ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

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2012.10.26

風邪は早めの対応が大事?


 風邪は早目の対処が肝心、
コレはマルかバツか?
 まあ、常識的にほとんどの人がマルをあげるでしょう。
 コレは、もちろんマルで正解です。
 じゃあ、
風邪をひいたので早目に病院を受診する、
コレはマルかバツか?
 さて、皆さん、いかが?
 実はコレは必ずしも正しいとは言えません。
 おいおい、医者がそんなこと言っていいの?
 そのわけを考えてみましょう。
 みなさんは、こんなジョークをご存知でしょうか。
 風邪の時、ほうっておくと治るまで3日もかかるが、
医者にかかるとたった72時間で治る。

 コレはかなり正しい。
 風邪は基本的にウイルス感染なので、
風邪そのものの薬はない。
 熱を下げる薬や、咳を緩和する薬や、
痰を切りやすくする薬はありますが、
風邪を治すわけではない。
 風邪は体が病原ウイルスに対する抗体をつくって
ウイルスを身体から駆逐すれば治るので、
早くお医者さんにかかっても、
風邪が早く治ることはないのだ。
 もちろん、インフルエンザや、急性中耳炎などは、
治療が遅れると治るのに時間がかかるのは事実だが、
他の一般の風邪は早期に病院に来てもらっても
はっきり言ってすることがない。
 まあ、お子さんの場合など熱が中耳炎の場合があるので
よく中耳炎を起こす方は
耳などの症状が無くても、
受信していただいて
確認することは意味があります。
 特に小さいお子さんの場合は症状を自分から伝えることが
うまく出来ないので中耳炎を見逃す可能性があります。
 ただ、中耳炎がなく、鼻も咳もなければ、
高熱であっても特に薬を出すことはないので、
そのまま帰って様子を見ていただく。
 熱がなかなか下がらないとか、
一旦下がった熱が再び上がるとか
咳や鼻やその他の症状がヒドイようなら
また受診してもらうということです。
 困るのは大人の人で仕事休めないから、
点滴かなんかして早く治して欲しい、などという例。
 点滴神話は困りもので、
早いうちに点滴でもすれば風邪が早く治ると
誤解してる人が結構いるということ。
 風邪に効く点滴なんてこの世に無いですから。
 さて、最初の質問の解答です。
 風邪の時は早目の対処が肝心、
早目の対処とは病院に行くことでも薬を飲むことでもなく
あったかくして早く寝ること。
 免疫作用は眠っている時に最も有効に働く。
 それでも良くならなかったら、
お医者さんに行きましょう。
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4件のコメント
2012.10.23

鼓膜チューブ留置術に対するご相談

 こんにちは。
 ドクターおぐぐの「耳鼻科教えてコーナー」です。
(また名前変わってる?)
 こんなコメントを頂きました。


中耳炎で検索して先生のブログを拝見しました。
本当に悩んでいまして、お時間ありましたら、相談にのっていただけたらありがたいです。
今6歳の子なのですが、チューブを入れるかどうかで迷っています。
1歳の時に急性中耳炎で切開。その後、急性のたびに抗生剤で治し、2歳の時から滲出性になり現在まで、5~6回切開もしたり抗生剤だけで治したりときました。
夏場は1ヶ月くらいは大丈夫な時期もあるのですが(この前の冬場は2ヶ月くらい大丈夫でした)、風邪をひくとまた水がたまって濁ってきます。その度に、軽い時は漢方で、ひどい時は最近はオゼックス、ジスロマックを飲んだりしています。先日の急性の時はオラペネムを飲みました。
チューブは、かかりつけの外来で出来ると言われていますが、うちでは大人も子供も大きい太いのを入れます、と。またチューブを取った後に、穴がふさがらなくなることもまあまああります、と言われ、穴をふさぐ手術は外来では出来ず転院して入院して手術になります、と言われて、チューブを入れることにためらいがあります。
このまま中耳炎の度に抗生剤を飲むことにも抵抗がありますし、かと言ってチューブ取った後の穴が残ったままになったらどうしよう、、、という不安もあります。
長々となってすみません。


