「悪医」のリアリティ
医療系ドラマってけっこうあるけど、医者になってからはまず見ませんね。
ともかく、現実感がなさすぎ。
天才的外科医がいたところで、
いきなり20代の若者が執刀医になって大手術をすることはないし、
オペ室の会話も雰囲気も全く現実とはかけ離れてるし、
こんなこと言う医者いねーよ、
とかもうツッコミどころ多すぎで
とても見ていられない。
医療本も多いけど、医者以外のジャーナリストが書いたものはまずダメだし、
医者だってヘンな医者も多くて、
またそんなヘンな医者の言うことが出版社にウケると見えて、
ウンザリするような内容の本が多い。
「○○は絶対にするな」「○○で耳鳴りがピタリととまる」等々・・・・。
そういう意味ではこの本はフィクションなのだが、
かなりのリアリティがあって一気に読んでしまった。
そうこの間読んだ「芥川症」の久坂部羊氏の小説です。
(以下、ネタバレもありますのでご注意)
「悪医」といいながら出てくる医者は、
唯一、腫瘍内科の医者を除いては皆、普通の医者であり、
患者のためを思って真っ当な医療を行ってる医者であるが、
患者にとっての「悪医」になってしまうところが、
医者の立場とすれば非常に考えさせられるところだ。
多分、一般読者が「こうあってほしい」というような展開に進まないところが、
「リアリティ」のポイントであろうし、
そういう意味では、読者ウケの悪い小説かもしれないし。
ネットに上がっている書評、読後感想を読むと
最後のくだりが良かった、ホッとした、という感想が多いので
やはり、そんなもんかなあ、と思う。
なぜなら個人的にこの小説で唯一リアリティがないのが
その最後の「和解」の場面であると感じたもので。
その一方で、先輩後輩の医者同士の医局での会話や、
薬剤メーカーと看護婦さん交えたテニス大会やバーベキュー、
看護師さんが付き合っていたドクターに捨てられちゃう下り、
もうリアリティ満載ですね。
(念のため言っときますけど
ワタシは看護師さんとそのようなお付き合いをしたことはありません)
主人公の森川医師の奥さんは(医療関係者でない)一般人で、
そこで夫婦間で意識のギャップみたいなものが描かれているんだけど、
ウチの場合、妻が全く「同業者」なので、
世間的な感覚との隔たりを感じるチャンスがなくなっているとすれば
これはちょっとヤバいなあ、と思いました。
ネットに上がる書評を見ても、
ああ、伝わっていないなあ、とか、
一般のヒトはこう考えるのか、というショックを覚えるような感想もあり。
ワタシも毎日一生懸命説明してるつもりなんですけど、
なかなかムズカシイわけです。
一般の人々はどう受け止めるかわかりませんが、
まあ、医者としてこういう本を読むと、
あらためて襟を正す、というか、そういう気持ちになりました。
この本、医者が読んだ場合と、
一般の人が読んだ場合、相当感じ方が違うかも、です。
たぶん。


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