ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2009.09.06

ロックな大学生アルバイト~その3(最終回}「スポットの達人」


 それでも数日するうちに、何とか少しづつ体も慣れてきた。
 「サンヨー体操」もバッチリ覚えた。
 そんなころ主任に声をかけられた。
「おい、大学生、おめえ医学部だって?」
「はい。」
「毎年バイトが来るが医学部は初めてだ。なんだってバイトやってんだ。」
私は、父親が高2のときに急死して収入がないこと、奨学金もらって大学行ってることを話した。
車買おうとしてることは話さなかったけど。
「そーか、そりゃ大変だな。まあ、せいぜいがんばんな。」
「はあ。」
「そいじゃ、医学部、少し慣れたみたいだから、そろそろスポットやってみるか?」
 おお、やった、ラッキー。
 「スポット」とは「スポット溶接」のことである。
 溶接といっても、映画の金庫破りみたいに
あの鉄仮面みたいのを顔に当ててバチバチ火花を飛ばしてやるやつではない。
鉄板同士を重ねて足でスイッチを踏むと、上から餅つきみたいに機械が降りてきて
「バシュ!」といって一瞬で溶接される。
 まあ、でっかいホチキスみたいな感じだ。
 火花が多少飛ぶので、メガネをかけるが、
まあ、花粉症のときのメガネみたいに横にガードがあるが
プラスチック製で大げさなやつではない。
 実はかなりやってみたかった。
 一日中、鉄のお盆を運ぶのは、はっきりいってかなり飽きた。
 ラインにいるチャラけた感じのお兄さんはいとも簡単そうにバシュバシュ溶接して、
溶接するお盆がなくなるとどっかにタバコ吸いに休憩に行っちゃう。
 そして少しすると帰ってきてまた、たまったお盆をバシュバシュとあっという間に溶接していく。
 面白そうだし、楽そうだ。
 さっそく説明を聞いてラインに入ってやってみるが、
・・・・・こ、これが、思いのほか難しい。
 なかなか位置が決まんないし、決まったと思っても溶接の瞬間ずれちゃったリする。
まごまごしてると、自分の横にどんどんトレイがたまっていく。
「うおー、やっべえー。」
 全く休む間もなくやり続けるが、どんどんお盆がたまっていく。
「これならお盆運びのほうが、まだ休めたなー。」
あせって、泣きが入る。
 と、突然、あのチャラけたお兄さんがやって来て、
やにわにバシュバシュバシュバシュ・・・・・・。
黙って、あっという間にお盆の山を片付けてくれた。
「おおおお(驚きのため息)。あっ、ありがとございまっす。」
 以後我々はそのお兄さんをひそかに「名人」と呼んで尊敬した。


 さて、そんなこんなでファンヒーターのバイトの夏が終わった。
素ウドン食べてがんばったが、お金は思ったほど貯まらず、
学生と違って、社会でお金稼ぐって大変なことなんだと身をもって実感した。
ホント、その直後は自分は将来社会人になれるのかと不安になったくらいだった。
 それでもバイト代は教習所と車の購入資金にはかなり足しになった。
予算が厳しいので、教習所は気合を入れてオーバーゼロで卒研にも一発合格した。
なんせ、オーバーするとお金がさらにかかっちゃいますから。
 その後、秋から中学生、高校生の家庭教師のバイトを朝昼晩と3軒かけもちし
特に冬休みは入試直前ということでほぼ毎日家庭教師に通い、
バイト代を稼ぎまくって晴れて中古車を手に入れることができた。
 そのときの車はもちろんもうとっくにないけど、
あの夏の日々の思い出は、貴重な20歳の体験として、今でも鮮明に記憶に残っている。
きっと自分の人生に役立ってると思う。
 ただし、もう「サンヨー体操」は、すっかり忘れちゃったけど。
 それにしても、オレの作ったファンヒーター、ちゃんと支障なく使われたかなー。
事故なんて起きてなきゃいいけど。
しばらくはメーカーから電気製品のリコール、回収のお知らせが出るたび、ひやひやしたもんだ。
 あれから30年。
さすがに、もう、大丈夫でしょうな。

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