ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2009.01.10

インフルエンザの話

 先日のインフルエンザのブログに誤解を招くような記述があるとのご指摘がありました。
インフルエンザの時、内科では治療できないような印象を与える、とお叱りを頂きました。
そのようなことは筆者の本意ではなく、大変申し訳ない、ということで、
内容を改めてきちんとインフルエンザのお話をします。
 先日、来院した子供さん(0歳、10代ではない)がインフルエンザを疑ってある医療施設にかかった時
「ウチはタミフルを出さないから検査もしない」
といわれたそうです。
 これ、ヘンですよね。 インフルエンザは周りの人にうつる病気ですし、
経過を見るうえでもインフルエンザかどうかは重要なポイントです。
タミフルについては、いろいろな見解があるので(後で書きます)
出す、出さないは意見の分かれることですが、検査はするべきでしょう。
 さて、インフルエンザの診断ですが、これは鼻の1番奥の上咽頭という場所から
粘液を取って調べます。5~15分でその場で結果が出ます。
鼻の一番奥7~8センチも綿棒を入れるのは、確かに小さい子供では大変です。
まあ、耳鼻科なら簡単に確実にこの検査が出来るわけです。
その時、思ったのが、この小児科の先生はインフルエンザの検査をするのが負担なのかも、
ということです。
 熱が出たけどインフルエンザも心配なので小児科に行きました。という患者さんがいたので
インフルエンザならむしろ耳鼻科でいいんですよ、ということを言いたいわけです。
 さて、タミフルの話です。
この薬、いわゆる異常行動でマスコミでも大きく取り上げられました。
その後、因果関係が調べられましたが、現時点での結論は「不明」ということです。
 タミフルは幼弱マウスで、脳への移行が多いという実験から、1歳未満は投与しない、
ということになってます。血液脳関門といって、通常の薬剤は脳に移行しない仕組みがあるのですが
赤ちゃんはこのシステムが不完全と考えられるからです。
ちなみに「アルコール」はこれを容易に通過する「薬剤」なので酔っ払っちゃうわけです。
 すると、異常行動については、この辺との因果関係がありそうなのですが、
インフルエンザ自体の高熱や、もちろん脳症によってそのようなことがおこる場合があり
難しいところです。
厚生労働省は1年間にわたる調査の結果「因果関係は認められない」としながらも
「関連を完全に否定できない。」として、取り消す予定だった10代に対する使用不可を今シーズンも延長しました。
 当院の方針ですが、原則10代はリレンザで、それ以外はタミフルを出します。
リレンザはその薬効、薬理がタミフルに類似しているため、
異常行動が出ないのは、その使用症例数が圧倒的に少ないため、という考えもありますが、
今のところ使ってよし、なのでそのことも説明した上で処方しています。
もちろん0歳代はタミフルを使いませんが、リスクによっては月齢を考慮して出す場合もあります。
11ヶ月が全部ダメで、1歳0ヶ月が急に全部大丈夫、ってことはありませんから。
また10代でも、過去の使用経験があったりした場合、家族と相談の上処方することがあります。
アマンタジンは使いません。
 アマンタジン(シンメトレル)はもともとパーキンソン病の治療薬ですが
A型インフルエンザに限って効果が認められ、タミフルより先に認可されましたが。
当初より耐性誘導が早く、もともとパーキンソン病の薬ですので副作用の面でも問題が多く、
今日の治療薬としては適当でありません。
 タミフルは発売前、ほとんど耐性誘導がない、といわれてましたが、
どっこい、最近は着々と耐性化が進んでいます。
そりゃ、ウイルスですから。
デンマークなどではかなりのウイルスがタミフルが効かなくなってるとのことですし、
日本でも増えてます。タミフルはいい薬なので、大事に使わなければなりません。
 家族にインフルエンザが出たから、家族全員タミフルを飲んで予防しましょう、
なんてことは、絶対ダメです。肝心な時に効かなくなりますよ。
 もちろんこういった説明を聞いてもなお、タミフル飲みたくない、という人には出しません。
インフルエンザはタミフルを飲まなければ治らない病気ではありません。
ただタミフルによって5日間以上続く熱が1~2日で下がるので、
使えるものは使った方が楽ですし、合併症の危険も減らせます。
 タミフル、リレンザは実はインフルエンザウイルスを殺す薬ではありません。
ウイルスの増殖を抑える薬なので、発症後48時間以内が使い時です。
だから、インフルエンザの検査の結果は、翌日電話で、っていうのはトンデモない話です。
飲み始めは早ければ早いほどいい。
 もちろん、当院の方針もあくまで「現時点で」推奨される治療法であり、
今後、新しい事実や、エビデンスによって変化する可能性は充分にあります。
医学会において、昨日の常識は、今日の禁忌、なんてことはしばしばありますから。
 そういう意味では、かつては熱が高ければ解熱剤、というのは「常識」でしたが、
インフルエンザのときは「禁忌」であることがわかってきました。
インフルエンザのときに解熱鎮痛剤を使うと、インフルエンザ脳症発症のリスクが高くなります。
これは、一応「ボルタレン」という薬について「因果関係アリ」と出たようです。
その他の解熱剤に対しては不明ながらも、使わないのが原則。
ロキソニンも類似薬剤なので、やめておきましょう。
唯一アセトアミノフェン(カロナール等)は大丈夫といわれてます。
 さて、これからがインフルエンザのシーズン。
予防接種をしていても、「濃い」接触をすればほとんどの場合感染します。
予防接種によって得られた、抗体のウイルス処理能力が、
ウイルスの増殖力に追いつかないからです。
 マスク自体はウイルスは素通しですが、飛沫を浴びることを防いだり、
鼻やのどの粘膜を、保温、保湿するという意味では大変効果があります。
そしてうがいより、大事なのは手洗い。
睡眠を十分にとって、体力の低下を防ぐ。
 そして、インフルエンザになったら、まず人にうつさないように。
ゆっくり休みましょう。
ウイルスをやっつけるのはタミフルでもリレンザでもなく、
あなた自身の体が作る「抗体」なのですから。
 最後に、貴重なご意見をお寄せくださった方、ありがとうございました。
また、よろしく、お願いします。

 

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