ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.10.23

鼓膜チューブ留置術に対するご相談

 こんにちは。
 ドクターおぐぐの「耳鼻科教えてコーナー」です。
(また名前変わってる?)
 こんなコメントを頂きました。


中耳炎で検索して先生のブログを拝見しました。
本当に悩んでいまして、お時間ありましたら、相談にのっていただけたらありがたいです。
今6歳の子なのですが、チューブを入れるかどうかで迷っています。
1歳の時に急性中耳炎で切開。その後、急性のたびに抗生剤で治し、2歳の時から滲出性になり現在まで、5~6回切開もしたり抗生剤だけで治したりときました。
夏場は1ヶ月くらいは大丈夫な時期もあるのですが(この前の冬場は2ヶ月くらい大丈夫でした)、風邪をひくとまた水がたまって濁ってきます。その度に、軽い時は漢方で、ひどい時は最近はオゼックス、ジスロマックを飲んだりしています。先日の急性の時はオラペネムを飲みました。
チューブは、かかりつけの外来で出来ると言われていますが、うちでは大人も子供も大きい太いのを入れます、と。またチューブを取った後に、穴がふさがらなくなることもまあまああります、と言われ、穴をふさぐ手術は外来では出来ず転院して入院して手術になります、と言われて、チューブを入れることにためらいがあります。
このまま中耳炎の度に抗生剤を飲むことにも抵抗がありますし、かと言ってチューブ取った後の穴が残ったままになったらどうしよう、、、という不安もあります。
長々となってすみません。


 ご心配のご様子です。
 いつもそうですが、実際に診察していないので
あくまで参考までにお読みいただきたく。
 これは、おそらくチューブを入れるべきです。
 1歳から急性中耳炎をおこし、2歳から滲出性中耳炎で
しかも軽快してる時間がほとんど少ない。
 このままいくと、鼓膜が傷んでしまい、
後遺障害を残す可能性が心配です。
 滲出性中耳炎の状態は痛みなどの症状はありませんが、
鼓膜には常に負担がかかっており、
長年の間には鼓膜が次第に変質してくることがあります。
 ぴんと張った太鼓の皮のような鼓膜が、
薄っぺらになって、伸びたパンツのゴムみたいな
テロテロ、ヘナヘナな状態になってしまう事があるのです。
 こうなってしまうと滲出性中耳炎の本体である
耳管機能不全が改善されても鼓膜が正常に機能しなくなります。
 耳管機能は年齢とともに改善しますが、
鼓膜がダメになっちゃうと難聴が残ります。
 チューブは当院でも子供でも大人と同じ大きさのモノを入れます。
 0歳からすべて手術は局所麻酔です。
 小さいチューブを試したこともあったのですが、
閉塞や脱落で使い物にならなくなることが多くやめました。
 ご心配の鼓膜穿孔は、数パーセントの割でやはり発生します。
 当院では閉鎖しないものは小学校高学年になるのを待って、
外来で閉鎖術を行います。
 外来で閉鎖しないものは入院で手術することもありますが、
あってもごく少数だと思います。
 穿孔は手術でふさげますが、
ペナペナになった鼓膜は、一生治りません。
 まあ、あくまでワタシの考えであって、
しかも、診てないので、中耳炎の程度や鼓膜の状態などわかりませんので、
結論は主治医の先生とよく相談してお決めになられるのがいいと思います。
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2012.07.26

