今日の朝日新聞の急性中耳炎の記事
マスコミやジャーナリストは当然事実に基づいた事象を伝えるわけだが、
その伝え方には伝える側の意図が反映する。
つまり、ある事象があった時、
そのどの部分をどう受け手に感じ取らせようとするか、
というのは伝える側の書きようなのだ。
結果、事実を伝えながら真実を伝えていない場合が起こりうる。
今朝の朝日新聞に
「中耳炎 進化する治療法」
という記事があった。
読んでみると、伝える「事象」としては
①子供の急性中耳炎に対し2009年からあたらしい抗菌薬が2種類追加になったこと、と
②肺炎球菌に対する迅速検査キットが承認されたこと
の2点であった。
①については、このブログでも繰り返し書いているが
近年の耐性菌の増加により従来の抗菌薬が効きにくくなっており中耳炎の難治化が進んだ。
そこで耳鼻咽喉科学会が働き掛けて
「オラぺネム」と「オゼックス」という薬が新たに開発、承認されたというものである。
その背景には、1980年代以降、
(かつてのワタシも含めて)抗生物質や感染症に対する知識の乏しい医者が
何でもかんでもばんばん抗生剤を使ったことにより
薬の効かない耐性菌が急激にふえたことがある。
だから、この新薬だって湯水のように使いまくれば
また、それに対する耐性菌ができ、効かなくなってしまうのである。
ところが、記事の見出しは
「殺菌力の強い新薬」
「『鼓膜切開』減る傾向」で、
これでは、この新薬をどんどん使えば鼓膜切らなくて済みますよ、という文脈に読み取れる。
鼓膜切開はしないで済めば越したことがないが、
やはり場合により「必要」な手術であり患者側、
場合によっては非専門医に
間違った印象を抱かせるのはいかがなものか。
それによって、安易にこの新薬が乱用されれば、また悲惨な結果になる。
②については、肺炎球菌があるかないかを調べるので、
実際にその肺炎球菌にどの抗生物質が効くかはわからない。
肺炎球菌の中でも株によって効く抗生剤が違うし、
それ以外のインフルエンザ菌やブランハメラ菌の存在はわからない。
でも見出しは「20分で判定 薬を選択」である。
参考にはなるけれど、お金もかかるので(もちろん患者負担ではなく国の医療費ということ)
いまのところ、当院では従来の培養検査を主におこなっている。
しかも、記事に添付されてる
「ガイドラインをもとにした子どもの急性中耳炎の治療の流れ」
のフローチャートは「軽症」「中等症」「重症」の分類のうちの
「中等症」だけがのっている。
当然、その点についてのことわり書きはない。
ガイドラインでは「軽症」の場合は
まず最初は「抗菌薬非投与で3日間経過観察」だし
「重症」の場合は最初から「鼓膜切開」が必須項目に入ってくる。
記事の中に出てくる先生方はいずれもワタシも尊敬する小児急性中耳炎の第一人者ではあるが、
おそらく長いインタビューの中の
記者にとって都合のいい部分だけが切り貼りされたコメントになっているのであろう。
この結果、
「鼓膜切開は、最近はしなくても済む、ときいたのですが。」とか、
記事の切り抜きを持ってきて
「この新薬を、うちの子供にすぐ出してください。」なんて詰め寄る母親が、
全国の真面目な耳鼻科の先生を困らせてるのではないかと心配。
うーむ・・・・。
朝日新聞だから、というわけでもないだろうし
マスコミなんて、所詮、こんなものなのかもなあ。


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