 ご心配のご様子です。
 いつもそうですが、実際に診察していないので
あくまで参考までにお読みいただきたく。
 これは、おそらくチューブを入れるべきです。
 1歳から急性中耳炎をおこし、2歳から滲出性中耳炎で
しかも軽快してる時間がほとんど少ない。
 このままいくと、鼓膜が傷んでしまい、
後遺障害を残す可能性が心配です。
 滲出性中耳炎の状態は痛みなどの症状はありませんが、
鼓膜には常に負担がかかっており、
長年の間には鼓膜が次第に変質してくることがあります。
 ぴんと張った太鼓の皮のような鼓膜が、
薄っぺらになって、伸びたパンツのゴムみたいな
テロテロ、ヘナヘナな状態になってしまう事があるのです。
 こうなってしまうと滲出性中耳炎の本体である
耳管機能不全が改善されても鼓膜が正常に機能しなくなります。
 耳管機能は年齢とともに改善しますが、
鼓膜がダメになっちゃうと難聴が残ります。
 チューブは当院でも子供でも大人と同じ大きさのモノを入れます。
 0歳からすべて手術は局所麻酔です。
 小さいチューブを試したこともあったのですが、
閉塞や脱落で使い物にならなくなることが多くやめました。
 ご心配の鼓膜穿孔は、数パーセントの割でやはり発生します。
 当院では閉鎖しないものは小学校高学年になるのを待って、
外来で閉鎖術を行います。
 外来で閉鎖しないものは入院で手術することもありますが、
あってもごく少数だと思います。
 穿孔は手術でふさげますが、
ペナペナになった鼓膜は、一生治りません。
 まあ、あくまでワタシの考えであって、
しかも、診てないので、中耳炎の程度や鼓膜の状態などわかりませんので、
結論は主治医の先生とよく相談してお決めになられるのがいいと思います。
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2012.10.05

ガテンがいかず


 「ためしてガッテン」というNHKの番組がある。
 地上波をほとんど見ないワタシとしては、
結構見てる番組である。
 料理の話と健康の話が大半を占めるが、
先日は「耳管開放症」がテーマであった。
 こっちとするともう話のネタはよーく知ってる話なので、
いつもとは違った立場で番組を見ることになった。
 印象は、意外にも
回りくどい、わかりにくい、誤解を招き易い、
表現だったので、びっくりした。
 考えてみれば、事実を淡々と説明したのでは
視聴者の興味を引くことができないので、
わざとわかりにくく「謎の~」とか
「耳鼻科医も知らない~」とかの表現をつけ、
 「耳が全く聞こえなくなることがある」
とか
「巨大耳あかが脳に浸潤して命にかかわる」
などといった
センセーショナルな話で脅かそうとする。
 巨大耳あかとは「真珠腫」のことで、
確かに全く間違ってるとは言えないが、
普通の耳あかとは全く別モノだし、
鼻すすり型耳管開放症から脳内に浸潤するような真珠腫ができることは、
ほとんど全くまれである。
  その昔、みのもんた氏のお昼の番組で、
いろいろな疾患にテーマを定めてとりあげる番組があった。
 たいがい、学会では聞いてこともないような、
怪しげな医者(?)が出てきてショッキングなコメントをし、
会場のオバサンたちに悲鳴や歓声をあげさせるのが目的の
粗悪な番組であった。
 プロがみればあきれるような内容なんであるが、
当時、ウチの死んだバアちゃんなどは、結構見ていた。
 食事中などにふいにバアちゃんが
「○○って怖いんだってねー。」
などと言い出すと、
「また見たな、あの番組見ちゃダメっていってるでしょ。」
とたしなめるのだが、
またこっそり見ていて、
見るとどうしても人に言いたくなって、
また言って、
内容が内容なので、すぐバレてまた注意される、なんて事をしてたなあ。
 さすがにあの番組はヒドかった。
 ただ今回、専門家として招かれていた東北大耳鼻咽喉科の小林教授は、
人間的にも学問的にも大変立派な先生で、
間違いなく耳管開放症については日本の第一人者であり、
ワタシも何回も講演を聞いたことがあるし、
実際に当院から患者さんを紹介して耳管開放症の手術をお願いしたこともある。
 多分、放送局の意向であんな演出になり、
ご本人もある意味、心外なのではなかろうか。
 民放地上波はハナから信用がおけないが、
天下のNHKがあれでは困るなあ。
 今回の「ガッテン」も間違ったことを言ってるわけではないが、
真実がちゃんと伝わっているかは疑問である。
 耳管開放症については、以前当ブログで解説したので、
その辺知りたい方はこちらをご覧ください。
 ちょうど2年くらい前のブログです。
↓クリックしてお読みください。
耳管開放症の中島美嘉さん
耳管開放症の治療
 そう思ってみると、ワタシがふんふん、へえー、と思いながら見ている、
耳鼻科以外の他科の疾患の話も、
ある程度歪曲された話も多いのだろうかと、
けっこう不信感を持ったりしちゃいます。
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2012.10.03

