ロックな高校生リターンズ(第7話)
そんなわけで、8月のある日、我々はKレコードの前に集まった。
Kレコードは楽器屋さん部門が今でもあるが、場所は、今の場所ではなく、
本町通、足銀足利支店の並びの(今は足銀も友愛ホールになっちゃったけど)
現在のラーメン屋、Y貴楼の建物だ。
(ここは今もバンドの打ち上げで3時過ぎまで足利の街を飲み歩くと
最後にシメのラーメンを食べに入るとこなので、ロックな場所なのだ。)
「いや、今年の夏は、あっついなー。」
「受験の年に猛暑ってついてねーな。」
1977年の夏は、確かに暑かった。
夏目雅子の「Oh!クッキーフェイス」で幕を開け、キャンディーズは「暑中お見舞い申し上げます」
と歌っていたし、「勝手にしやがれ」は「渚のシンドバッド」を蹴落として1位にかえりざいていた。
王貞治は、9月に達成することになる756号の世界新記録に向かって着実にホームランを重ねていた。(はずだ。)
さて、Kレコードのスタジオは、店舗の2階にあり、多分倉庫かなんかを改造したものだ。
ドラム、アンプ、PAなんかが、雑然と並べられており、とても狭かった。
今の貸スタジオみたいなしゃれた雰囲気はなく、
ダンボールなんかもつんである狭い階段廊下を通って行った。
「Oの工場より相当せまいなー。」
「でも冷房あるからいいよ、暑いから早くエアコン入れろー。」
「よーし、久々にいっちょやるか。」
「スペース・トラッキンから行こうぜ。」
ジャジャッ、チッ、チッ、チッ、ジャッジャッジャッ、ジャージャージャジャッ・・・
おー、いい感じ、さてボーカルだ。
「We have o lot of lack in Venas~」
と歌いだしたとたん、急に音が切れた。
「あれ、停電?」
「別に、昼間だし、カミナリも鳴ってなかったぜ。」
「おい、ちょっとO、お店の人に訊いてこい。」
「わかった。」
と、お店に下りていくO。
「しっかし、エアコン切れると暑いなー。」
「窓もねえしなー。」
少しして、店員さんを連れてOが戻ってきた。
「あー、やっぱりダメかー、まいったなー。」
「何なんですか。」
「いやー、ここんとこ暑いだろ。このエアコン結構電気食うのよ。
だから、アンプ、PA、キーボードまで全部使うとブレーカーがおっこっちゃうんだよねー。」
「えー?!」
「だからさ、君たちさ、演奏中は、送風にしといてアンプ切ってから冷房にしてくれるー。
ウチのアンプ、チューブだから電気食うからさ。」
そ、そんなー、殺生なー。
「じゃあ、そういうことで、がんばって、ごめんねー。」
と、店員さんは降りていってしまった。
「おい、どうするよ。」
「どうするったって、4時間分まとめて前金で払っちゃったし。」
「やっぱ、練習しなくちゃなんないでしょ。」
「しっかし、冷房なしだぜー、この真夏の暑いのに。」
「しかたねー、やるかー。」
というわけで、5分間演奏しては、アンプを切って全員でエアコンの前に張り付いて
体を冷やし、また勇気を奮い立たせてまた演奏をする。
でも、すぐ暑くなってきて、
「(おい、アドリブのギターソロいつまで弾いてんだよー、早く終わりにしろよー、)」
という気持ちになってしまう。
まるで、ガマン大会のような練習に、集中が続かず、結局あまり成果が上がらなかった。
「あー、暑かった、まいったなー。」
「あと、練習、どうするか・・・。」
「うーん、金かけてこれじゃあな。」
「後、何回か練習しないと。」
「そうだ、学園祭の練習なんだから、学校で出来ないかな。」
「学校でー?」
「日曜日の、空き教室とか音楽室使わせてもらえば・・・。」
「そうだな、学校行事だからな。」
「よし、インドネシアに頼んでみるか。」
さて、どうなるか。


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