ロックな高校生リターンズ(第6話)
7月になった。
「おい、期末テスト、どうだった。」
「いやー、円運動の角速度ωの扱いでトチっちゃって。」
「あー、オレ文系だから物理Ⅱやらなくてすんで良かった。それよりオグラ、イミテーションって単語知ってる?」
「イミテーション?~tionで終わるから名詞だな。すると動詞はイミテイト・・・、知らんなー。
出る単にあった?」
「ふふふ、模造品、まがい物という意味だ。」
「おー、できるなーO、さすがだなー。」
「実は今度の山口百恵の新曲が『イミテーション・ゴールド』ってんで、覚えたんだ。」
「なーんだ、でも入試に出るかも。」
「それは、どうかなー。それよりバンド練習しないとな。」
そうそう、練習しなければ。
ロック・ボックス以降、バンドとしての練習は、全くしてない。
「で、どこでやる?」
そうなのだ。
われわれがかつて、練習場所として使っていた、O君ちの工場あとは、
ロック・ボックスが終わるまで、という条件で、近所に頼んで回ったので、
いまさらそこを使うわけには行かない。
「やっぱ、スタジオ借りるか。」
当時、足利にはKレコードのスタジオしかなかった。
1階は、レコード、楽器を売っていて、スタジオは、その2階にあった。
「金かかるけど、しょうがないな。」
「いつやる?」
「夏休みの補習が終わったらだなー。」
「あ、俺、夏期講習で、東京行くよ。」
「ギターのEもどっか行くらしいぜ。」
何だ、みんな足利にいねーのかよ。
そういや、俺も去年は東京の予備校に夏期講習に行ったっけ。
そもそも、ベースのOと一緒に行ったんだった。
・・・記憶は、ちょうど1年前にさかのぼる。高校2年、期末試験の近づくある日・・・
俺の席の後ろのO崎が
「おい、オグラ、夏期講習どこ行くの?」
と、たずねて来た。
「カキコーシュー?おお、夏期講習、いや、別に。」
「何、行かねーの、俺、代々木ゼミだぜ。」
O崎は、俺と同じ国立理系だが成績がいつも俺のちょっとだけ上なので、やつが夏期講習となると、何か負けたくない。
(こやつは結局東工大に入った)
うーん、代々木ゼミナールか、有名だ。聞いたことあるぞ。
あわてて、そのまた後ろのO合に訊いてみる。こいつは国立文系で一橋大にいったやつだ。
「おい、O合、お前は夏期講習、行くの?」
「行くさ、駿台だよ。予備校としては最高だな。」
その頃、受験オンチの私は、「駿台」の名前すら知らなかった。
(実はその後、大変お世話になっちゃうんだが・・・。)
「いや、俺も行きたいよ、夏期講習。どうすりゃいいの。」
「あのなー、今もう6月末だぜ、夏期講習なんかどこも締め切りだよ。
駿台なんか5月中に締め切ってるよ。」
「5月中にー?夏期講習をー?」
あせった私は、前の席のO(あー名簿順だからイニシャルOばっかでわかりにくい、要するに
バンドメンバーのベースのOだ。)の、背中をつっつく。
「おい、お前、夏期講習は。」
「いや、俺はまだ申し込んでないよ。」
「(あー、よかった)もう、どこも締め切りかなあ。」
「でも、探してみよう、なんかあったら一緒に行こう。」
てなことで、Oが探してきたのは「代々木学院」という、
名前からして、いかにもパチモンみたいな3流予備校だった。
行くには行ったが授業も、学生もレベルが低かったので、ほとんどためにならなかった。
良かったことといえば、2週間の東京暮らしで、こっそり成人映画を見に行ったことくらいだ。
(何せ、当時はビデオなんか無かったし、っておいおい。
そーいや、成人映画とか、ピンク映画って死語だなー。)
ともかく、3年生の夏は、駿台行くぞー、と、思ったものだ。
ところが2年生の秋、親父が急に死んだため、
夏期講習で東京の予備校に行く、なんて経済的な余裕は我が家にはなくなっちゃったわけだ。
そこで夏休みは、学校の補習以外は(クーラーもない)自宅で勉強、ということになっていた。
・・・で、話は3年生の時点に戻る。
「じゃあ、日を決めて、集中的に練習しよう。」
みんなの夏期講習が、微妙にずれてるので、夏休みのある日を、集中練習日に決めて
スタジオを、4時間ぶっ通しで借りて、練習することにした。
「よし、それではそれまで個人練習ってことで。」
「よーし、スペース・トラッキンの歌詞、覚えなきゃ。
試験に出そうな、重要単語が入ってるといいんだけどなー。」
「スタジオにこもる、か。なんかカッコいいぞ。」
しかし、実は、これが、悲惨な結果を招くのである。


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