急性乳突洞炎の話


 急性乳突洞炎についてのコメントをいただきました。
 ちょっと解説をしましょう。
 そもそも乳突洞とは何か?
 耳の後ろ側を触ると硬い骨を触れますが、
下側が円錐状にやや尖っています。
 この部分を乳様突起と言います。
 中は乳突洞と言われる空洞で蜂の巣のような小部屋に分かれているので
乳突蜂巣とも言います。
 鼓膜の向こう側、鼓室からつながる空気が入っているスペースです。
 急性中耳炎は鼻から耳管経由でバイ菌が入っって
鼓室で炎症を起こします。
 それがさらに「次の間」まで進展すると
乳突洞炎という事になります。
 ただしここまでバイ菌が入り込む事はそう簡単にはありません。
 むしろその前に鼓膜が腫れて激しい痛みや発熱があり、
鼓膜が自然に破れて耳だれとなって外に出てしまいます。
 外に出口がつけばバイ菌はどんどんそちらに流れて行きますので、
乳突洞に侵入することは少なく、
侵入したとしても周囲に進展せず、また流れ出ていきます。
 急性中耳炎の鼓膜切開はこのために行ないます。
 鼓膜が破れず、もしくは破れてもそこからの菌の排出より
中耳内での菌の増殖が多いと菌が乳突洞に侵入します。
 そこで化膿すると、耳の裏側が腫れて
耳介が立ってきたり、皮下に膿瘍といって
膿の袋を形成したりします。
 進展方向によっては、顔面神経麻痺や、髄膜炎、脳膿瘍などの
重症な合併症を引き起こすことがあるのです。
 今回のケースは一部脳膿瘍になっているとのことですから、
かなりの重症例といえます。
 実は乳突洞炎は急性中耳炎から続発して起こるものの、
急性中耳炎の患者数の圧倒的な多さから比較すれば
かなり稀な病態といえます。
 特に抗生物質が普及してからは激減しています。
 急性中耳炎が正確に診断されれば、
適切な抗生物質の使用によって
乳突洞炎に至ることはかなり防げます。
 かつてはこの病気の手術である
乳突洞削開術はそれ程珍しい手術では無かったようですが、
私自身この手術をしたことは1~2回?
それもずっとずっと昔の話です。
 多くは乳突洞炎になっても強力な抗生物質の点滴と鼓膜切開で
治癒に持って行くことができます。
 ただし、近年、抗生物質の不適切な使用によって、
急性中耳炎がきちんと診断、治療されないまま潜伏、
風邪や気管支炎の診断で経過を見るうち、
菌の耐性化により重症化し、
急性乳突洞炎に至る例があるとの報告があります。
 発熱の初期から抗生物質が投与されているために、
急性中耳炎や乳突洞炎も修飾されていて典型的な所見を欠く
「かくれ急性乳突洞炎」があるといわれています。
 抗生物質に頼り、急性中耳炎に対し鼓膜切開をあまり行わない
医者が増えた事も関係があるようです。
 コメントの方はきちんと診断もつき
大きな合併症もなく適切な治療が行われているようですので
一安心ですが、
今回の乳突洞炎が治癒した後も
風邪等をひけば急性中耳炎から乳突洞炎に至る可能性は
十分にありますので、注意が必要でしょう。
 原因菌としては肺炎球菌が多いです。
 急性中耳炎の原因菌としては
肺炎球菌とインフルエンザ菌が2大原因菌ですが、
急性乳突洞炎を起こすのは殆ど肺炎球菌だと思われます。
 近年、肺炎球菌はクラリス、エリスロマイシンなどの
マクロライド系抗生物質が殆ど効かなくなっていますので
注意が必要です。
 肺炎球菌ワクチンは予防効果があると思います。
(ただしこれは乳児期に接種するモノ)
 もちろんワクチンを打っていてもなる時にはなっちゃうので、
急性中耳炎をキチンと発見し、最後まで治療することが、
予防に対して不可欠であると言えます。
 どうぞお大事にして下さい。
 ドラム叩いてるお父さん(!)にもヨロシク。
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5件のコメント
2012.02.28

ご質問にお答えします


 皆様、こんにちは。
 さあ、ドクターおぐぐの、 なぜなに医療相談 の時間です。
(そんなもん、いつからできたんじゃ。)
 今日はこんなご相談を頂きました。


 こんにちは。千葉在住の二人の男の子の母です。いろいろ調べていてこのブログにたどり着きました。お忙しいとは思いますが、ご相談にのっていただければ大変うれしいです。
 7才になる男の子ですが、熱はなく咳がひどいので、小児科か耳鼻科か悩んで、結局耳鼻科に行ってきました。
 息子はアレルギー性鼻炎があり、朝晩は毎日鼻をかむような状態なのですが、ここ数日はあまり鼻水は出てなかったのですが、以前耳鼻科にいったとき、鼻水がのどのほうにおりてきていて咳がでていることがあったのを思い出し、受診しました。こういう症状の場合、耳鼻科でよかったのでしょうか。
 診察後、クラリシッド、ムコダイン、アクディームを処方されました。鼻水がひどい症状だとだいたいこのセットの処方をされ、1週間ではよくならないので2週間ほど飲みます。こんなに抗生物質を飲み続けても大丈夫なのでしょうか。
 もともと中耳炎になりやすいほうなのか、去年の冬は2回、急性中耳炎になりました。今年はなっていません。乳児の頃は保育園に行ってたこともあり、滲出性中耳炎でした。その後、1才~4年間をアメリカで過ごしていたのですが、そのあいだには中耳炎にはかかることがなかったです。日本はなりやすいとかそういうのってありますか?
 またアレルギー性鼻炎ということでエバステルという薬を飲んでいましたが、あまり飲んだからといって症状の改善がみられないので最近は飲んでいませんが、この薬は飲んだほうがいいのでしょうか。でもこれからずっと飲み続けないといけないのでしょうかか。
 いろいろととりとめなく質問させていただいて申し訳ございません。お時間あるときで結構ですのでご意見を伺いたいです。よろしくお願いします。


 長っ!
 ・・・・・・いや、失礼、
  要約しますと、
①熱が無くて、咳がひどい時受診するのは耳鼻科でいいか?
②クラリシッド、ムコダイン、アクディームのセットが出るが抗生剤を2週間も飲んでいいか?
③日本は中耳炎になりやすい国か?
④効果がないようだがエバステルを飲み続けないといけないか?