突発性難聴の話

 エレファントカシマシとかいうバンドのヒトが
突発性難聴で休業だそうだ。
 実はこのバンド名前以外はほとんど全く知らないんですが、
突発性難聴について少しお話をします。
 突発性難聴はある日ある時突然に片耳の聞こえが悪くなる病気で
原因は不明です。
 というより、原因不明のものにこの病名がつきます。
 原因が分かっているものは「騒音性難聴」とか
「ウイルス性難聴」とか「薬剤性難聴」の病名がつくわけだ。
 難聴と同時に耳鳴りがおこり、
場合によっては難聴が自覚されず
耳鳴りだけが唯一の症状である場合も
少なくありません。
 音を感じ取る神経細胞の障害で
感音性難聴に分類されるが、
その中では比較的治ることの多い疾患です。
 程度は様々で、ごく軽度の難聴から
ほとんど聾になってしまうものまであります。
 頻度的には比較的多く、
当院のような個人の診療所でも週に何人かは初診の方がいます。
 原因は不明ですが、
治療はほぼ手順が決まっており、
中心となるのはステロイド剤です。
 通常は内服で経過を見ますが、
場合によっては入院加療をすることもあります。
 治り方も様々で、
薬もなにもなくても治っちゃう人もある一方、
どんなことをしても聴力が回復しない人がいます。
 4割は完全治癒、3割は改善、残り3割は聴力の改善なし、
と言われますが、ワタシの感触ではもっと治癒率は高い印象です。
 まあ、開業医には救急車で搬送されるような重症例が少ないので、
全体としてはこんなものかもしれませんが。
 確実に言えることは、
発症から治療開始が早いほど治る確率が高く、
逆に1ヶ月以上経過したものは一般的には治りません。
 植木鉢のお花がしおれた時点で水をやると復活しますが、
完全に枯れてしまうと戻らない、
という感じです。
 めまいを伴う例もあり、
めまいにとらわれて内科、脳外科などで治療を行い
耳鼻科的な診断が遅れると難聴が残ってしまう場合があります。
 もちろん当初の内耳のダメージが強く、
早期からきちんとした治療をしても
聴力が戻らない方もあります。
 人間の体の様々な組織は再生能力がありますが、
神経細胞は再生しないので
一旦死んでしまうともう戻らないのです。
 ステロイドが奏功しない場合は高圧酸素療法や
星状神経節ブロックなどの補助的療法を追加することもありますが、
あくまで補助的療法であって、
これやれば絶対治る、
という治療法は今のところありません。
 浜崎あゆみさんや元ウインクの相田翔子さんも
突発性難聴だったときいています。
 ただ、今回のエレファントカシマシの方は
入院して手術までされたとか。
 突発性難聴の手術ってあまり聞いたことないのだけれど、
何やったんでしょうか?
 ワタシが不勉強なだけなのか?
 ともかく、お大事に。
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2012.09.20

