ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2023.06.03

星状神経節ブロック

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この間のBスポット療法のパネルディスカッションで登場した

「星状神経節ブロック」。

一体、どんな治療なのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは主として麻酔科が行う「神経ブロック治療」の一種。

神経ブロックとは痛みを伝える神経や神経の周辺に

局所麻酔薬を注射して、

痛みをなくすという方法で

原理的にも非常にわかりやすい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが「星状神経節ブロック」は痛みを伝える感覚神経ではなく

自律神経である交感神経の神経節に麻酔の注射を打ちます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自律神経には、交感神経系と副交感神経系があり

これらはお互いに入れ替わりながら

体の状態をコントロールしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「交感神経」は緊張している時、ストレスがあるときなどに働き、

「副交感神経」は休息している時、睡眠している時、など

リラックスしているときに優位になります。

動の神経と静の神経、もしくは昼間の神経と夜の神経、

といったイメージです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なので、交感神経をブロックする星状神経節ブロックの狙いは

緊張や興奮を抑え、主として上半身の血管を拡張し血流を増やす、

ということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブロックされるとホルネル徴候といって、

ブロックを行った側のまぶたが垂れ、瞳孔が収縮します。

さらに目の充血、顔のほてり感、肩甲部や腕のぬくもり感がでます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適応疾患としては、緊張型頭痛、非定型顔面痛、頚椎疾患による痛み、

バレ・リュー症候群、

頚肩腕症候群、筋・筋膜性疼痛症候群、

複合性局所疼痛症候群、

胸郭出口症候群、肩関節周囲炎(五十肩)、

頭部、顔面、頚部、上肢にできた帯状疱疹、

帯状疱疹後神経痛、

などがあるそうですが、

専門外のため詳しいことはわかりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただし、顔面神経麻痺、突発性難聴といった耳鼻咽喉科疾患にも適応があり、

とくにこれらの特効薬であるステロイド剤が使えない人などには

耳鼻咽喉科から麻酔科に紹介して治療を依頼することがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とくに突発性難聴に対しては、

損傷した内耳神経細胞により多くの血液、酸素を送って

その修復を図る、ということで

メカニズム的にも理にかなっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は1970年代後半から1980年代後半にかけて、

この星状神経節ブロックは一大ブームになりました。

ちょうどワタシが医者になったばかりの頃です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一説には1973年、

現役の総理大臣であった田中角栄が顔面神経麻痺を発症し、

この当時あまり知られていなかった

星状神経節ブロック治療を受け完治した、

とのニュースが、その一因という話があるようです。

田中角栄は糖尿病があり、ステロイドが使用できなかったためらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのためか、星状神経節ブロックは最先端の治療法として

大いに注目されたのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は、顔面神経麻痺はかなりの「自然治癒」

が見込める疾患ではあるので、

田中角栄氏の顔面神経麻痺が星状神経節ブロックで治った、

やらなければ治らなかった、とは言い切れません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ブームになった結果、上記の適応疾患だけはなく、

頭痛、肩こり、めまい、胃腸障害、不眠、倦怠感といった、

いわゆる「不定愁訴」にも効果あり、

とされて一部の施設では濫用気味にこの治療を行っていた。

いや、まだそういう医療機関もあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、ある病院の現行のホームページからのコピーです。

 

 ★  星状神経節ブロック療法  ★

 

「星状神経節ブロック療法」とは、

くびにある交感神経を局所麻酔薬により一時的にゆるめ、

ヒトが本来持っている自然治癒力を高める治療法です。

上半身の支配領域だけではなく、

脳の血流を良くし、脳にある視床下部の機能を正常化し、

自律神経・ホルモン分泌・免疫力(抵抗力)のバランスを整え、

さまざまな病気や症状を治療します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかまるでテレビショッピングの

健康食品かサプリメントの宣伝文句のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかも、さらにそのホームページによると

 

  治療効果が出るための施術回数には個人差・疾患の差があります。

効果が出るのに数回目の場合もあれば数十回程度かかる場合もあります。

一般的にはおよそ30回の施術が効果確認に必要と考えられています。

もちろん、治療効果を高め持続させるために、

30回をすぎても安心して継続できる治療法です。

 

 とあり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考)星状神経節ブロック療法の適応として

 

(「ペインクリニック診断・治療ガイド」第2版より抜粋)