 の4点でよろしいでしょうかね。
 順番に行きましょう。
 まず、
①熱が無くて、咳がひどい時受診するのは耳鼻科でいいか?
 ワタシはそれでいいと思います。
ご指摘のように鼻が原因の副鼻腔気管支症候群など、耳鼻科的な疾患の場合は、
子供には多いですし、耳鼻科でも聴診はします。
もっとも多いのは風邪の咳ですが(RS、マイコプラズマを含む)
風邪の専門医は耳鼻咽喉科なので。
 ただし、喘息の診断を受けている方は、小児科の方がいいかなあ。
 呼吸機能検査などを受けて長期のフォローが必要になりますから。
 喘息気味、とか、喘息の「ケ」がある、位ならいいでしょうが。
(しかし、この喘息の「ケ」がある、ってよく言う先生いるけど、
気持ちは分からないでもないが、なんだかなあ、と思ってしまう。)
 熱があった時は必ず耳鼻科に来てくださいね。
 7歳ならまだいいけど、乳幼児、ことに0歳1歳の発熱は耳鼻科を受診してください。
②クラリシッド、ムコダイン、アクディームのセットが出るが抗生剤を2週間も飲んでいいか?
 これはケースバイケースですね。
まず「クラリシッド」が何のために出ているのか?
 風邪であれば抗生剤は不要ですが、咳の続く場合にマイコプラズマ感染症を疑って、
クラリシッドなどマクロライドの薬を処方することがあります。
 この場合、効果がなければ耐性菌などを考え4,5日で薬を変えます。
効果があれば、およそ2週間までは薬を続けることはあります。
 一般に内服抗生剤の効果は3日で判定、有効限度は約2週間と考えています。
 ただし、マクロライドには「少量長期療法」というのがあり、
通常量の半量以下の薬を2~3か月連続で飲むことがあります。
 びまん性汎細気管支炎や、慢性副鼻腔炎の治療で使われます。
③日本は中耳炎になりやすい国か?
 ははは、これはわかりませんね、ワタシ海外で耳鼻科やったことないし。
 まあ、そういうことは無いと思いますが。
 乳幼児期に中耳炎を反復した患者さんが大きくなって体の抵抗力がついて
風邪をひきにくくなると中耳炎になりにくくなりますが、
成長につれアレルギー性鼻炎が悪化してくると再び中耳炎になることはあります。
④効果がないようだがエバステルを飲み続けないといけないか?
 アレルギー性鼻炎と言われていてしかも症状がコントロールされず
急性中耳炎になってるわけでしたら、
アレルギー性鼻炎の治療はした方がいいでしょう。
 しかし、効果がないのでは困ります。
 エバステルは第2世代の抗ヒスタミン剤のなかでも、
効き目はややマイルドな部類の薬です。
 お子さんのアレルギーが強いなら
薬をもう少しランクアップする必要があるでしょう。
 もちろんアレルギー検査でスギ花粉が陽性なら、
これからの季節は2カ月ほど薬を飲みます。
 ただし、アレルギーは原因となる「抗原」の回避が最も大事なので、
薬の効果が不十分な場合に生活環境を見直す必要もあるかもしれません。
 さて、千葉のお母様、こんなトコロでよろしいでしょうか。
 去年はレイソルが強くてまいりましたが、今年はどうでしょうか。
 そういえば、ジェフ、戻って来ませんね。
 それでは、皆様、ごきげんよう。
 また、お会いしましょう。
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4件のコメント
2012.02.03

