。
ステロイド?、向精神薬?、それとも覚せい剤、ヒロポンですか?
 ともかく、風邪の一番いい、というか唯一の薬は自分の体の「免疫」です。
体の防衛反応の、抗体や、白血球の働き。
それを、最大限に発揮してもらうために、暖かくして寝ることです。
 でも、結構意味のない点滴を(それも保険で)やってる医者がいるんだなー。
院外処方みたいに、点滴した薬の内容を紙に書いて患者さんに渡さなければいけない、
って仕組みにすればいいのでは?
 で、話は当初の「点滴パーラー」ですが、
人の無知と弱みにつけ込んだ、あざとい商売だと思います。
集団感染かなんか、起こんなきゃいいんですが・・・。
 「水商売」なんていうと、水商売の人に失礼ですね。
スナックでは、ちゃんと入れたボトルの銘柄は(ともちろんその値段と効能?も)
お客さんがわかってるわけですから。
 でも、そもそも常識的に考えて、金払って肩こり治したいのなら、
マッサージ行くのがいいに決まってんじゃん。

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2008.11.01

耕さない農業

 先日、NHKのテレビ番組で「不耕起農法」を始めた岩澤信夫さんの話を紹介してました。
 「不耕起農法」とは、田んぼを一切耕さないで、稲を作る農法のことです。
 岩澤さんはこのメリットを発見し、長年にわたって広く日本全国に指導している方らしいです。
 そのポイントとは
「耕さないことによって、稲の本来持っている生命力を十二分に発揮させることが出来る。」
ということだそうです。
 簡単に言うと稲が野生化し、根が強く張るようになり、台風などの災害に強く
また冷害などの気候の変化にもダメージを受けにくい。
最初のうちは、確かに収穫効率が悪いが、やがて従来と同程度の収穫が得られる。
害虫に強く農薬が少なくてすむので、環境にも非常によろしい、というものです。
不耕起農法の田んぼには、タニシなんかがいっぱいなんだそうです。
 しかし、最初は「田んぼを耕さないで大丈夫なのか?」「農薬を使わなくて大丈夫なのか?」
と、一般には受け入れられず、ずいぶん苦労されたそうです。
 それが、1993年の冷害の年、従来の稲がほとんど穂をつけなかった一方、
不耕起農法の稲は立派に穂を実らせていたそうです。
 私はこの番組を見て、うーん、このジジイ、やるなー。と大変感動したのですが、
ふとあることに気づきました。
 ・・・ナンカ、この話、昨日の抗生物質の話にちょっと、似てませんか。
 人間は本来、免疫力といって、病原体に対して戦う力を持っています。
そういう力を獲得することによって、何百万年も生き抜いてこられたのです。
 そして、個人個人は生まれてから、いろいろなこの世の病原体と自ら戦うことによって
その免疫を獲得していくわけです。
小さいとき風邪を引いて熱を出しても、それによって経験値が上がり
病原体に対して、戦う武器を手に入れられるのです。
 人間は、本来治る力がある。
だから、お医者さんは病気を治してるのではなく、治る道筋を示すに過ぎません。
 その治癒力を発揮できる状況を作ってあげるのが、医者の仕事でしょう。
 それを、いらない抗生物質を使い続けたために、返って薬の効かない耐性菌をつくり
病気の治りを悪くしてる、なんてバカみたいです。
田んぼは耕さなければいけない、発熱には抗生物質を使わなければいけない、
という、誤った妄信が、稲を、人間をかえって弱いものにしてしまった。
 稲なら、まだ毎年造るからいいけど、人間の体はつくり直しが利きません。
 人間は、自然を自分の都合よくコントロールしようとすると、必ずしっぺ返しを食うようです。

