嫌気性菌
耳鼻咽喉科は感染症を扱う機会が他の診療科よりもかなり多いと思います。
細菌感染、ウイルス感染がその大半を占めますが、
今回は細菌感染のお話、なかでも「嫌気性菌」のお話をします。
外耳炎、中耳炎、扁桃炎など耳鼻咽喉科領域の細菌感染の多くは
肺炎球菌、インフルエンザ菌、溶連菌などすべて好気性菌です。
「好気性菌」に対し「嫌気性菌」とは空気のあるところ、
すなわち20%程度の酸素を含む大気中では生息できない菌。
通常は増殖しないこれらの菌によって起きる感染症が
「嫌気性菌感染症」として時に問題になります。
「(誤嚥性)肺炎」「腹膜炎」「卵巣・卵管膿瘍」など
「深在性」の感染症をひき起こし、
ときに「敗血症」など致命的な二次感染に至ります。
耳鼻咽喉科領域では口腔咽頭からの感染が波及した
「深頸部感染症」が問題になります。
重症感染症で「頸部膿瘍」をきたし、
外切開などの手術が必要になる場合が多いですが、
そのほかに「扁桃周囲膿瘍」や「副鼻腔炎」で
嫌気性菌が原因になることがあります。
当ブログでも何回か話題にしたことがありますが、
「副鼻腔炎」は大人から子供までありふれた感染症です。
「副鼻腔炎」は風邪による急性鼻炎の二次感染ですから、
その原因菌の多くは鼻内に生息する
「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」です。
これらに対し、適切な抗生物質を使って治療するわけですが、
時に、大人の慢性副鼻腔炎で、なかなか治らないことがあります。
いつまでも、膿性のハナが出たり、
のどにタンがまわる「後鼻漏」に悩まされます。
時には頬部や歯の痛み、悪臭などがあるようなら要注意です。
副鼻腔、上顎洞が、空気の入らない「閉鎖空間」になり、
そこで「嫌気性菌」が発育することがあります。
この場合、なんといっても有効なのが上顎洞穿刺洗浄、
いわゆるシュミットです。
嫌気性菌感染症の治療を、教科書的に調べると
以下のような記載があります。
1. 排膿(ドレナージ):まず第一にこれを行なう。これは抗生剤療法に先行する。
2. 壊死組織の外科的切除:開胸排膿など
3. 抗生剤療法:膿瘍や壊死組織での薬剤濃度を高めるために通常経静脈投与を行なう。
アミノグリコシドは嫌気性菌に無効である。
つまり「シュミット」により
1.膿を外に出す、排膿することができます
2.空気を送り込むことにより、嫌気性菌の増殖を抑え込むことができます
3.上顎洞内に直接抗菌剤を注入することができるので、
内服や点滴静注に比べて薬剤濃度を飛躍的に高めることができます。
針を刺して、ピストンを引くと、
黄色不透明の粘っこい膿が吸引され、
滅菌精製水で洗浄をすると、膿盆に悪臭のある濁った液体がたくさん出てきます。
最後に穿刺針から抗生物質を注入すると終わり。
ピストンの膿を「嫌気培養」すると
「フソバクテリウム」「バクテロイデス」「ペプトストレプトコッカス」などの
「嫌気性菌」が検出されます。
ちなみに「嫌気性菌」はその性質上、通常の細菌検査では培養されず、
「嫌気培養」を指定しないと検出されませんので、
この菌が念頭にないと診断を誤ることになります。
さて、これらの「嫌気性菌」はどこからやってくるのでしょうか。
実はこいつらは我々の体に住んでいる「常在菌」です。
「嫌気性菌」は人間の体の皮膚・粘膜、口腔内、腸管内、女性性器内等に常在し、
なんと、人の粘膜の常在菌叢の99%以上を占めるのです。
ちなみに有名な「破傷風」は嫌気性菌ですが、常在菌ではありません。
なので「外因性感染」といいますが、これは特殊な例で、
「破傷風」「ボツリヌス毒素」「ガス壊疽」以外の嫌気性菌感染症は
すべて「内因性感染」です。
ここのところ結構多くて、
週2,3人はシュミットしていますが、
みんな良くなります。
最近の若い先生はシュミットしないようで、
この手技がすたれちゃうのはちょっともったいない。
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