小児急性中耳炎の抗生剤選択


 急性中耳炎の薬物療法についてコメント欄にいただきましたので、
せっかくですから、ここでご説明しましょう。
 といっても、急性中耳炎には日本耳鼻咽喉科学会が主導してつくった
「小児急性中耳炎ガイドライン」なるものがありますので、
それを、ご覧いただければいいわけなんですが。
 などと言っちゃあ、ミもフタもないんで・・・・。
 まず、第1選択薬は「アモキシシリン」。
いわゆるペニシリン系の薬で商品名は
「パセトシン」「サワシリン」「ワイドシリン」等。
 みな同じ薬ですが、もともと体重当たりのグラム数が多く、
耐性菌を考えさらに高用量で使う場合が多いので、
2倍力価の製剤のある「ワイドシリン」を使う先生が多いです。
(要するに同じ強さの薬としてはワイドシリンはサワシリンの半分量でOK)
 ただ、ここで問題となるのは耐性菌の存在。
 小児急性中耳炎の3大原因菌といえば
1.肺炎球菌
2.インフルエンザ菌
3.モラクセラ・カタラリス
ですが、このうちモラクセラはほぼ100%アモキシシリン耐性です。
 そこで、第2選択としては
「クラバモックス」「メイアクト」が推奨されています。
 クラバモックスはアモキシシリンの高用量に、耐性菌の出す
βーラクタマーゼという酵素を阻害する物質が含まれています。
 メイアクトはセフェム系といわれる抗生物質のグループに中では、
もっともバランスのとれた抗菌力を持つ薬剤です。
 セフェム系は、抗菌力が強く副作用の少ない使いやすい薬ですが、
近年その大量使用により耐性化が進み、
同じセフェム系でも「ケフラール」や「ラリキシン」などの古い世代では、
今日日の中耳炎にはほぼ対抗できません。
(多くは飲まない方がマシ、です。)
 おいしい味で一世を風靡した「セフゾン」も最近は耐性化が進んでいます。
 ご質問の「トミロン」ですが、セフェム系で現時点でもかなり抗菌力を発揮する薬剤です。
 特に、先の原因菌のうちインフルエンザ菌に関しては、
メイアクトを上回る抗菌力を持っています。
 ただし、グラム陽性菌にやや弱く、
特に黄色ブドウ球菌(トビヒの菌ですね)には
抗菌力を期待できません。
 トミロンは、だから中耳炎には効くと思いますよ。
 ワタシも耐性化の進んだインフルエンザ菌による
急性中耳炎の時にはトミロンを高用量で出します。
 一方、マクロライド系の抗生剤は、耐性化が進んでおり、
特に中耳炎の最も多い原因菌である肺炎球菌に対しては、
7割以上が耐性化しており、
中耳炎の治療薬としては不適切です。
 もちろん急性中耳炎のガイドラインにはどこにも出てきません。
 それでも、「クラリス」や「エリスロマイシン」が好きなセンセイ多いんだよなあ。
(最近はマイコプラズマにも半分以上が効かなくなってるのに。)
 さて、それでもだめならの最終選択の薬剤として
「オラペネム」「オゼックス」があります。
 これらは、難治化のすすむ小児急性中耳炎の切り札として、
耳鼻科医が製薬会社に頼んで開発してもらったという、
異例の生い立ちを持っています。
 確かにキレ味はいいのですが、これが効かなくなっちゃうと、
次の手がないので、なるべく使わずに済ませたい薬剤で、
製薬会社もそんなプロモーションをしています。
 もちろん、この種の薬が使われるような状況では、
当然「鼓膜切開」のような外科的処置が講じられるわけです。
 くれぐれも安易に、漠然と使わないように、という薬剤です。
 今日も午前中だけで鼓膜切開が3件。
 まだまだ中耳炎の季節は続くのだ。
 カテゴリの「中耳炎」をクリックしていただくと
他にも中耳炎の話がまだありますのでどうぞ。
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7件のコメント
2010.12.02

オラペネム耐性インフルエンザ菌

 ついに出た、といってもあまりありがたくないものが出た。
 オラペネム耐性のインフルエンザ菌である。
 6か月の赤ちゃん、急性中耳炎で鼓膜切開したが、
耳だれが止まらず、培養結果出る前だったが、
抗生剤をメイアクトからオラペネムに変更。
 しかし、それでも一向に良くならず、
昨日菌検査の報告が来て上記が判明。
 感受性を見て抗生剤をオゼックスに変更して、
本日はかなり良くなっていた。
 やれやれ。
 MRSAやアシネトバクターでは耐性菌でもどうってことないが、
インフルエンザ菌は、困るなあ。
 あ、誤解ないように。
 インフルエンザじゃないよ。
 よくわかんないヒトは私の過去の記事
インフルエンザではありません」←クリックして参照してください。
 そもそもオラペネム、オゼックスは
近年の乳幼児の中耳炎の難治化に問題を感じた学会側が、
メーカーに働きかけて「出してもらった」新しい抗生剤である。
 メイアクト、フロモックス以降、長年にわたり抗生剤の新薬が出ず、
小児科医、耳鼻科医の抗生剤の乱用、
必要ない病態に対しての垂れ流し的使用によって
巷にはすっかり耐性菌が蔓延し、
幼小児の中耳炎の難治化が耳鼻科医の間で問題になっていた。
 そこで現れたこの2剤は、メーカー側もお医者さんに
「なるべく使わないでくださいね。」
という売り方をする珍しい薬なのだ。
 当院でも症例を限ってなるべく使わないようにしてるのだが、
早くも耐性菌が出てしまっているとは。
 しかし、どんな抗生剤にも耐性菌は存在し、
それは、薬ができる前からあるというが。
(この辺の話、難しいけど面白いのであとでこのブログで解説しますね。)
 ともかく、これからますます気をつけて行かないと。
 しかし、インフルエンザ菌も生き残りをかけて必死なのだなあ。
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9件のコメント
2010.08.23

