ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2010.04.27

「肺炎球菌ワクチン」についてのお話~その2


 肺炎球菌の話の続きです。
 第2章 肺炎球菌の耐性化
 近年「PRSP」というものが問題になっています。
 これは「ペニシリン耐性肺炎球菌」のことで、
いわゆる「薬の効かない菌」のことです。
 抗生物質を飲むと菌が死んで、中耳炎や肺炎が良くなります。
 中耳や肺からは菌がいなくなりますが、鼻腔からは菌は消えません。
 
 こういった菌はヒトからヒトにうつります。
 しかし、鼻の中なら別に何の症状も出ないので、もらってもそれとはわかりません。
 特に、保育園、それも年齢の小さい子供たちのクラスでは頻繁にこのようなことが起こります。
 幼小児の4割がこういった「潜在的病原菌」を普段から持ってるといわれますが、
これが「集団保育の子供たち」では9割にもなるといいます。
 近年、こういった菌の中に抗生物質が効かない菌が増えてきました。
 菌の耐性化は偶然起こるものですが、
いったん耐性化した菌は、ヒトからヒトへとうつります。
 抗生剤を使ったとき、耐性菌だけが生き残るので、
やがて、感染の主要な菌になっていきます。
 このような耐性菌が増えた理由は抗生物質の濫用です。
 本来、風邪はウイルス感染ですから、抗生物質は無効です。
 最近の考え方だと熱が39度だろうと40度だろうと
それだけでは原則的に抗生物質は使いません。
 しかし、かつてはそうではなかった。
 耐性菌の増加は
安易に「念のため」とか「とりあえず」で抗生物質を出していた我々医者の責任です。
 中耳炎を起こすから「予防」のため、なんてのもダメです。
 抗生剤飲んでても中耳炎になりますし、
そのためにかえって治りにくくなることもあります。
 まさか今はいないでしょうが、
兄弟で「溶連菌」の子が出ると、
症状の無い兄弟全員に抗生剤を飲ませるセンセイもいたらしいです。
 大分前に「MRSA」というものが話題になりました。
 これは「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」のことで、
やはり薬が効かない「耐性菌」です。
 しかし、「MRSA」が「PRSP」と大きく違う点があります。
 それは「MRSA」は「弱毒性」という点です。
 同じブドウ球菌でも「MRSA」は、通常の健康な人に感染症を起こすことはまずありません。
 低体重新生児、ガン末期、などの免疫力の弱い人に感染を起こすので
主として病院内の「院内感染」が問題になります。
 ところが「PRSP」はそんなことは無く、健康な人にも
どんどん感染症を起こしてきます。
 近年、中耳炎が治りにくくなってるのはこのためで、学会でも問題になっています。
 中耳炎で問題になってるって事は、
中耳炎そのものがべらぼうに多いからなので、
同じ肺炎球菌の「重症感染症」も治りにくくなってることが推測されます。
 中耳炎であれば鼓膜切開などの手術もありますし、
すぐに生命の危険は無いわけですが、
こういった菌が「髄膜炎」「菌血症」「肺炎」などを起こした場合は深刻です。
 そのため、小さい子の肺炎球菌の制御は大きな意味があるわけです。
 第3章ではいよいよ肺炎球菌ワクチンについて説明します。
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2010.04.27

「肺炎球菌ワクチン」についてのお話~その1


 最近、問い合わせの多い「肺炎球菌ワクチン」ですが、
ここで、ご説明しましょう。
 今回から数回にわたってご説明しますので、
興味のある方は、是非お読みください。
第1章 肺炎球菌とは
 私が、医学生の頃「細菌学」の授業の最初に聞いた話です。
 その、最初に教授が言ったことは、
「諸君は細菌というと、赤痢菌やペスト菌を連想するだろうが、
そんな菌に日常遭遇することはまずありません。」
 要するに「細菌」には3つのグループがあり
①体に入れば必ず病気を起こすもの(赤痢菌、ペスト菌etc.)
②通常は病原性を持たないもの(いわゆる常在菌)
③場所によっては「常在」するが、臓器に進入して病気を起こすもの
に分けて考えることができる。
 我々が通常の臨床で遭遇するのは③のグループの菌が多い。
 そんなわけで、講義の第1回は 「黄色ブドウ球菌」 だった。
んで、次に習ったのが「溶連菌」として有名な 「溶血性連鎖球菌」。
 もう、30年も前の話だが良く覚えています。
 肺炎球菌は、この③のグループに属する菌で、
その名のとおり「肺炎」の原因菌としては最重要ですが、
ヒトの鼻咽腔に「常在」することがあり、特に幼小児と老人で問題になります。
「中耳炎」の原因菌としては頻度がもっとも多い菌です。
 肺炎球菌が引き起こす病気として、もっとも危険なのは
「細菌性髄膜炎」 です。
 発症率は 5歳未満の10万人に2.9人 といわれていますが、
3分の1程度は死亡や重い後遺障害が残るといわれており大変危険です。
「細菌性髄膜炎」の原因としては「インフルエンザ菌B型(ヒブ)」の方が
頻度は高いですが、重症度は肺炎球菌のほうが高いといわれています。
 次に 「菌血症」 があります。
 発症率は 5歳未満の10万人に328人
 菌が血液の中に入ることによって多くの臓器にうつります。
 そしてもちろん 「肺炎」 です。
これはぐぐっと頻度は上がります。
 で、「中耳炎」 ですが、これはさらに3桁くらい頻度が上がります。
 まあ、そんなわけで「肺炎球菌感染症」を日頃一番診てるのは我々耳鼻科医なんです。
 毎日のように、
「うーん、こりゃ、肺炎球菌ですね、」
というセリフを口にしてます。
 肺炎球菌はインフルエンザ菌と並んで急性中耳炎の2大起炎菌ですが、
インフルエンザ菌と比べて、臨床症状が激しいのが特徴ですね。
 そして、その「肺炎球菌」が、近年、大きく変貌しています。
 ~第2章に続く
 次回は近年の肺炎球菌の問題点についてお話します。
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