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2008.10.31

オレもかつてはバカ医者だった

 寒くなって、風邪引き増えてきましたねー。
ウチの病院に、例えば滲出性中耳炎とかで通院中の子供が風邪を引いたとします。
「さて、どんな具合でしたか?」
「実は、先週の水曜日、熱を出しまして・・・。」
 (どきっ、高まる不安)
「それで、近くの小児科に行きまして、薬もらいました。」
 (あー、行っちゃんたんだー。)
「ど、どこ、行きましたか?」
「×○小児科です。」
 (あちゃー、よりによってあそこかよー。)
「で、どうなりました?」
「風邪って言われて、抗生物質が出て、おかげで熱が下がりました。」
 (不安はいよいよ頂点に・・・。)
「み、診てみますか。」
 不安は的中し、鼓膜が破れ耳だれが出ていた。
「あのね、風邪の時は抗生物質は効かないし、そもそもこの子は普段から耐性菌でてるから
こういう抗生剤飲むと、返ってバイ菌が元気になっちゃうのよ。」
熱が下がったのは、急に菌が元気になって、鼓膜破っちゃったからです。
(まったく、セフゾンなんか飲ますかよ、今どき・・・。
セフゾンは15年位前に出た抗生物質で、その抗菌力と味のよさで売れに売れましたが
使いすぎで、今はほとんどの菌に効きません。
ブドウ球菌に効くので、とびひの治療には今も使われるようですが・・・。)
 近年、耐性菌の増加で、こんなケースは良くあります。
 風邪の時は、熱が39度あっても40度あっても、それだけでは抗生剤を投与しない、
ってのは、いまや常識です。
 しかし、この間久しぶりに来た患者さんの昔のカルテを見ました。
もう、10年以上前の診察録です。
私の字で咽頭の所見が書いてあり
「おそらく、ヘルパンギーナ。」
との、コメントがあり、処方欄に抗生物質が4日間書いてある。
 「あー、オレもバカ医者だったんだなー。」
 毎年のように新しい抗生剤が出る、「抗生物質バブル」の頃に卒後教育を受けた我々は
風邪の本体は「ウイルス」で、抗生物質は無効、と知りながら
「念のために・・・」などと、せっせと抗生物質を処方していました。
 10年位前、新規の抗生物質の開発が行われなくなってから、
次第に、薬の効かない「耐性菌」増えてきたのです。
 5~6年前から「このままでは耐性菌だらけになり、薬が効かず大変なことになる」
と、研究者や学会で問題になり、抗生物質の適正使用が叫ばれ始めました。
 10年前は、それが常識だったとしても、抗生物質を安易に使って
世の中に耐性菌を増やしちゃった責任の一端はオレにもあるなー、と反省したわけです。
まったく、お恥ずかしい。
 数年前から、風邪の熱で抗生剤を処方しなくなって、
正直最初は、ちゃんと熱が下がるか不安だったんですけど、
ちゃんと下がるんですねー、これが。
 かつては、医者も母親も、抗生剤を飲んだから下がった、と思ってたのが、
まったく、幻想だったわけです。
中には、返って今回みたいに悪化しちゃうことも、少なくないし・・・。
 だから、そこらへんの小児科も、もっとがんばってよ。
(いや、もちろん、この街にも、そういうすぐれた小児科の先生もいますけどね。)

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2008.10.28

新ユニフォーム登場!

 当院にこられてる方は、もうご存知と思いますが、
今月はじめから、職員のユニフォームが新しくなりました。
 今回は胸のリボンがポイントで、患者さんの評判も上々です。
PA070072_ks.jpg
PA070069_ks.jpg
 キャビン・アテンダント風ですか?
 ユニフォームは定期的に変わってますが、決めるのはスタッフです。
カタログを見ながらみんなでよってたかって、ああだ、こうだと相談してるらしいです。
 基本的に院長は関与しません。
女の買い物には、口を出さないのが無難です。
実際に着る人が気に入ったのを着てもらいたいし、正直どういうのがいいのか良くわかんない。
そもそも、私がカタログ見ても、モデルの女の子しか見てないし・・・。
「先生、こういうのどうですか?」
「うーん、こういうのタイプじゃないなー。」
「こっちはどうですか?」
「うーん、外人はなー。ちょっとなー・・・。」
「先生、何見てんですか(怒)。」
 てなわけで、最近は、最後に「これに決めますけどいいですか。」と訊かれて
「はい。」というだけです。
 でも、これが、あとで値段きくと、結構高かったりするわけだ・・・。
金払うのはこっちなのに・・・。
オレの、白衣の何倍もする。(涙)
 最近は、値段はきかないようにしてます。
まあ、スタッフが楽しく仕事して、患者さんが癒されてくれればいいんですから・・・。
 でも、今回のは患者さんが
「制服、変わったんですね。かわいいですね。」
との、コメントが多く、かなり評判がよく「ヒット」みたいです。
まだ見てない方は、是非一度「ナマ」でご覧ください。
・・・もっとも、具合が悪くなんなきゃ、病院にゃ、来ないわな。