コメント欄のご質問にお答えします。

 ブログのコメントコーナーにこんなコメントをいただきました。
お忙しい中ありがとうございます
あの…前にも聞いてもらったんだけど…
いま、あたしは20代で…今年の4月から看護学校へ入学したため地元を離れて暮らしています
滲出性中耳炎でおととしぐらいから、月に2~3回ぐらい耳鼻科に通ってました
左耳は全く聞こえないわけじゃないけど…あまり聞こえません…
鼻から空気を入れる治療?を先生からすすめられたんだけど…
スッゴく痛くて怖くて、イヤで…
鼓膜切開をしてもらって耳にチューブを入れてもらってました
抜けたりしたんで耳鼻科に通い出して3年ぐらいの間に3回チューブを入れてもらってました
その時はよく聞こえてたんだけど…学校入学する前の3月頃にチューブが外れて…そのまま地元を離れてしまい…7月まで耳鼻科には通っていませんでした…
夏休みに入り…今は地元に帰ってるので耳鼻科に行ってます
先生にまたチューブを入れてほしいと頼んだんだけど…
今は耳には水がたまってないって言われて…鼓膜の傾きがキツイから耳が聞こえにくくなっていると言われて…
痛いけど我慢して…週に2回通い…鼻から空気を通してもらって治療をしてもらっています…
もうすぐ夏休みが終わり…地元を離れるんですけど…場所が変わってもやっぱり定期的に通院したほうが良いですよね?
1番悩んでるのが…交通の便が悪くて病院(クリニック)が遠いことなんです…
学校がある場所が田舎で本当に交通の便が悪く…耳鼻科に通うのが大変なんです…
痛いうえに通院が大変になってくると…耳鼻科に通うのがが苦痛で仕方がないんです…
右耳は普通に聞こえるから…生活には支障はないんだけど…
正直いつまで通院すれば良いのかがわからなくて…
鼻から空気を通してもらって治療をしてても…その時は聞こえるけどまた聞こえにくくなって…
完治するのは難しいんですよね?
やっぱり…定期的これからもずっと通う必要があるんですか?
学校の近くに大きな病院があり…
学校が休みの土曜日も診察しているので…
その病院なら近いから通院はしやすいから…受診してみようか考えてるんだけど…
大きな病院だから…受診をためらってます…
滲出性中耳炎で…大きな病院を受診しても良いんですか?
まだ3年学校へ行くんで…学校がある場所でも耳鼻科に通院して…ちゃんと治したいとは思ってるけれども…
完治するのかしないのか先が見えない…
定期的に通院するとなったら、病院(クリニック)が遠いから月数回であってもしんどい……
それなら近くてすぐ通える大きな病院に行きたいけど…大きな病院だから迷ってます…
自分で言ってて…本当に勝手なわがままな患者だなあって思うけれども…
悩んでます…

 と、こんな内容です。
 「・・・・・」が多いところが、相当悩まれてる感じです。
 実際に診察してないので、正確なお答えはできませんが、
少し検討してみましょう。
 「手掛かり」がいくつかあります。
①3回くらいチューブを入れたが外れてしまった。
②通気した時は良いが、また戻ってしまう。
③今、水はたまっていないが、鼓膜の傾きがキツイ、といわれている。
④今、20代である。
 知りたいことが4つあります。
①小さい頃、中耳炎を繰り返したことは無いですか。
②小さい頃、副鼻腔炎、蓄膿症などと言われたことは無いですか。
③アレルギー性鼻炎、花粉症などはありませんか。
④自分の声が響いたり、鼻をすする癖はありませんか。
 お話を伺うと、なんとなく鼓膜の所見が浮かんできます。
 おそらく、いわゆる「アテレクティック・イヤー」気味の耳なんでしょうね。
 アテレクティック・イヤーとは何か。
 鼓膜は「太鼓」の皮みたいにピンと張った状態が正常です。
 それが、長く滲出性中耳炎が放置され、
中耳に水がたまった状態が続くと、
鼓膜の皮が薄くなってぺナぺナになってしまいます。
 「鼓膜の傾きがキツイ」というのは、
おそらく鼓膜が、向こう側に接着するほど「内陥」しているということだと思います。
(私はこれをいつも「ボディコンの鼓膜」と呼んでましたが「ボディコン」が死語になってしまった。)
 イメージ的にはやけどのあとの水疱を針でついて潰した状態とか。
 汗をかいて、シャツごしに「胸ポチ」がわかっちゃう状態とか。
(どうしてもエロ路線に行ってしまう・・・・。)
 ともかく鼓膜がペチャンコで向こう側にはりついちゃってる状態です。
 耳管といわれる耳と鼻をつなぐ管の機能異常からおこり、
耳管狭窄症でも鼻すすりタイプの耳管開放症でもなります。
 鼓膜はペチャンコなので聞こえが悪く、
通気にて一時的に良くなっても、
またすーっとしぼんでしまいます。
 耳鼻科で通気直後に患者さんにハナすすりをしてもらい、
その様子をファイバーで観察すると、わかります。
 普通はチューブが自然に外れてしまうことは少ないので、
この方のようにすぐ脱落しちゃうのは、
鼓膜に「コシが無い」ことに起因する場合が多いです。
 さて、では治療方針です。
 一般に「耳管機能」は幼小児では悪く、
成長とともに成熟してきます。
 20代、ということであれば、今後加齢による耳管機能の改善は望めません。
 耳管機能は、鼻の病気によって悪化しますから、
アレルギー性鼻炎などの鼻の病気の治療によって、
鼓膜の状態の改善が期待できます。
 アレルギー性鼻炎などがあれば、自覚的な鼻詰まりが無くても、
そちらの治療をしてみるべきです。
  しかし、鼻も悪くない、アレルギー性鼻炎もない、といった時には
事態は深刻です。
 まずその場合、耳管開放症の有無が最も問題になります。
 先ほどの④の質問はそこなのですが。
 それがあれば、そちらの治療ですが、
一応「自分の声が響く」という記載がないので、
耳管狭窄症のみだと考えられます。
 耳管開放症の治療は、またまた難しいので、
別の機会に説明します。
 さて、鼓膜が変化してしまった以上、
通気のみでは治りません。
(もちろん、程度によっては徐々に治るものもないわけではないですが・・・)
 チューブ留置は検討されるべき治療です。
 鼓膜がある程度チューブに耐えられれば、
水がたまっていなくともチューブ留置をすべきです。
 ただし、鼓膜が極端に薄いと脱落、そしてその後の穿孔を残す恐れがあります。
 鼓膜に極端に薄い部分がある時は、比較的厚い部分との境に切開を置き、
厚い部分に「あごを乗せるように」チューブを入れると安定します。
 その辺は、実際に診ないと分かりません。
 では、通気は意味がないのかというと、そうでもありません。
 鼓膜の鼓室への癒着を防ぎ、慢性中耳炎、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎への移行を
阻止するため、定期的な通気は必要です。
 しかし、週2回は必要ないでしょう。
 具体的な頻度は難しいですが、
乾いている耳ならば大人であれば1~2カ月に一回くらいでいいのでは。
 ただしこれは「完治」を目指すものではなく「増悪、進行を防ぐ」行為です。
 大きな病院は、いろいろですね。
 大学病院とかでは、相手にされないでしょうからやめといた方がいいですね。
そもそも大学病院の先生は「滲出性中耳炎」はあまり詳しくありませんし。
 
