ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.06.04

扁桃周囲膿瘍(ペリトン)の話


 耳鼻科では「ぺリトン」と呼ばれる、
正式名称は「扁桃周囲膿瘍」という病気がある。
 口蓋扁桃、俗に言ういわゆる「扁桃腺」が化膿して腫れ、
さらにその扁桃腺の裏側にバイ菌が入り込む。
 するとやがてそこに「膿瘍」という「膿の袋」が形成され、
扁桃腺の周囲がはげしく腫れあがるのだ。
 患者さんは猛烈な痛みで、食べ物はおろか、
自分の唾液も飲み込めなくなり、
しゃべることもできずよだれがだらだら。
 放置すれば膿瘍がさらに下にさがり頸部や胸郭に及ぶと命が危ない。
 もっとも、放置することは痛くて不可能なので、
耳鼻科に駆け込んでくるのだが。
 耳鼻科外来で扱う病気としては、かなり重症度が高い。
 時々、内科の先生がのどを見てあわてて耳鼻科紹介したりする。
 問診票に「のどが痛い」と書く人は多いが、
診察室に入って来た時の様子で、お、これは、と思う位の重症感である。
 まず、もごもご言って満足にしゃべれないので、
見当がつく。
 口を開けて「ああ、ぺリトンだね。」
とワタシが言うと、黙っていても看護婦さんたちがあれこれ準備を始める。
 扁桃周囲膿瘍の説明を患者さんにしてる間に、空の注射器が出てくる。
 そして口の中に針を刺して膿の貯留を確認する。
 患者さんに膿がたまってるから手術が必要ですね、
などと説明してる間にスタッフにより
手術用の手袋と11番のメスとカンシ等のペリトンセットが用意されている。
 そして、速やかにその場でメスで口腔内を切開し、膿を出してあげるのだ。
 もちろん、局所麻酔で患者さんはそのまま診察椅子に座ったままである。
 すると、膿盆に、だーーーーっと膿が出て、
中を洗浄しておしまい。
 通常2、3日は外来で抗生剤の点滴をするが、
これがあっちゅうまに良くなっちゃうんである。
 次の日は全く別人のようにニコニコした顔で外来にやってくる。
 大体は20代、30代のもともと元気なヒトに多い病気なので、
そのギャップはすさまじい。
 医者やってていろんな治療するけど、
ほとんどの病気が治るのは人間の(患者さんの)治癒力、免疫力だなあ、と思う中、
この病気と、魚の骨などの異物症は、
こりゃ絶対、オレが治したな、と思う病気である。
 あー、外科医でよかった、と思う瞬間である。
 ところで、このペリトン、教科書には書いてないが、
経験上ひとつの法則がある。
 それは、何故か続く、ということ。
 めったに来る病気ではないが、
一人来ると必ずと言っていいほどもう1、2人ペリトンのヒトが来るんである。
 別に伝染する病気でもないし、
花粉症のように季節的な要因が関係するわけでもないので
その理由は謎である。
 約2か月前に1週間のうちに3人来た。
 その前は半年以上なかったように思う。
 そして、先週木曜日にまた一人切開したのだが、
また今週同じ病気の人が来るんだろうか?
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