ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2021.08.24

イベルメクチンは新型コロナの特効薬なのか?

イベルメクチンとは、もともと家畜用の寄生虫の治療薬。

それが、人間に対しても

回旋糸状虫によるオンコセルカ症、

フィラリアによる象皮病などに効くとのことで

中南米、アフリカ、東南アジアなどの

寄生虫流行地域で駆虫薬として広く用いられて来たクスリです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わが国でも「ヒゼンダニ」というダニが原因の

「疥癬」という病気に治療薬として用いられ、

皮膚科の先生にはおなじみのクスリのようです。

ワタシは使ったことがありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このクスリが新型コロナウイルスに対して効果がある、とされ、

とくに南米など寄生虫流行地域で用いられ、

今、世界各国でクスリの有効性を確認する治験が行われています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有効だとする論文もあるいっぽうで、

効果なしと判定する論文もあり、

今のところ有効性については確証はありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに有効だとする論文の中には、

査読を受けていない論文、観察研究

などのエビデンスレベルが低い論文が多く、

データ捏造の疑いのあるものもあるようなので、

注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

査読とは、論文が学会誌に投稿された場合、

その内容に対し、専門家、研究者が評価、検証を行うことです。

一流の科学雑誌はきちんとした査読をして

パスしたものが掲載されますが、

雑誌によってはその辺が甘いものもあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作用機序的には、

核内への運搬蛋白とウイルス蛋白との結合を阻害することにより、

ウイルスによる自然免疫抑制作用を解除する。

これにより自然免疫による抗ウイルス作用が発揮される。

とありますので、

クスリがウイルスを殺すわけではなく、

また、タミフルなど抗インフルエンザ薬のような、

ウイルスの増殖を直接抑える薬でもないので、

作用機序としては間接的といえます。

有効であったとしても

劇的な効果は期待できないようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このクスリに対し、いわゆる反ワクチン主義の人たちは、

これがあればワクチンなど不要、と息巻いていますが、

どうやら残念ながらそこまでのクスリではないのは確実です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点ではアメリカのNIH(国立衛生研究所)、

発売元の製薬会社、およびWHOは

このクスリの新型コロナに対する有効性は確認されていない、

としています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有効性については今後の大規模治験、

RCT(ランダム化比較試験)の結果を解析せねばなりませんが、

現況ではなかなかムズカシイ。

RCTとは集団にランダムに実薬とプラセボを与え、

その効果を比較するものです。

大変にお金と手間がかかります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、新型コロナウイルスが、そもそも

「ほとんど自然治癒する」病気なので、

かえってクスリの効果を判定するのが困難です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分も、自分の友人もこのクスリ飲んで、治った、

はエビデンスゼロで、

昨日2人で下駄をとばしたら2人とも表が出たので

ほらみろ今日はこんなに晴れたのだ、

という理屈と大差ありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 100人投与してみんな治った、重症者がゼロだった、

というレベルでも、

実は何の証拠にもならないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前、パーキンソン病の治療薬である

「シンメトレル(一般名アマンタジン塩酸塩)」

という薬が、A型インフルエンザのみに効果あり、

とのことで実際に使われたことがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時は細胞内に侵入したインフルエンザウイルスの

M2タンパクに作用し脱殻という増殖過程を阻止する

という作用機序によって効果が認められました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、効果の面と副作用の面から

実用的なクスリとは言い難く、

ほどなく開発された「タミフル」が

A型のみならずB型インフルエンザを含め、

大きな効果と安全性を示したので

次第に使われなくなり、

さらにその後、急速にウイルスの耐性化が進んだ結果、

英国などでは「インフルエンザに使ってはいけないクスリ」になり

現在はほぼ全く使われていません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このようにある目的で開発された薬が

別の病気に使われることはままあり、

代表的なものはもともと解熱鎮痛剤のアスピリンが

その抗血小板効果により、

抗凝固剤、すなわち血液サラサラのクスリ

として使われていることは有名です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、シンメトレルの場合は、話が逆で

もともとインフルエンザのクスリとして開発されたが、

パーキンソン薬としての方が有用だったので

そちらで使われていたが、

20世紀後半、インフルエンザの流行により、

やむなく使われていた、ということでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、イベルメクチンの話を聞くと

何となく、このアマンタジンのことを思い出すのですが、

アマンタジンに代わったタミフルのような特効薬が

出るのはまだ先のようなので、

いまのところワクチン接種が

一番確実で安全な方法であることは間違いないようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安価で、副作用が少ないようなので

「試しに併用する」ということはありかもしれませんが、

これだけに頼るのは今のところ危険です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、このクスリが効くという情報で、

買い占められ価格が上がったり、

高額で売買されるなんて言う話もあるようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカではこのクスリが品薄なので、

もともとの家畜用のイベルメクチンを自己判断で内服して入院さわぎになる、

というケースがあるようで、

FDA(アメリカ食品医薬品局)はツイッターで

「あなたは馬じゃない、牛でもない、本気で皆さんやめてください」

と個人での服用をやめるよう呼びかけているそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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