今夜のライブはギターなしで


 北朝鮮飯店のライブが終わっての連休は翌週の学会の準備。
 昨日行われた研究会での発表原稿をまとめていたのだ。
020_20120920194243.jpg
 会場は足利市民プラザ小ホール。
 ここは、オーディオメトリーで一回、CRPで一回ライブをやったことがあるなあ。
 でも今日はギターは無しです。
028_20120920194242.jpg
 今年のスギ・ヒノキ花粉症と来年の展望について
マジメに 講演して参りました。
 でも、最後はこんなスライド出したりして。
029_20120920194242.jpg
 終了後の懇親会、他の先生方と「まつむら」さんでお食事。
 実は、ここの娘さん、今年何と群馬大医学部に合格!
ワタシ(と妻の)後輩となったのだ。
047_20120920194242.jpg
 せっかくですので写真に入ってもらう。
 おめでとうございます。
 「まつむら」さんも昔から良く美味しいお料理をごちそうになっていますが
娘さんの方も風邪ひくとウチかかったりして良く知ってるのだ。
 足利出身の、しかも知り合いが後輩になるとは
こちらも大変ウレシイです。
 良いお医者さんになってください。
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2012.09.19

ニューキノロン系の薬剤について


 コメント欄にいただいたご質問にお答えします。
(質問の内容は右コメント欄をクリックしていただけると読めます。)
 高齢者にいきなりニューキノロンを使うのは最終手段だ
の論拠ですね。
 そのコメントは、おそらく単純に年齢と原因菌いうより
高齢者とニューキノロンとの関わりで述べられたものではないでしょうか。
 青カビから発見されたペニシリンを端緒とする抗生物質は
セフェム系、マクロライド系など様々なグループがありますが、
基本的に土壌の微生物が産生する天然の物質をもとにしています。
 一方ニューキノロン系と呼ばれる薬は人工的に合成された薬で、
抗生物質と同じく抗菌薬ではありますが合成抗菌薬と呼ばれます。
クラビット、ジェニナック、オゼックスなどが代表的です。
 主として腎排泄が多く尿路感染症でのみ用いられていたキノロン剤ですが
1980年代初頭に従来のキノロン剤から抗菌力、抗菌スペクトルが
飛躍的に進化したバクシダールが発売され
ニューキノロン系と呼ばれるようになりました。
 ちょうどワタシが医者になった頃の話です。
 ニューキノロン系の特徴は高い組織移行性と
広い抗菌スペクトル、そして高い殺菌能力です。
 その一方で発疹、胃腸症状などの通常の抗菌薬にある副作用の頻度も比較的高く、
ニューキノロンに特徴的な血糖値異常や関節毒性、
横紋筋誘拐症や腎不全などの時に重篤な副作用も報告されています。
 症例を選んで使えば切れ味は鋭いが、
なんでもかんでも使うべきではない薬です。
 抗菌スペクトルの広さから通常は内服では殆ど効かない
緑膿菌などの耐性菌にも有効です。
緑膿菌は弱毒菌なので健常者に感染を起こすことは稀ですが、
耳鼻科領域では慢性中耳炎と外耳道炎では常に主要な原因菌です。
 とびひは夏場の子供に多い病気ですが原因菌は主として黄色ブドウ球菌です。
通常はセフゾンなどがよく効きますが
最近耐性ブドウ球菌によるとびひをとこどき見ます。
 耳鼻科は培養を取るので、
たまたま、皮膚科でなかなか良くならなかったとびひに対し、
原因菌を特定し、皮膚科の先生にニューキノロンの使用を推薦したところ
軽快して感謝されたことが何回かありました。
 空気のないところで発育する嫌気性菌というグループの細菌があります。
ニューキノロンはこの手の菌にも有効です。
これも通常はあまり遭遇しませんが
耳鼻科領域では慢性副鼻腔炎の急性増悪や扁桃周囲膿瘍では原因菌になる場合が少なくありません。
特に副鼻腔内は薬剤の移行が悪いので組織移行性の高いニューキノロンは有効です。
 マイコプラズマは乳幼児には少ないですが、
学童期から大人、老人までの咳の風邪としては常に念頭におくべき疾患です。
通常のペニシリン系、セフェム系の抗生物質が効かないので、
クラリス、エリスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質が用いられてきました。
 ただ、近年、というよりこの2,3年マイコプラズマに
このマクロライド系の抗生物質が急速に効かなくなってきてしまいました。
現時点で耐性率は7割超とも言われています。
 ニューキノロンはこのマイコプラズマにもよく効くので
マクロライドでコントロールできない場合の2次選択薬として有用です。
 しかし、現時点でニューキノロンを第1選択で用いるべきではないでしょう。
マイコプラズマは確定診断が難しく疑い例で治療を行うことがほとんどです。
 そもそもマクロライド系が効かなくなった背景には
マクロライド系抗生物質の不適切な使いすぎがあります。
 マイコプラズマが多くは自然治癒する病気である事を考えれば
ニューキノロン剤は最後の手段として温存しておかねばなりません。
 そんなわけで、その先生の真意は、
確かにニューキノロンはよく効く薬であるが、
 そのニューキノロンが効かなくなると手の打ちようが無くなる場合があり、
ことに老人の場合には肺炎などの時に致命的な感染症の例があるということ。
 そして、ニューキノロンそのものが持つ
重篤な副作用を惹起する危険性を常に考慮する必要があること。
 この2点を踏まえて発せられたコメントではないでしょうか。
 つまりもっと診断力を磨け、ということでしょうかね。
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1件のコメント
2012.09.10