全身

風邪とその予防、自律神経失調症、本能性高・低血圧症、

甲状腺機能低亢進・低下症、拒食症、過食症、起立性調節障害、

乗り物酔い、立ちくらみ、パニック障害、不眠症、過眠症、

脳卒中後痛、脳卒中後片麻痺、関節リウマチ、術後合併症、

多発性硬化症、ベーチェット病、シェーグレン症候群、

重症筋無力症、痛風、伝染性単核球症、慢性疲労症候群、

反射性交感神経性萎縮症、カウザルギー、幻肢痛、断端痛、

癌、糖尿病、冷え性、肥満症、低体温症、再生不良性貧血、

皮膚科

全身多汗症、掌蹠多汗症、乏汗症、ざ瘡、アトピー性皮膚炎、

蕁麻疹、全身性白癬症、足白癬、爪白癬、皮膚掻痒症、

脂漏性皮膚炎、掌蹠膿胞症、帯状疱疹、単純疱疹、天疱疹、

ケロイド、脱毛症、凍傷、爪甲剥離症、爪甲軟化症、

爪甲縦裂症、爪囲炎、腋臭症、進行性指掌角化症、あかぎれ

頭部

片頭痛、緊張型頭痛、頚性頭痛、群発頭痛、

側頭動 脈炎、脳血管攣縮、脳血栓、脳梗塞

眼科

網膜血管閉塞症、網膜色素変性症、中心性網膜症、

ぶどう膜炎、類嚢胞黄班浮腫、角膜ヘルペス、角膜潰瘍、

緑内障、アレルギー性結膜炎、瞳孔緊張症、飛蚊症、

眼精疲労、ドライアイ、VDT症候群、屈折異常

耳鼻科

アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、鼻茸症、

慢性副鼻腔炎、急性副鼻腔炎、術後性上顎嚢胞、

突発性難聴、浸出性中耳炎、メニエール病、

良性発作性頭位眩暈、鼻閉、扁桃炎、耳鳴、

咽喉頭異常感症、嗅覚障害、いびき、睡眠時無呼吸症候群

口腔

抜糸後痛、舌痛症、口内炎、舌炎、歯肉炎、

口唇炎、歯ぎしり、口内乾燥症

頚肩上肢

上肢血行障害(レイノー病、レイノー症候群、

急性動脈閉塞症、バージャー病)、肩手症候群、

頚肩腕症候群、椎間板ヘルニア、外傷 性頚部症候群、

胸郭出口症候群、肩関節周囲炎、乳房切断後症候群、

テニス肘、腱鞘炎、頚椎炎、ガングリオン、

腕神経ニューロパチー(外傷性、術後)、関節炎、肩こり、

ヘベルデン結節痛

循環器

心筋梗塞、狭心症、洞性頻脈、神経循環無力症

呼吸器

慢性気管支炎、肺栓塞、肺水腫、肺気腫、

過換気症候群、気管支喘息、自然気胸

消化器

過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、胃炎、肝炎、

クローン病、消化性潰瘍、逆流性食道炎、胆道ジスキネジー、

便秘、下痢、腹部緊満症、ダンピング症候群、痔核、裂肛

産婦人科

月経異常、月経前緊張症、月経困難症、子宮内膜症、

更年期障害、子宮摘出後自律神経失調症、尿失禁、

膀胱炎、女性不妊、妊娠悪阻、膣痙

泌尿器科

神経性頻尿、インポテンス、尿失禁、夜尿症、

腎盂腎炎、ネフローゼ症候群、IgA腎症、嚢胞腎、遊走腎、

前立腺肥大症、前立腺症、男性不妊

腰下肢

腰下肢痛、膝関節痛、肢端紅痛症、肢端紫藍症、

鶏眼、下肢静脈瘤、こむら返り、バージャー病、閉塞性動脈硬化症

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうこれやっとけば、

風邪もひかないし、癌も高血圧も糖尿病も、

ウオノメだって治っちゃう、って

スゴクナイすか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実はこの治療法、仰臥位になった患者さんの首に

10センチ近くもある長い針を垂直に刺して、

頸椎にあてて麻酔薬を注入するという、

そうとうに見た目恐ろしい手技なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、この不定愁訴に対する効果は、

そのエキセントリックな儀式が与えるインパクトによる

プラセボ効果が主たるものだと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビタミン剤の点滴や、ニンニク注射なんかで

急に元気になっちゃう人と同じ原理です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも交感神経がブロックされれば、

逆に鼻水が出てかえって鼻が詰まるはずなのが、

花粉症に効果があり、とはちょっと考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星状神経節ブロックも

特定の疾患、病態には効果があると思われるのですが

ここまで言っちゃうと、

逆にそっちも信用されなくなっちゃうのではないかと

老婆心ながら心配しちゃいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、Bスポット、どうなんでしょうね。

 

 

 

1件のコメント

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  1. 星状神経節ブロックは昭和60年頃まで突発性難聴やベル麻痺でやってました。
    そのうち抗凝固剤内服中の患者に咽後血腫による窒息、死亡事故が起きて急速に廃れました。
    Bスポットはコロナ後遺症で人参養栄湯と並んで治療のファーストチョイス?みたいですが
    一度受けると再度希望する患者はいませんね。
    創始者は医科歯科退官後も横浜の方で一回5,000円の自由診療でやってたとか。

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