ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.07.26

急性乳突洞炎の話


 急性乳突洞炎についてのコメントをいただきました。
 ちょっと解説をしましょう。
 そもそも乳突洞とは何か?
 耳の後ろ側を触ると硬い骨を触れますが、
下側が円錐状にやや尖っています。
 この部分を乳様突起と言います。
 中は乳突洞と言われる空洞で蜂の巣のような小部屋に分かれているので
乳突蜂巣とも言います。
 鼓膜の向こう側、鼓室からつながる空気が入っているスペースです。
 急性中耳炎は鼻から耳管経由でバイ菌が入っって
鼓室で炎症を起こします。
 それがさらに「次の間」まで進展すると
乳突洞炎という事になります。
 ただしここまでバイ菌が入り込む事はそう簡単にはありません。
 むしろその前に鼓膜が腫れて激しい痛みや発熱があり、
鼓膜が自然に破れて耳だれとなって外に出てしまいます。
 外に出口がつけばバイ菌はどんどんそちらに流れて行きますので、
乳突洞に侵入することは少なく、
侵入したとしても周囲に進展せず、また流れ出ていきます。
 急性中耳炎の鼓膜切開はこのために行ないます。
 鼓膜が破れず、もしくは破れてもそこからの菌の排出より
中耳内での菌の増殖が多いと菌が乳突洞に侵入します。
 そこで化膿すると、耳の裏側が腫れて
耳介が立ってきたり、皮下に膿瘍といって
膿の袋を形成したりします。
 進展方向によっては、顔面神経麻痺や、髄膜炎、脳膿瘍などの
重症な合併症を引き起こすことがあるのです。
 今回のケースは一部脳膿瘍になっているとのことですから、
かなりの重症例といえます。
 実は乳突洞炎は急性中耳炎から続発して起こるものの、
急性中耳炎の患者数の圧倒的な多さから比較すれば
かなり稀な病態といえます。
 特に抗生物質が普及してからは激減しています。
 急性中耳炎が正確に診断されれば、
適切な抗生物質の使用によって
乳突洞炎に至ることはかなり防げます。
 かつてはこの病気の手術である
乳突洞削開術はそれ程珍しい手術では無かったようですが、
私自身この手術をしたことは1~2回?
それもずっとずっと昔の話です。
 多くは乳突洞炎になっても強力な抗生物質の点滴と鼓膜切開で
治癒に持って行くことができます。
 ただし、近年、抗生物質の不適切な使用によって、
急性中耳炎がきちんと診断、治療されないまま潜伏、
風邪や気管支炎の診断で経過を見るうち、
菌の耐性化により重症化し、
急性乳突洞炎に至る例があるとの報告があります。
 発熱の初期から抗生物質が投与されているために、
急性中耳炎や乳突洞炎も修飾されていて典型的な所見を欠く
「かくれ急性乳突洞炎」があるといわれています。
 抗生物質に頼り、急性中耳炎に対し鼓膜切開をあまり行わない
医者が増えた事も関係があるようです。
 コメントの方はきちんと診断もつき
大きな合併症もなく適切な治療が行われているようですので
一安心ですが、
今回の乳突洞炎が治癒した後も
風邪等をひけば急性中耳炎から乳突洞炎に至る可能性は
十分にありますので、注意が必要でしょう。
 原因菌としては肺炎球菌が多いです。
 急性中耳炎の原因菌としては
肺炎球菌とインフルエンザ菌が2大原因菌ですが、
急性乳突洞炎を起こすのは殆ど肺炎球菌だと思われます。
 近年、肺炎球菌はクラリス、エリスロマイシンなどの
マクロライド系抗生物質が殆ど効かなくなっていますので
注意が必要です。
 肺炎球菌ワクチンは予防効果があると思います。
(ただしこれは乳児期に接種するモノ)
 もちろんワクチンを打っていてもなる時にはなっちゃうので、
急性中耳炎をキチンと発見し、最後まで治療することが、
予防に対して不可欠であると言えます。
 どうぞお大事にして下さい。
 ドラム叩いてるお父さん(!)にもヨロシク。
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