野性の証明


最高気温は連日30度超えであるが、
朝晩の気温は徐々に下がりつつある。
 朝、犬の散歩にいくと
最後のミンミンゼミが過ぎゆく夏に
必死にしがみついているかのように啼いている。
 犬のリードを持つ背中に感じる朝陽に夏の名残りの温度を感じつつも、
頬に当たるわずかな冷気は明らかに秋のそれである。
 そして耳鼻科の外来の様子もほのかにに秋の気配を感じさせる。
 真夏によくなってしまう鼻炎や耳管狭窄症、中耳炎などが
再びジワリと増えつつある。
 人間の体には気圧や気候の変化に対するセンサーが備わっている。
 この気圧の変化が耳の不快感として感じられている。
 環境や生活が完全にコントロールされた現在では
ほとんど意味がないが、
まだヒトがケモノだった頃は
気圧や天候の変化は場合によっては個体の生死を分けるほど
重大な問題だったはずだ。
 気圧の低下は天候の悪化の前触れであり
野生動物にとっては一刻も早く知りたい情報である。
 世代間のDNAの伝承という気の遠くなるような回数の
積み重ねによって獲得した機能は、
その後ヒトという生物の生活態度の変化により
その機能の必要性の減少によって
表に出ることがなくなったものの、
それでも遺伝子の箪笥の奥の方に折り畳まれ仕舞われている。
 目や耳と言った特定の感覚器ではなく、
体のいろいろな部分からそれを感じ取っているのだろう。
 例えば食べ物の味が味覚の神経だけでなく、
嗅覚や触覚、温痛覚などの総合的感覚として
知覚されるように、
複数のセンサーが重なりあって知覚していると考えられる。
 皮膚や消化器およびそれ以外の未知のセンサーと共に
鼓膜の張力(聴力ではなく)は確実にその一役を担ってると考えられ、
耳管狭窄症の人や耳管開放症の人などは
この時期になると不調を訴える方が多い。
 鼓膜の動きに対する気圧の影響だけでないことは、
鼓膜に穴が空いていて気圧の変化を受けないはずの人が
耳の不快感を訴えることでもわかる。
おそらく耳管などにもそのセンサーがあるのだろう。
 そして耳以外にも、めまいや消化器運動や、ホルモン分泌の異常、
抑うつ気分や不眠症にまで気圧の変化は影響を及ぼしているのではないだろうか。
 台風がくると喘息の発作を起こしたり、
雨が降ると関節が痛むなんてのも
古来のDNAに組み込まれたセンサーの遺残が働いているのだろうなあ。
 いわゆる「野生の本能」は言葉ヅラより
実はよっぽどナイーブなものだったりするのである。
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2012.07.26

