ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2018.04.13

がん消滅の罠~小説編

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 最近、医療ミステリーはブームらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この間呼んだこの本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は買ってテーブルに置いといたら先に妻に読まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、そのあと読んだんですけど、なかなか面白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下ネタバレありですので、ご注意。

面白かったので、読みたい人はまず原作を読んでからこの記事をご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本を半分読んだところで、

コレは消滅するがんを仕込んでるな、というトリックまでは読めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たぶん、アポトーシスに関する仕掛けだな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アポトーシスとはプログラムされた細胞死のことで、

細胞の異常増殖の抑制や、生物の成長に伴う形態変化の中で起こる現象で、

外的要因による細胞死であるネクローシスを「他殺」とすれば、

細胞の「自殺」ということになる。

ただ、人間の自殺とは違い、

個体を運営するうえで必要のなくなった細胞が自ら身を引く、

といったことで、これをがん治療に応用とする試みはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実はトリックはもう一個あり、

これは生物の免疫系がいわゆる「self」と「not self」を認識して攻撃する、

というメカニズムを使ったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒトは「自分由来で無いもの」が体内に侵入した場合、

それを攻撃する免疫というシステムがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多くは、細菌やウイルスに対抗するわけですが、

移植臓器も他人由来の細胞からできているので、これを攻撃してしまう、

いわゆる「拒絶反応」というものがあるわけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなので、移植の場合はこの免疫系を抑える薬を使って、

臓器移植をすることになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この小説はあらかじめ免疫抑制状態にしたヒトに他人のがんを移植して、

そのヒトを「進行がん」にしたうえで、免疫抑制をやめると、

一気に免疫系が活動してがん細胞をことごとく死滅させる、というプロットが一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、もう一つが先ほど述べたアポトーシス関係のプロット。

あるヒトの「初期のがん」を摘出したうえで、そのがん細胞を培養し、

そのがん細胞に「自殺装置」を組み込んだ遺伝子を組み込み、

また、体内に戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、当然がんが転移再発するかたちになるわけですが

その培養したがん細胞の「自殺装置」を起動させる薬剤を使うと、

また一気にがんが自然死して治る、という仕掛け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この似て非なる2つのアイディアを中心に物語が組まれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なるほど、理論的にはどちらもありそうな話、よく考えましたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際にはいろいろ障害があって、こうはいかないでしょうが、

この奇抜なトリックはワタシに「ジュラシック・パーク」で用いられた技術を連想させました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュラシック・パークでは琥珀の化石中に封じ込められた吸血昆虫から

恐竜の血液を採取し、そこから遺伝子を取り出して、恐竜を再現する、というもので、

このアイディアも最初見たとき、その手があったか、と膝をたたいたものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際には化石になると遺伝子がバラバラになって再構成はできないようですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医療ミステリはお医者さんの作家の方が書いている場合もけっこう多いようですが、

この方は弘前大学農学部から神戸大学大学院に進み専門は昆虫であったようです。

そこでモンシロチョウから見つかった抗がんタンパク質の研究から

国立がんセンターに進み、

発がんや、がん制御のメカニズムを研究してきた、という方で

出身は科学者であり医者ではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、登場人物の医者のリアリティがやや低いんだけれど、

その分、基礎研究的な部分での内容がスゴイ。

登場人物に説明させる発がんのメカニズムや、昆虫はがんになりにくい、

なんて話は、専門家ならでは。

マウスの実験室での特有のナッツの匂い云々のくだりは、

基礎研究やったヒトでないとなかなか出てこない。

あー、あの匂い、たしかにナッツに似てるわー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この小説でシャーロック・ホームズ役は

医者でありながら臨床をやっていない羽島であり、

同級生で臨床医の夏目はワトソン役。

これまた同級生の夏目医師の奥さんは出版社勤務で医学は素人なので

医学的な専門知識を医者2人に説明させるための読者の代理、なわけだ。

これにもう一人「文系代表」の同級生である

保険会社の森川がチームに加わるので、

物語はぐっと懐が深くなる。

筆者は現在医療系出版社勤務ということで、

この辺、かえって医者では書けないチーム構成である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 てなわけで、かなりオモシロい小説であったわけだが、

これがちょうどテレビでスペシャルドラマ化された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、まだ小説を読み終わってなかったので、

とりあえず録画しておいて、読了後、この間、見たんですけど、

その話はまた明日。

 

 

 

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