ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2021.08.21

ブレイクスルー感染とは何か

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 ブレイクスルー感染、ということが最近話題になっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すなわち、新型コロナのワクチンの接種が2回済んだ人が

新型コロナウイルスに感染してしまう、

という話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワクチン反対派や、陰謀論信者の人たちは、

ほら見たことか、ワクチン効かないじゃないか、

ということをネット上で盛んに言ってるようですが、

なに、バカなこと言ってんの、

という感じです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレイクスルー感染が一定の割合で起こるのは

当然のことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当初発表されたファイザー社のワクチンの有効率は95%。

これは、インフルエンザワクチンなど、

他のワクチンに比べると驚異的な数字です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、100%ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、100%でない以上、

2回接種者の中にも発症する人がいるのは当然、

ということになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかも、この有効率は発症予防効果なので、

感染して症状が出ない人はもっと多くいるはずで、

例えば、濃厚接触者にあたるので

無症状だがPCR検査をしたら、

ワクチン2回接種したのに陽性であった、

ということはもっとあるわけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では、なぜこんなことが起こるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポイントはワクチンとは、

ウイルスを防ぐ物質を注射しているわけでは無く、

ウイルスの部分を体に入れて、

身体がそれに対して抗体をつくらせるもの、

であるということです。

(ファイザー、モデルナ社のmRNAワクチンは

従来のワクチンとは違った特殊なワクチンなので

抗体による液性免疫だけでなく、

細胞性免疫も賦活しますが、

分かりやすくするためここは抗体の話だけ説明します。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、これがウイルスの顔見本だから、

これをやっつける物質である抗体を作ってね、と言っても

身体の方がそれに対して反応しなければ

ウイルスに効かない、ということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに大事な点は、

その抗体の産生量は同じ量のワクチンを打っても

人によって大きく違う、ということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 免疫応答性、といいますが、これには個人差が大きく、

体調も多少影響しますが、

もって生まれた体質が最も大きな要因で、

過去の免疫経験も関係する場合があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 抗体の量を「抗体価」といいますが、

ワクチンを打って、すぐ抗体価が上昇する人もいれば、

抗体価の伸びが遅かったり、

また時間が経っても抗体価が少ない人もいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワレワレ医療従事者は、医者になるとすぐ

B型肝炎に対するワクチンを打ちます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通常は半年の間に3回のワクチン投与を行い、

その1,2か月後に採血をして抗体価を測ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 抗体価が十分に上がっている場合はそこで終了ですが、

血液検査の結果、抗体価が上がっていない、

または上昇が不十分の場合は

さらにもう1クール3回の接種を行います。

このケースが10%くらいいるとされています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに追加の1クールを打っても上がらない人は

ワクチン不応者として、それ以上の接種は行わず、

B型肝炎に罹らないように人一倍注意する、

ということになります。

B型肝炎は医療従事者の場合針刺し事故で

最も多く起こります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、これと同じで

新型コロナウイルスワクチンを接種しても、

抗体価が上がらない、あるいは十分量に達しなかった、

という人がブレイクスルー感染者になると思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらには感染の状況にもよります。

つまり、侵入してきたウイルス量です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 産生された抗体量が、一定の基準に達すると

「免疫がついた」とみなされますが、

実はその抗体量は人によりまちまちで、

たくさんできちゃった人もいるし、

ギリギリ合格、という人もいるわけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 毎度お話しているように、

ウイルスに対する免疫とは

侵入してきたウイルスを水際で撃ち落としたり、

ワレワレの細胞に侵入してしまったウイルスを、

細胞ごと破壊して増殖を阻止する、

ということで、数の勝負です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度の抗体を持っていても、

一時に大量のウイルスが侵入してくれば

ウイルスの増殖力の方が、処理能力を上回ることになり、

発症に至ってしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、一応「合格点」の抗体を獲得したとしても

トンデモナイ量のウイルスの侵入を受ければ、

ギブアップ、という場合もあります。

いわゆる「キャパ越えちゃう」というやつです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、ワクチン後も、密を避け、

マスク着用を、ということが提唱されるのは

獲得した免疫力以上のウイルスの侵入を防ぐためです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、デルタ株の存在です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変異によって感染力の強くなったこのデルタ株は、

ワクチンが作られた当初は存在しませんでした。

なのでワクチンが提示する抗原とは若干違っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウイルスには「顔」があり、

その人相書きにしたがって、

抗体やリンパ球は侵入してきたウイルスを認識し、

攻撃を仕掛けますが、

デルタ株は、メガネと付け髭で変装してるので、

よく見ればわかるのですが、

あらかじめ配られた手配書と違う顔に見えるので、

一瞬、別人かとダマされてしまい、

ワクチンによって得られた免疫の効果が減弱してしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今後、変異がさらに進み変装が巧みになると

ワクチンの効果はますます減弱してしまうでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、3つ目は、時間経過による抗体価の減少です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獲得免疫は一定の割合で抗体価が次第に減少することが、

他のワクチンでも知られており、

減少のスピードはワクチンにより様々ですが、

アメリカ、バイデン大統領は先日、

2回目の接種から8か月後に3回目の接種が推奨される

と発表しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 抗体価の減少速度にも、また個人差があり、

8月11日の下野新聞にはこんな記事ものっていました。

n(検査対象人数)が376人と少ないので、

確定的なことは言えませんが、

一定の傾向は見られるようです。

マスクをせずにタバコ吸ってるオジイちゃんは気をつけてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、以上のように

①ワクチンに対する免疫応答の個人差

②抗体量を上回る大量のウイルス曝露による感染成立

③デルタ株によるワクチン効果の減弱

④諸要因の関係した抗体量の時間的減少。

これがブレイクスルー感染の仕組みです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからわかることは

ワクチン接種後も一定の感染対策を怠らないこと、

変異株がまん延する前に

一刻も早く全国民がワクチン接種を終えること、

が喫緊の課題だということです。

そして、変異株に対する新しいワクチンの開発とその接種、

が今後期待される対策でしょう。

 

 

 

 

 

2件のコメント

コメント/トラックバック (2件)トラックバック用URL:

  1. 先生、お応えいただき大変ありがとうございました。
    今までのブログ内容からの知識と併せて、理解することができました。
    特に曝露量についてはあまり知られていないのではないでしょうか。

    マスコミの報道も不安を煽るようなことかりではなく、先生のようなお話を
    繰り返し流してくれると良いのですが。

    これからもよろしくお願いいたします!

  2. kazu様
    コメントありがとうございます。
    マスコミのヒトもよく分からないまま報道されてる面もあります。視聴者、読者にインパクトを与えるのが第一目標なので、どうしても煽りがちになります。
    正しく分析したいですね。

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