急性乳突洞炎の話


 急性乳突洞炎についてのコメントをいただきました。
 ちょっと解説をしましょう。
 そもそも乳突洞とは何か?
 耳の後ろ側を触ると硬い骨を触れますが、
下側が円錐状にやや尖っています。
 この部分を乳様突起と言います。
 中は乳突洞と言われる空洞で蜂の巣のような小部屋に分かれているので
乳突蜂巣とも言います。
 鼓膜の向こう側、鼓室からつながる空気が入っているスペースです。
 急性中耳炎は鼻から耳管経由でバイ菌が入っって
鼓室で炎症を起こします。
 それがさらに「次の間」まで進展すると
乳突洞炎という事になります。
 ただしここまでバイ菌が入り込む事はそう簡単にはありません。
 むしろその前に鼓膜が腫れて激しい痛みや発熱があり、
鼓膜が自然に破れて耳だれとなって外に出てしまいます。
 外に出口がつけばバイ菌はどんどんそちらに流れて行きますので、
乳突洞に侵入することは少なく、
侵入したとしても周囲に進展せず、また流れ出ていきます。
 急性中耳炎の鼓膜切開はこのために行ないます。
 鼓膜が破れず、もしくは破れてもそこからの菌の排出より
中耳内での菌の増殖が多いと菌が乳突洞に侵入します。
 そこで化膿すると、耳の裏側が腫れて
耳介が立ってきたり、皮下に膿瘍といって
膿の袋を形成したりします。
 進展方向によっては、顔面神経麻痺や、髄膜炎、脳膿瘍などの
重症な合併症を引き起こすことがあるのです。
 今回のケースは一部脳膿瘍になっているとのことですから、
かなりの重症例といえます。
 実は乳突洞炎は急性中耳炎から続発して起こるものの、
急性中耳炎の患者数の圧倒的な多さから比較すれば
かなり稀な病態といえます。
 特に抗生物質が普及してからは激減しています。
 急性中耳炎が正確に診断されれば、
適切な抗生物質の使用によって
乳突洞炎に至ることはかなり防げます。
 かつてはこの病気の手術である
乳突洞削開術はそれ程珍しい手術では無かったようですが、
私自身この手術をしたことは1~2回?
それもずっとずっと昔の話です。
 多くは乳突洞炎になっても強力な抗生物質の点滴と鼓膜切開で
治癒に持って行くことができます。
 ただし、近年、抗生物質の不適切な使用によって、
急性中耳炎がきちんと診断、治療されないまま潜伏、
風邪や気管支炎の診断で経過を見るうち、
菌の耐性化により重症化し、
急性乳突洞炎に至る例があるとの報告があります。
 発熱の初期から抗生物質が投与されているために、
急性中耳炎や乳突洞炎も修飾されていて典型的な所見を欠く
「かくれ急性乳突洞炎」があるといわれています。
 抗生物質に頼り、急性中耳炎に対し鼓膜切開をあまり行わない
医者が増えた事も関係があるようです。
 コメントの方はきちんと診断もつき
大きな合併症もなく適切な治療が行われているようですので
一安心ですが、
今回の乳突洞炎が治癒した後も
風邪等をひけば急性中耳炎から乳突洞炎に至る可能性は
十分にありますので、注意が必要でしょう。
 原因菌としては肺炎球菌が多いです。
 急性中耳炎の原因菌としては
肺炎球菌とインフルエンザ菌が2大原因菌ですが、
急性乳突洞炎を起こすのは殆ど肺炎球菌だと思われます。
 近年、肺炎球菌はクラリス、エリスロマイシンなどの
マクロライド系抗生物質が殆ど効かなくなっていますので
注意が必要です。
 肺炎球菌ワクチンは予防効果があると思います。
(ただしこれは乳児期に接種するモノ)
 もちろんワクチンを打っていてもなる時にはなっちゃうので、
急性中耳炎をキチンと発見し、最後まで治療することが、
予防に対して不可欠であると言えます。
 どうぞお大事にして下さい。
 ドラム叩いてるお父さん(!)にもヨロシク。
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5件のコメント
2012.07.05

