ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2012.02.03

小児急性中耳炎の抗生剤選択


 急性中耳炎の薬物療法についてコメント欄にいただきましたので、
せっかくですから、ここでご説明しましょう。
 といっても、急性中耳炎には日本耳鼻咽喉科学会が主導してつくった
「小児急性中耳炎ガイドライン」なるものがありますので、
それを、ご覧いただければいいわけなんですが。
 などと言っちゃあ、ミもフタもないんで・・・・。
 まず、第1選択薬は「アモキシシリン」。
いわゆるペニシリン系の薬で商品名は
「パセトシン」「サワシリン」「ワイドシリン」等。
 みな同じ薬ですが、もともと体重当たりのグラム数が多く、
耐性菌を考えさらに高用量で使う場合が多いので、
2倍力価の製剤のある「ワイドシリン」を使う先生が多いです。
(要するに同じ強さの薬としてはワイドシリンはサワシリンの半分量でOK)
 ただ、ここで問題となるのは耐性菌の存在。
 小児急性中耳炎の3大原因菌といえば
1.肺炎球菌
2.インフルエンザ菌
3.モラクセラ・カタラリス
ですが、このうちモラクセラはほぼ100%アモキシシリン耐性です。
 そこで、第2選択としては
「クラバモックス」「メイアクト」が推奨されています。
 クラバモックスはアモキシシリンの高用量に、耐性菌の出す
βーラクタマーゼという酵素を阻害する物質が含まれています。
 メイアクトはセフェム系といわれる抗生物質のグループに中では、
もっともバランスのとれた抗菌力を持つ薬剤です。
 セフェム系は、抗菌力が強く副作用の少ない使いやすい薬ですが、
近年その大量使用により耐性化が進み、
同じセフェム系でも「ケフラール」や「ラリキシン」などの古い世代では、
今日日の中耳炎にはほぼ対抗できません。
(多くは飲まない方がマシ、です。)
 おいしい味で一世を風靡した「セフゾン」も最近は耐性化が進んでいます。
 ご質問の「トミロン」ですが、セフェム系で現時点でもかなり抗菌力を発揮する薬剤です。
 特に、先の原因菌のうちインフルエンザ菌に関しては、
メイアクトを上回る抗菌力を持っています。
 ただし、グラム陽性菌にやや弱く、
特に黄色ブドウ球菌(トビヒの菌ですね)には
抗菌力を期待できません。
 トミロンは、だから中耳炎には効くと思いますよ。
 ワタシも耐性化の進んだインフルエンザ菌による
急性中耳炎の時にはトミロンを高用量で出します。
 一方、マクロライド系の抗生剤は、耐性化が進んでおり、
特に中耳炎の最も多い原因菌である肺炎球菌に対しては、
7割以上が耐性化しており、
中耳炎の治療薬としては不適切です。
 もちろん急性中耳炎のガイドラインにはどこにも出てきません。
 それでも、「クラリス」や「エリスロマイシン」が好きなセンセイ多いんだよなあ。
(最近はマイコプラズマにも半分以上が効かなくなってるのに。)
 さて、それでもだめならの最終選択の薬剤として
「オラペネム」「オゼックス」があります。
 これらは、難治化のすすむ小児急性中耳炎の切り札として、
耳鼻科医が製薬会社に頼んで開発してもらったという、
異例の生い立ちを持っています。
 確かにキレ味はいいのですが、これが効かなくなっちゃうと、
次の手がないので、なるべく使わずに済ませたい薬剤で、
製薬会社もそんなプロモーションをしています。
 もちろん、この種の薬が使われるような状況では、
当然「鼓膜切開」のような外科的処置が講じられるわけです。
 くれぐれも安易に、漠然と使わないように、という薬剤です。
 今日も午前中だけで鼓膜切開が3件。
 まだまだ中耳炎の季節は続くのだ。
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