 常勤の先生が毎日外来やってる病院ならまあ、大丈夫でしょうが
曜日変わりでパートの先生が来てる病院は
こういう「慢性の経過」をとる病気は、やめといた方がいいかも。
 なかなか、これ以上は実際に診てないのでわかりません。
 セカンドオピニオンとして、
いくつかの医療機関で意見を聞いてみるのもいいかもしれませんね。
 その際、診断、ではなく、
「長期的な今後の見通し、方針」をしっかり聞いてください。
 通気して、また来週来てね、では意味無いですから。
 では、お大事に。
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5件のコメント
2010.07.27

見えない力


 耳鼻科の外来で日常的に行われる手術に「鼓膜切開」があります。
 ほぼ毎日あるくらいポピュラーな手術ではあります。
 実は「急性中耳炎」に対する鼓膜切開のタイミングは、
2回あります。
 一つは急性期、鼓膜の腫れが強く、
発熱や痛みが薬でコントロールできない場合。
 鼓膜切開によって痛みや高熱は速やかに改善します。
 まあ、この場合は文字通り「緊急」な状況なので、
患者さんにも受け入れられやすい。
 耳が痛い子に抗生剤と痛み止め出して、
今晩も痛かったり、明日も熱が高ければ来てね、
といいます。
 多くは薬で何とかなりますが良くならなかった子は、
翌日、やっぱ、切った方がいいですねと言って鼓膜切開とか。
 親はある程度覚悟してきますし、
もちろんすぐ結果も出る。
 そして、問題となるのはもう一回のタイミング。
 これは、急性中耳炎の急性期は過ぎ、
痛みも熱もないが、いつまでたっても中耳の滲出液が引かない時。
 普通は2週間くらいで、水が無くなるので、
はい、終わりです、となるのだが、
3週間たっても4週間たっても動きが無ければ、
鼓膜切開を考えるわけだ。
 一刻を争うわけではないので、その時、いきなりというのもアレなので、
説明をして、来週も良くなってなかったら切開しましょうね、
といって、次、来てもらうのだが。
 とすると、一週間後耳を見て、
「!」 ということが意外とある。
「おお、良くなってきてるじゃん。やったね。」
 ってことで、切開は見送り。
 まあ、一般には
「うーん、やっぱ、ダメだったねー、切りますか。」
という場合の方がもちろん、全然多いのだが、
 ずーっと何週間も治らなかったのが、
「じゃあ、今度切るね。」
といって治っちゃう例は、確かによく遭遇する。
 これは、もちろん時間経過でたまたま、という場合はあるだろうが、
どうも何か 「見えない力」 が働いてるような気がする。
 今度切られるのはいやだ、という子供の緊張が、何か治癒力を発生させるのか。
 でも、そういう意識の無いはずの赤ちゃんでもこの手の事はあるので、
その場合は、今度切られちゃうのはかわいそう、という母親の
母性愛や気合みたいなものが、赤ちゃんに乗り移るのか。
 人間の治癒力にはまだまだ「謎」が多い。
 ただ、その時点で「母親の気合(?)」が切れて、
翌週に結局、やっぱ切開、ってパターンもたまにあるけど。
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2件のコメント
2010.04.20