実は、アレでした。

 先週末、大阪までタイトなツアーを強行したが、
実はワタシ、健康に若干の問題を抱えていた。
 金曜日から何となく喉が痛く、
ああ、風邪ひいたかなあという気がしていたが、
夜もフツーにスイミングなど行っていた。
 土曜日になり嚥下痛が増し、
何となく身体もだるく首筋がいたい。
 嚥下痛は夏風邪だろうか、
首や身体のだるさは風邪のせいか
それとも昨夜のバタフライのやり過ぎなのやら、
何かわからず。
 念のためロキソニンを2錠、チケットホルダーに
忍ばせて出かけたが
大崩れもなく酒も飲んで夜行列車で翌朝帰宅。
 日曜日は自宅でブログを書いたりギターの練習したりして
おとなしく過ごしていたが、
寝台車でぐっすり寝たせいか体調はやや良くなっていた。
 しかし、夕方になり体のだるさ、嚥下痛はやや増加。
 首のぐりぐりが痛くなり、
なんか、体も痒い。
 まさかアルコール性の肝障害じゃ無いだろうなあ。
 うーん、マズイなあ。
 結局、夜はアルコールを飲む気にならず
夕食時はノンアルコールビールにした。
 さあ、もう今夜は早く寝ようと寝室に向かう途中
ふとある病名が閃光のように頭に浮かんだ。
 ああ、そうだ、そうだ、それだ。
間違いない、もう、そうに決まった。
 あらゆる状況が腑におちた。
 翌朝、アサイチで妻に頼んで
診察室で検査してもらう。
 やはり、ビンゴ!
 「溶連菌感染症」であった。
 毎日毎日、何人もこの診断してるのに……。
 
溶連菌感染症は通常、唾液等の接触で感染し、
空気感染は無く、飛沫感染も稀である。
 子供だと、高熱や発疹、イチゴ舌など、
派手な症状が出る場合もあるが、
大人は熱が出ない事も多い。
 そう言えば、この間、診察中、子どもさんのツバが
口に入ったような気がしたわ。
 オレいつもマスクしてないからなあ。
 ふだん、風邪の時には薬は飲まないワタシだが
溶連菌となれば、抗生物質を飲まねばならない。
 早速、朝からパセトシンを飲みはじめ、
夕方にはもう殆ど症状が改善しました。
 さすが、効くなあ。
 溶連菌感染症は風邪と違い細菌感染なので
ウイルス性の風邪よりはるかに症状は早く良くなるのだ。
 しかし、今後除菌のため
10ー14日程度抗生物質を飲み続ける。
 人にいうのは容易いが、
自分となるとメンドクサイなあ。
 一回飲むと一週間効果が持続する
ジスロマックなる抗生物質もあるのだが
ちょっとこれも問題あり。
 殆どの抗生物質が効いちゃう溶連菌だが、
ここ数年、見ていると
ジスロマックを含むマクロライド系の
抗生物質に限って薬の効かない耐性株が増えている。
 そんなわけで、教科書通り、
ペニシリンをコツコツ飲むのが無難でしょう。
 妻いわく
「レディアちゃんがご飯食べない時と
父ちゃんがお酒飲まない時はよっぽど具合悪いのよねー。」

