ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.09.19

ニューキノロン系の薬剤について


 コメント欄にいただいたご質問にお答えします。
(質問の内容は右コメント欄をクリックしていただけると読めます。)
 高齢者にいきなりニューキノロンを使うのは最終手段だ
の論拠ですね。
 そのコメントは、おそらく単純に年齢と原因菌いうより
高齢者とニューキノロンとの関わりで述べられたものではないでしょうか。
 青カビから発見されたペニシリンを端緒とする抗生物質は
セフェム系、マクロライド系など様々なグループがありますが、
基本的に土壌の微生物が産生する天然の物質をもとにしています。
 一方ニューキノロン系と呼ばれる薬は人工的に合成された薬で、
抗生物質と同じく抗菌薬ではありますが合成抗菌薬と呼ばれます。
クラビット、ジェニナック、オゼックスなどが代表的です。
 主として腎排泄が多く尿路感染症でのみ用いられていたキノロン剤ですが
1980年代初頭に従来のキノロン剤から抗菌力、抗菌スペクトルが
飛躍的に進化したバクシダールが発売され
ニューキノロン系と呼ばれるようになりました。
 ちょうどワタシが医者になった頃の話です。
 ニューキノロン系の特徴は高い組織移行性と
広い抗菌スペクトル、そして高い殺菌能力です。
 その一方で発疹、胃腸症状などの通常の抗菌薬にある副作用の頻度も比較的高く、
ニューキノロンに特徴的な血糖値異常や関節毒性、
横紋筋誘拐症や腎不全などの時に重篤な副作用も報告されています。
 症例を選んで使えば切れ味は鋭いが、
なんでもかんでも使うべきではない薬です。
 抗菌スペクトルの広さから通常は内服では殆ど効かない
緑膿菌などの耐性菌にも有効です。
緑膿菌は弱毒菌なので健常者に感染を起こすことは稀ですが、
耳鼻科領域では慢性中耳炎と外耳道炎では常に主要な原因菌です。
 とびひは夏場の子供に多い病気ですが原因菌は主として黄色ブドウ球菌です。
通常はセフゾンなどがよく効きますが
最近耐性ブドウ球菌によるとびひをとこどき見ます。
 耳鼻科は培養を取るので、
たまたま、皮膚科でなかなか良くならなかったとびひに対し、
原因菌を特定し、皮膚科の先生にニューキノロンの使用を推薦したところ
軽快して感謝されたことが何回かありました。
 空気のないところで発育する嫌気性菌というグループの細菌があります。
ニューキノロンはこの手の菌にも有効です。
これも通常はあまり遭遇しませんが
耳鼻科領域では慢性副鼻腔炎の急性増悪や扁桃周囲膿瘍では原因菌になる場合が少なくありません。
特に副鼻腔内は薬剤の移行が悪いので組織移行性の高いニューキノロンは有効です。
 マイコプラズマは乳幼児には少ないですが、
学童期から大人、老人までの咳の風邪としては常に念頭におくべき疾患です。
通常のペニシリン系、セフェム系の抗生物質が効かないので、
クラリス、エリスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質が用いられてきました。
 ただ、近年、というよりこの2,3年マイコプラズマに
このマクロライド系の抗生物質が急速に効かなくなってきてしまいました。
現時点で耐性率は7割超とも言われています。
 ニューキノロンはこのマイコプラズマにもよく効くので
マクロライドでコントロールできない場合の2次選択薬として有用です。
 しかし、現時点でニューキノロンを第1選択で用いるべきではないでしょう。
マイコプラズマは確定診断が難しく疑い例で治療を行うことがほとんどです。
 そもそもマクロライド系が効かなくなった背景には
マクロライド系抗生物質の不適切な使いすぎがあります。
 マイコプラズマが多くは自然治癒する病気である事を考えれば
ニューキノロン剤は最後の手段として温存しておかねばなりません。
 そんなわけで、その先生の真意は、
確かにニューキノロンはよく効く薬であるが、
 そのニューキノロンが効かなくなると手の打ちようが無くなる場合があり、
ことに老人の場合には肺炎などの時に致命的な感染症の例があるということ。
 そして、ニューキノロンそのものが持つ
重篤な副作用を惹起する危険性を常に考慮する必要があること。
 この2点を踏まえて発せられたコメントではないでしょうか。
 つまりもっと診断力を磨け、ということでしょうかね。
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