「おしゃぶり」の危険性

 問診は診察の基本。
 耳鼻咽喉科は主として「目で見て」診断する科なのですが、
やはり訊かねばわからないことも多い。
 乳幼児の発熱のとき初診で必ず訊くことは
①保育園に行っていますか
②母乳栄養でしたか、ミルクでしたか
③上に兄弟がいますか
④今まで中耳炎したことがありますか
⑤風邪で小児科等でよく薬をもらってましたか
 まあ、これらが要するに
子供の風邪、そして中耳炎が治りにくくなるリスク・ファクターなわけだ。
 他には、家族、特に母親の喫煙とか、
両親のアレルギー素因とか、
アトピー、喘息の合併とか、いろいろありますが。
 そして、中耳炎のときにもうひとつ大事なのが
「おしゃぶり使ってますか?」
という点です。
 実は「おしゃぶり」は中耳炎の誘発因子です。
 これが意外と盲点だったりします。
 常に口から吸い込むことによって鼻咽腔が陰圧になることが原因です。
 小児歯科領域でも「おしゃぶり」は良くないみたいですな。
 インターネットで調べるとまずそっち関係がいっぱい出ます。
小児歯科学会」←こんなのとか
 まあ、歯のことはわかりませんが、中耳炎やった事ある子(滲出性中耳炎を含む)は
おしゃぶりやめといて頂きたい、です。
 ちなみに私の「おしゃぶり」のイメージは
「ひみつのアッコちゃん」の「少将」です。(古っ!)
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2009.12.14

点耳薬の正しい使い方


 学会で家にいないと急患の方を診られないせいか、
今日は休み中に熱が出たり中耳炎になったりで、
救急や他院にかかられた方がみえましたね。
 さて、そこで、複数の方から出た質問で
「小倉先生は点耳薬を使わないが必要ないのか?」
というのがありました。
 答は
「鼓膜穿孔のない急性中耳炎には全く必要ありません。」
ということです。
 中耳炎はその名のとおり、中耳にバイ菌がいます。
もともと中耳は無菌的な場所ですが、
耳管という管で鼻とつながっており、
ここを経由して細菌感染が起こるのが「急性中耳炎」です。
 一方、外耳道と中耳は鼓膜で境されており、
鼓膜は「防水」です。
そうでなければ、プールに入るたび中耳炎になっちゃいます。
 だから、鼓膜に穴の開いてない耳にいくら水の薬をたらしても
肝心の中耳のバイ菌には届きません。
 目をしっかりつぶって目薬をつけてるようなもの、
いや、目にはそれでもまぶたを開ければ回り込むからそれ以下ですね。
 そればかりか、点耳薬が外耳道の外側の汚い部分を鼓膜の近くに流し込んだり、
鼓膜が破けて耳だれが出たときに、耳だれだか水の薬だかわからず困ります。
 学会の決めた急性中耳炎のガイドラインにおいても、原則、点耳薬は用いません。
鼓膜穿孔のある場合に使用は限られてます。
(改訂前は全く記載がありませんでした。)
 さらに問題なのは、鼓膜穿孔です。
中耳炎で耳だれが出ていれば「鼓膜に穴が開いてる」と考えても悪くないのですが、
普通に水薬をたらして中耳まで行くような大きな穴が開いていることは
まずありません。
 まして、耳だれがたまっていれば、その上からたらしても中耳には行きません。
 少なくとも、鼓膜切開後のようにしっかり開けた穴かチューブ挿入耳で無い限り、
点耳薬のメリットはなく、逆にデメリットのほうが多いと考えられます。
それもできれば、耳漏を吸引し、かつ点耳した薬を、
中耳に流し込むような処置をしてあげたいところです。
 だから私は、通常の急性中耳炎では、たとえ耳だれが出ていても
点耳薬は使うべきでないと考えています。
(いや、オレが言ってるだけじゃなく、実際そうなのよ。
今日来た人は、点耳が処方されて、「オグラ先生はいつも点耳薬使いませんけど。」って言ったら
その病院のところの薬剤師さんに「いろんな考えの先生がいますからね。」と言われたそうな。
どっちの先生を指していったんだろうか。もちろん、耳だれ、穿孔のない子です。)
 一方「外耳道に菌のいる」外耳炎や、
大穿孔のある慢性中耳炎には点耳薬は有効ですが、
それも漫然と使うと、菌交代が起きたり、カビが繁殖することはよく起こります。
 点耳薬などの外用薬は、内服に比べると安全だと錯覚して、
「じゃあ、点耳も使ってみて」、なんてことを、
素人の親御さんばかりか、医者でも軽くいう人がいたらちょっと残念です。
 ただ病名と適応症があってるので
「医学的には不要」でも「保険診療上はOK」なんだわ。

