ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.11.29

オラペネムが効かなくなったら


 みなさんこんばんは。
 お馴染み「耳鼻咽喉科Q&A」のコーナーです。
 今日はコメント欄に2つも質問もらっちまって、
まあ、早いもん順に行きますね。


おぐぐー先生、はじめまして。私は5歳と1歳の男の子を育てている母親です。子供は二人とも保育園に通っています。下の子が今年の5月(8ヵ月)で急性中耳炎を発症て以来、先生のブログによく訪れるようになりました。今日は先生に質問があり、初めてコメントさせていただきました。長文、大変申し訳ないのですが、一読いただけると幸いです。
下の子は11月まで13回も急性中耳炎を繰り返しています。9月には両耳にチューブを入れました。チューブを入れた後も6回急性中耳炎にかかっています。最初に急性中耳炎になった時にサワシリンを処方してもらったのですが、サワシリンを飲んでアレルギーを起こし、10月までメイアクト、フロモックス、バナン、テラミロン(トミロンのジェネリック品)とセフェム系の抗生物質を飲み渡り、ついにセフェム系の抗生物質が全く効かなくなったので、11月にオゼックスを飲み始めました。いったんは良くなったのですが、1週間もたたない間に再発し、2回目のオゼックスを1週間飲んで、一昨日ようやく耳だれが止まったばかりです。
かかりつけの耳鼻科医には、オゼックスが効かなくなったらあとはオラペネムしか治療薬がない。オラペネムが効かなくなったら、もう耳だれをとめる事ができないと言われました。
そこで先生に質問なのですが・・・
(1)オラペネムが効かず耳だれを止める手段がなくなってしまった場合、耳はどうなるのでしょうか。
(2)抗生物質は必ず使わなくては治らないのですか。他に治療法はないのでしょうか?
(3)一度効かなくなった抗生物質は二度と使えないのでしょうか?
お忙しい所大変申し訳ありません。このコメントが先生の目にとまってくれることを切に願っております。


 コメントありがとうございます。
 ま、そりゃ、目にとまりますに決まってますが。
 なかなか、大変ですね。
 まず最初の質問にあるように
オラペネムが効かず耳だれを止める手段がなくなってしまった場合、耳はどうなるのでしょうか。
 これ、心配ですね。
 耳だれ止まらないと慢性中耳炎、という事ですね。
難聴が残り耳漏が続きます。
 将来手術が必要になり、手術しても聴力は正常化しない場合も少なくありません。
 そりゃ、困る。
 でも、多分、大丈夫。
 そうならないために耳鼻科に行ってるわけですから。
 次の質問にも合わせて、ちょっと考えてみます。
 まず、オラペネムも効かなくなるともう手は無いのか、
というところです。
 おそらく、この方の場合、主治医の先生は耳漏の培養を取ってると思います。
 それによって、これが効く、効かなくなってきた、
などと感受性検査を見て抗生剤の選択をしてるわけで、
これは正当です。
 薬もペニシリンアレルギーなので、
メイアクト、フロモックス、バナン、トミロンなどを使った、
というのもうなずけます。
 ただ、これらはすべて同じセフェム第2世代なので、
菌の感受性も似ており、
メイアクトが効かなければ、まあまずそれより弱いバナンなんかは効かないでしょう。
 今回、伝家の宝刀オゼックスの働きで耳漏停止したとのことで、
ひとまず良かったですね。
 で、オゼックス、オラペネムが効かなくなった場合です。
 この方はチューブが入ってる、というところがポイントです。
 菌検査でもしタリビッドに感受性があれば、
耳鼻科に通院しタリビッド点耳による耳浴(洗浄)をしてもらうのは手です。
 点耳は穿孔の無い鼓膜につけても意味がありませんが、
チューブが開いてれば中耳に薬液を入れることができます。
 ただし、耳だれの上からぽたぽた垂らしても、
中耳には入りませんし、かえってあっという間に耐性化します。
 必ず、耳鼻科で顕微鏡下に耳漏を吸引してもらったうえで、
チューブの穴を通って行くように点耳しなければ有効ではありません。
 これによって耳漏のコントロールができる場合があります。
 いや、そんなことはもうやってる、とか、
もし、点耳薬がすべて耐性だった場合はどうしましょう。
 この場合は、生理食塩水で洗います。
 もともと我々の体には菌と戦う力があるので、
条件が良ければ抗菌薬なんかなくたって耳漏は止まります。
 ばい菌が減って、中耳粘膜が抵抗力を回復し
自力で処理できるくらいになれば、
耳だれは止まってきます。
 もともと耐性菌というのは遺伝子を変異させてる分、
菌自体の増殖力は一般の菌より弱いものです。
 抗生剤づけにすると、ライバルの菌がいなくなるので、
残った耐性菌が縄張りを広げることができるのです。
 だから、抗生剤が効かなくなってきた時、
思い切って抗生剤をやめちゃう、ってのはとこどきやる手です。
 いつの間にか感受性菌が耐性菌を駆逐して、
以前効かなくなった抗生剤ですんなり治る、という事もあります。
 幸い、肺炎や髄膜炎と違い、中耳炎の場合はチューブさえ入ってれば、
耳だれ以外の症状は無く、危険もありません。
 それでも止まらない場合。
 チューブを、抜きます。
 チューブはしょせん、異物です。
 チューブの周りに細菌がバイオフィルムをつくって、
いわゆる「ばい菌のすみか」になってる場合があるのです。
 以前、総合病院で中耳炎の治療をし良くならないで全身麻酔で両耳にチューブを入れ、
それでも耳だれが止まらず、お手上げだと言われた幼児が来ました。
 何回か治療して菌の感受性などを確認したうえで、
チューブを抜去して洗浄を続けたらきれいに治りました。
 耐性菌の問題は日々我々を悩ませている問題です。
 もともと、風邪などの抗菌薬のいらない患者さんに、
むやみに抗菌薬を出したことによる一種の医原性疾患です。
 これが効かなければ、さらに強い薬を、
という西洋医学的な考え方がもたらした「ひずみ」だと思っています。
 薬や治療でで病気を治すのではなく、
いろんな方法で体にとって治りやすい環境を整えてあげる、
ってのが医者の仕事かなあ、と日々考えています。
 医者が病気を治すのではなく、
患者さんが勝手に治っていく道すじをつける、
というのがワタシの医者としての持論です。
 ええと、あと一つの質問は、またあとで。
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