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2008.10.08

恐怖のシュミット

 昨日、我がバンドのドラマー、皮膚科の野口先生が、昼休みに鼻の治療に来ました。
詳しくは、こちらを参照。http://ameblo.jp/noguchimikimasa/
 この「シュミット」という治療、正式には「上顎洞穿刺洗浄」といいます。
上顎洞という、ほっぺたの裏側にある骨に囲まれた空洞、
ここに膿がたまるのがいわゆる「蓄膿症」です。
 そこに鼻のほうから針を刺して、膿を抜いて中を洗うのがこの治療です。
 その時使う、ボールペンの芯くらいの太さ(!)の針を「シュミット式探膿針」というのでこう呼ばれるわけです。なんせ、骨を破るので痛い治療です。
 しかし、これが、効くんだわ。
 これでしか治んない、ってことも結構あります。
 実は、私昔これで悩んだことがあります。
 医者になって2年目の時、ある地方の病院に勤務してた時のことです。
 そこはベテランの部長の先生と2人で耳鼻科をやってたのですが、
ある時午後の外来で、いつも部長先生がシュミットをしていた患者さんが私のとこに回ってきました。
まだ、2年目で技術に自信のなかった私は
「シュミットかー、やだなー。」
と思いつつも仕方なく、その患者さん(5~60歳くらいのおばさんだった)にシュミットをしました。
「イタタター、センセ、痛い、痛いよ。」
「そうですかー・・・。」
「こんな痛かったことないよ。(怒)」
「・・・・。」
私の技術が未熟だったせいで、患者さんに痛い思いをさせてしまいました。
終わったあと、患者さんが受付の女性に何か話をしていました。
きっと「もう、あの若い先生には回さないでください。」といってたに違いない・・・・。
 その後、その患者さんのカルテは必ず部長先生のとこに回るようになり、
その患者さんの診察のときは、私は横で診察しながら絶対目が合わないようにしてました。
 私は、ひどく傷つき、また、情けない思いでいっぱいでした。
 「・・・・ナントカせねば。」
 いろいろな教科書や専門書で調べまくりました。
いまいちわかったようなわかんないような・・・。
そこで、大学にいった時に医局の先輩たちにやり方のコツや注意点を訊きまくりました。
先輩の先生がやるときには、じっと見ていてやり方を盗みました。
いろいろ自分でも考えて、やり方を工夫しました。
 その甲斐あって、次第に何となく要領がつかめてきました。
 その後、大学病院に戻ったとき、当時手術室の婦長さんだった人を診察しました。
その方は長年の蓄膿でかかっていましたが、以前シュミットをされてすごく痛い思いをしたので
その後その治療を拒否していました。
「婦長さん、こりゃ、やっぱりシュミットした方がいいみたいです。」
「いやよ、痛いんですもの。」
「でも、このままでは手術ですよ。」
 ということでシュミットすることになりました。
「ちょっと、我慢してくださいねー。」
「あら、そんなに痛くないわ。先生、上手ねー。」
 いやー、うれしかったですねー。
 それ以来私は婦長の専属の「シュミット係」になってしまい、
病棟担当で外来番でない時も、婦長の鼻の調子が悪いと、
指名がかかって外来に呼び出されました。
 おかげで、医局でも一番シュミットが上手になりました。
 ・・・とはいいうものの、やっぱ痛いシュミット、そうなる前に早めに耳鼻科にかかりましょう。
 ところでウチの子供たちに
「きょう、野口先生が来てさー、鼻に穴あけたんだぜ。」
といったら、
「えー、野口先生、ついに鼻にピアスあけたのー。」
と、びっくりしてました。
モヒカンで、鼻ピの医者、そりゃ、こえーわ。

 

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2008.09.19

就学時検診のトラブル

 お昼休みは、南小の就学時検診。
 出かける前に、看護婦さんに、器具の準備をしてもらいます。
「替え玉、はいってるね。」
「はいはい、入ってますよー。」
替え玉とは、光源の予備ランプのことです。
 今年も100人以上の、来年小学校に上がる子供たちの検診に行きました。
 幸い、今の時期は、風邪引きや花粉症もさほど多くなく、元気な子が多いので
検診にはもってこいです。
 毎年、就学時検診の時は、お母さんも一緒に保健室に入ってもらって
かんたんな話を聞きます。
 お母さん方の、ちょっとした疑問にもお答えできますし、逆にこちらから尋ねたいこともあります。
 また、子供さんの症状によっては、その場でお母さんに簡単なアドバイスや注意をするだけで
わざわざ、耳鼻科に受診してもらわなくてもすむことも多いからです。
 そんな感じで、順調に検診がすすんできたところ、突然、ヘッド・ランプのライトが消えました。
 「あー、ちょっと待ってくださいね。」
出かける前に、ちゃんとランプの予備を確認していて良かった。
と、ランプの交換をしましたが、スイッチを入れても点きません。
 がーん、光源の機械そのものが壊れてしまった。
 ウチにかかったことがある方は、ご存知と思いますが、
耳鼻咽喉科は、最近は額帯鏡でなく、ファイバーによるヘッド・ランプを使います。
私など、もう20年前から額帯鏡使ってません。
 ハロゲンや、キセノン光源で、すごく明るく、便利です。
しかし、光源が壊れてしまっては、手も足も出ません。
 仕方なく、一旦病院に戻って、もうひとつの光源を取って、また学校に戻りました。
 いやー、新1年生の皆さん、ご父兄の皆さんには、ご迷惑をおかけしました。
ついでに、3時からのウチの外来にも、遅刻しちゃいました。
 しかし、まさか、光源そのものの予備なんて、持ってくわけないし・・・。
 ブラック・ジャックだってマントの下に、メスはいっぱい持ってるんだけど、
手術用の無影灯(手術室の天井から下がっている、でっかい電灯)は、持ち歩いてないもんなー。

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