10件のコメント
2009.11.06

滲出性中耳炎の手術


 あー、今日の午後は疲れたぞ。
 インフルエンザは依然として猛威をふるってるし、
風邪引き、ハナタレから中耳炎になる子も増えて来た。
 しかも、金曜の夕方は滲出性中耳炎の子の手術が多い。
 鼓膜切開をした場合、耳だれなんかが出ちゃうことがあるので、
翌日診察をすることにしてる。
 すると、親の仕事の関係で平日なかなか来院できない子は、
金曜日の夕方切開して土曜日に再診、なんてパターンが多いのだ。
 特に今日は鼓膜切開が1歳と2歳の2名3耳あったが、
あらかじめ予定手術として4歳児の鼓膜チューブ留置が入ってた。
 Sちゃんは4歳の女の子だが滲出性中耳炎がずーっと治らない。
 これまでに鼓膜切開を両耳3回づつしたけど、
いずれも粘っこい滲出液が満タン。
 そして、その穴が開いてるうちは良いが閉じるとともに水がたまっちゃうのだ。
 それで、チューブ留置を勧め、2週間前に右側を手術。
左は先週の金、土でやるはずだったが、
先週私のほうでお通夜に行く用事が入っちゃったので今日になった。
 問題はSちゃん、あばれ方が半端じゃない。
 診察で耳を見るだけでも大暴れ、お父さんはいつも汗だくだ。
 普段はおとなしいが診察台に座ると突然豹変する。
エクソシストとかあんな感じだ。
2週間前の手術もそれはそれは大変だった。
 それでいて、家では妹(今日の鼓膜切開の2歳児)と一緒に
「ジビカごっこ」をしてるらしい。
「ハイ、お耳、みてみますね。」なんて。
実はこの妹も大暴れムスメなのだ。
 今日もSちゃん、鼓膜麻酔まではおとなしくさせるのだが、
いざ診察台に来ると大暴れ。
 麻酔をすると耳の痛みは全くないのだが、
恐怖心で激しく全身を使って抵抗する。
 スタッフ4~5人で抑えるが一瞬たりともじっとしていない。
ものすごい力だ。
 ちなみに家での「ジビカごっこ」では、あばれるシーンは入ってないらしい。
 何とか耳垢を取り、まず鼓膜切開。
 視野を確保するまでが一苦労だ。
 顕微鏡を動かしながらタイミングを待つ。
 コンマ何秒の隙を見てメスを入れる。
 果たしてドロドロの滲出液が充満。
吸引管でもなかなか吸いきれない。
やっぱ、こりゃ、チューブ必要だよねー。
 さて、こっからが問題だ。
 子供の細い耳の穴の奥の鼓膜に正確にチューブを入れるのはなかなか至難の業だ。
 研修医では全身麻酔で20分で入れられれば上出来だが、
局所麻酔ではそんな悠長なことは言ってられない。
 私は訓練の甲斐あって3秒あれば入れられるようになった。
 しかし、今日のSちゃんの動きは半端じゃない。
3秒間も止まってはくれないのよ。
「オウチ、カエルー」
「ほら、もうちょっと、がんばってー。」
「ぎゃー。」
「Sちゃん、みーっつ数えようか。いーち、にー・・・」
「イーヤダー、おかね、ハラウー。」
 ちなみに「お金払う」とは、いつも診察後お会計すると帰れるので、ということらしい。
金でこの一件を示談に持ち込む、という意味ではないようだ。
 みんなで押さえること2~30分。
私は顕微鏡を動かしながら、ずっと鉗子をもって、チャンスを待ってる。
 そして、一瞬止まった隙を見てチューブを挿入。
その間1秒足らず。
「よし、入った、みたい。」
 しかし、その後もチューブがちゃんと入ってるか確認するのに
大暴れが止まらず、またしばしみんなで格闘した。
 無事入ってました。
 めでたくチューブの入った鼓膜の写真を撮り、
同じファイルにSちゃんのピースサインをしてる顔写真も取り込んだ。
2週間前の写真は泣き顔だったけど、
今度チューブが入ったらピースサインするって、お母さんと約束してきたらしい。
 いやー、Sちゃん、良かったねー。
これでお耳がよく聞こえるようになるぞー。
ピアノも上手になるぞ。
 それにしても、粘り強くがんばったスタッフの皆さん、そしてお父さん、
大変ご苦労様でした。
 きっと、明日はみんな筋肉痛だ。
 Sちゃん姉妹、今夜は「ジビカごっこ」、するんだろか。
きっと、疲れて、すぐ寝ちゃうね。
 おやすみなさい。

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