ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2010.06.02

Kさんの話

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 K.T.さんは今年87歳だという。
 若くしてご主人に先立たれたあとは、
看護婦さんになり、子供2人を育て上げた。
 腰も膝も目も、そして耳も悪い彼女は病院通いが欠かせない。
 最近は、多少呆けもあり、物忘れがひどくなってきたことも自覚しているが、
家のカギに赤いリボンをつけたりして、
わからなくならないように自分なりに工夫しているようだ。
 看護婦時代は総合病院に勤めていたが、
仕事を休めないと、なかなか自分の事で受診できなかったという。
 今は、内科も、眼科も、整形も満足のいく主治医が見つかったようだが、
それまでは、彼女としては受けた医療に大いに不満があるようで、
病院に行くたびに、過去に「ひどい目にあった」各科の医者の話を
繰り返し、一通り、話さないと気が済まない。
 幸いなことに耳鼻科としては、当院を大いに「買って」くれている。
 もう10年以上前、当院に慢性中耳炎で来院された。
それまでかかっていた耳鼻科に大いに不満があるようだった。
 両鼓膜に穴が開いていたのを、
私が手術して、閉鎖したので聴力が上がり、以後大いに感謝されている。
 ただし、その後、加齢による神経性難聴は次第に進行し、
会話はだんだん不自由になっているが、
今でも数カ月に一回、手術した鼓膜のケアに来院する。
 そして、一連の話を、受付と医者と看護婦さんと、時には待合の患者さんにも
繰り返し語っていく。
 話は、しばしば、医療関係の不満にとどまらず、
息子たちの話や飼っていた犬(チャコちゃん)の話に及び、
いつ終わるともしれない。
 混んでる時は、他の患者さんに申し訳ないが、
なかなか途中で遮ることもできない。
 しかし、それをみんな聞いてあげると、
喜んで帰っていく。
 実は彼女は私の事を昔から知っている。
私が小学校2年生から5年生まで通ってた「お習字」の先生の奥さんなのだ。
 毎週火曜日は、学校帰りに小学校の前にある、K先生のお家で、
「お習字」を書いて朱筆を、入れてもらう。
 塾はいつも小学生でいっぱいで、
ラジオから流れる「全国子供電話相談室」を聴きながら順番を待っていたものだ。
 次第に段も上がり、書道展などでは、おかげさまでよく賞をいただいた。
 5年生のある時、急に塾がお休みになった。
 最初はわからなかったが、あとから、先生ががんで亡くなったと聞いた。
 先日もKさんが半年ぶりに病院にやって来た。
「前回お世話になったのはいつでしたかねえ。」
「去年のクリスマスに来てますね。」
「えっ、いつですか。」
「年末にね、お見えになってます。」
「あっらー、まあまあー。」
 耳の処置をして、また、たくさん「いつもの話」を語って帰って行った。
 お帰りになった後、看護婦さんが言った。
「でも、先生の事、 『ひろちゃん先生』 って呼べるのはKさんだけよねー。」
 まあ、最初にお会いした時、「ひろちゃん」、まだ7歳だったもんで。
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