 ・・・・お騒がせしました。
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5件のコメント
2012.06.19

急性喉頭蓋炎という病気

 ちょっと前に「ペリトン」すなわち「扁桃周囲膿瘍」のお話をしました。
読んでない人はクリックして参照⇒「扁桃周囲膿瘍の話
 いわゆるのどの痛みで、もう一つ重要な病気が
「急性喉頭蓋炎」です。
 喉頭蓋とは、のどの奥にあり口から飲みこんだ食物が
気管に入らないように蓋をする、
靴べらみたいな形をした軟骨板です。
 ここに感染がおきて腫れあがると、
患者さんは激しいのどの痛み、特に嚥下痛といって、
物を飲み込む時に強い痛みを感じます。
 通常は扁桃周囲膿瘍と同じく風邪症状から始まりますが、
やはり扁桃周囲膿瘍と同じく、手遅れになると死に至ることのある疾患です。
 ただ、扁桃周囲膿瘍との大きな違いは、
口をあーんと開けただけではワカラナイ、という点です。
 扁桃周囲膿瘍はその口の中の所見を見て、
内科の先生があわてて耳鼻科を紹介すると書きました。
 一方喉頭蓋は、のどのやや奥になるので、
普通に内科の先生がみても、そこまでは見えません。
 ちょっとのどが赤い位だなあ、
このヒトはおおげさなヒトなんだなあ、
と思ってしまう場合があります。
 で、適当に薬を出してそのまま帰すと、
数時間のうちに腫れあがった喉頭蓋が気道をふさぎ、
呼吸困難になったが救命間に合わず死亡、
などという事例が時々起きます。
 状態が悪化するまでの時間はペリトンよりさらに早い。
 扁桃周囲膿瘍が気道のスペースが広い部分での疾患であるのに対し、
喉頭蓋炎は気管のすぐ上の狭い部位での腫脹をきたすので、
短時間のうちにあっという間に窒息し致死的状況になってしまいます。
 救急外来でも耳鼻科の医師がいないと発見が困難なので、
しばしば医療訴訟になることの多い疾患です。
 耳鼻科医がみると外来ですぐその重症度がわかるので、
大事に至ることはありませんが、
内科の先生が診断するのは大変だろうなあと思います。
 この間来た患者さん。
 のどの痛みで内科の病院を受診し、風邪と言われ
点滴もしたが、嚥下痛が強く翌日朝、自己判断で当院を受診。
 普通にしゃべれるし、熱も高くなく全身状態も良好。
 大したこと無いのかな、と喉頭を見ると、
おお、急性喉頭蓋炎じゃあ。
 すぐ患者さんに説明し、紹介状を書いてその足で日赤に行ってもらう。
 即入院し、治療を開始してもらった。
 その晩、ちょうどカンファランスで日赤に行く用事があったので、
日赤の先生に、
「どうだった?」
 と、尋ねると、
「点滴でかなり強力に薬を入れたんですが、
腫れが強くて、やっぱり午後キセツしました。」
 との返事。
 「キセツ」は「気切」と書き「気管切開」の事である。
 ああ、やっぱりね。
 気管切開は窒息を防ぐためにのどを切って気管に呼吸路を確保する手術である。
 つまり、そのまま帰宅させたら死んじゃってたかもしれないわけだ。
 危ないところでした。
 よかったですね。
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