ひと夏の野球少年 第四話
さて、ピッチャーとして試合に臨むのは大変不安な状態になったが、
またまた事態は急展開となった。
ずっと練習をサボっていたユウスケが、
突然またやってきたのだった。
最初から練習はかったるいので試合だけ出るつもりだったのか、
監督や関係者が直接彼に復帰を説得したのかは分からない。
だが、これで助かった。
監督から、ピッチャーは彼で行く、と発表。
どーぞ、どーぞ、ワタシに異存はありません。
そして迎えた本大会。
1回戦の相手は抽選の結果、通6丁目に決まった。
いやー、こりゃあ、ダメだ。
「通6」のエースはイエズミくん。
ワタシの親友であったが、ともかくスポーツ万能。
その後、中学では野球部のキャプテン、エースとして大活躍する男だ。
ほかにもチーム内は野球経験者が多く優勝候補の筆頭であった。
ワタシは、ファーストに戻され、
なぜか打順は4番を打つように言われた。
そして、試合が始まった。
打席に立つが、なにせイエズミくんはサウスポー。
左投手の球をバッターボックスから見るのは初めてだ。
そして速球はもちろんカーブも投げられる。
たぶん、ワタシはノーヒットだったと思う。
守備のほうでも、ずっとピッチャーの練習をしていたので、
ファーストの守備練習などほとんどしていないため、
プレーもぎこちなく、エラーも多し。
どうせファーストやるならファーストミット
誰かに借りておけばよかった。
スコアは覚えていないが、完封負けだっただろう。
その後「通6」は順当に勝ち進んで、前評判通り優勝した。
閉会式の時の夕陽が、
雲の切れ間から旭日旗のように見えたのを鮮明に記憶しているが
その後、慰労会で食べさせてもらったはずの「かつ丼」が、
美味しかった記憶はまったくない。
何となく、もう少しやりたかったような気持になったのが
我ながら不思議であった。
すべてが遠い記憶のかなたである。
今でも、ほんとにこの自分がグローブはめて
野球の試合をしたことが信じられない。
しかも、ピッチャーまでやってしまったとは。
そんなわけで小学6年生、1971年の夏、
ひと夏限りの野球少年は、
夏休みの後半、普通の少年に戻って、
その後やり残した宿題の山に取り組んだのだった。
蛇足ながら、この年、台風23号が
8月29日深夜、過去最大級の勢力で鹿児島県に上陸。
30日から31日にかけて大阪から東海、関東地方をかすめるように進み、
9月1日に本州の東で温帯低気圧に変わった。
近づく台風の中で、台風情報を聴きながら。
宿題を懸命にやった記憶はかなり残っています。
完

