ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2009.01.19

ヒブ・ワクチンって何?

 今日かかったお子さんで、先日、小児科で予防接種をしました、という方がいました。
「何の予防接種でしたか。」
ときいたところ、「ヒブ(Hib)ワクチンです。」
との、ことでした。
 おー、ヒブ・ワクチンはじまったか。
 ヒブ(HIB)・ワクチンというのは
B型インフルエンザ菌(Haemophilus Influennzae TypeB)に対するワクチンのことです。
 インフルエンザ菌については、先日のブログでご説明しました。
2008年12月16日「インフルエンザではありません」参照。
 さて、ヒブ・ワクチンについて、またまた混乱と質問が来そうなので
説明しときますね。
 B型インフルエンザ菌とは小児の髄膜炎を起こす菌として大変重要。
欧米ではこのワクチンは多くは義務化され、公費で受けられるようになってるらしい。
日本では、昨年12月に発売されたばっかです。
まだ今のところ、個別、自費です。
日本は予防接種後進国なのです。
 もちろん、インフルエンザですので、インフルエンザ・ウイルスとは関係なく
よって、病気としてのインフルエンザにも関係ありません。
 と、ここまで来て、私のブログを読んでる人や、当院で中耳炎の治療をした子供のお母さんは
こう、思われるかもしれません。
「いつも、うちの子、中耳炎になるし、オグラ先生が原因はインフルエンザ菌だっていってた。
とすると、このワクチン打てば、中耳炎にならなくなるのかしら。」
 なるほど、デキるお母さんならばそう思うかも。
 しかし、残念ながら答えは「NO」です。
 実はインフルエンザ菌には大きく分けて2種類のグループがあります。
ひとつは細胞の周りに「夾膜(きょうまく)」を持つものです。
夾膜は、菌の周りを覆う物質でドイツ語では「Kapsel/カプセル」といいます。
この夾膜のタイプにいくつかあり、Bタイプの菌が髄膜炎や、急性喉頭蓋炎を起こすので問題になります。
これが「HIB」です。
 一方、夾膜を持たないタイプもあり、これが小児の鼻の中に常在し、
中耳炎や気管支炎の原因になります。
抗生物質が効くタイプと効かないタイプ(BLNARといいます)があり、
私がいつも「あー、このこの菌はインフルエンザ菌だね。」って言ってるのはこっちなわけです。
 だから「ヒブ・ワクチン」を打てば、髄膜炎は防げますが、
インフルエンザ菌による中耳炎には無効です。
同じインフルエンザ菌なんですが、別ものなんですね。
 メンドくさいですね。
去年の学会に行ったとき、中耳炎の講演者にこの事について会場で質問してる先生がいました。
 と、いうわけで、個人的にはこれによって抗生物質の濫用が減れば、
BLNARも減って、治りにくい中耳炎が減る、ってことになれば大歓迎なんですが。
 それにしても、この名前のわかりにくさはナントカならんか。
不勉強な臨床家や、マスコミの取り上げ方によっては、混乱しそうな気が・・・。
 うーん、聞かれて説明するのメンドくさいですね。
 まず、インフルエンザ・ウイルスと、インフルエンザ菌の違いについて説明し、
(インフルエンザ・ウイルスにもA型、B型があるので、なおややこしい。
A型にもソ連型、香港型があり、その他に鳥インフルエンザなんつーのもあるし)
 その上で、「夾膜のあるHibと、夾膜のないインフルエンザ菌(NTHi)の違いを説明し
そしてその中でも、抗生物質が効く奴と、効かないBLNARの説明をしなくては。
 そうそう、中耳炎起こす方をA型というのではありませんよ。
夾膜のあるタイプにA型、B型、C型・・・とあり、このうち病原性があるのがB型(Hib)。
子供の中耳炎を起こすのは「夾膜なし」で「NTHi」と呼ばれるタイプで、こん中にもいろんな型があるわけです。
 もうちょっと言うと、耐性菌にはBLPARって奴がいて、別のメカニズムでやっぱ抗生物質の効かない奴もいる。
実は、こっちの方がBLNARより先だったんですけどね。
その話もあるんですが、すると長いのでまた別の機会にしときます。
 ねー、やっぱ、混乱しそうでしょ。
 
 ちなみに「ヒブ・ワクチン」の「ヒブ」を「HIB」でなく「HIV」と、誤表記すると、
Human Immunodeficiency Virus」となり
これは、何と「エイズ・ウイルス」のことになっちゃうんですけど・・・。
ま、こっちと間違う奴は、いねーか。

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