ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2008.12.21

子供の鼓膜チューブ留置術

 この1週間は、やたら子供の鼓膜切開とかチューブ留置手術が多かった。
 やはり、年内にナントカしたいという、お母さんとお医者さんの思惑が作用してんだろうなー。
特に、幼稚園児のチューブ留置が3件もありました。
 そういえば、トモキ君のお母さん、コメントありがとうございました。
勝手に書いちゃってスイマセンでした。
(バックナンバー『師走でおわす』参照)
 大学病院には、子供の中耳炎なんかほとんど来ませんから、
大きな病院の先生は、子供の中耳炎の実態がわかりません。
 私が、研修医で大学にいたとき、
以前全身麻酔で入れた子供のチューブが外来で抜けないので、
全身麻酔でとることになりました。
いくらなんでも、そりゃねーだろ、と思ったけど、
誰もあばれる子供のチューブを抜くことが出来なかったのです。
大学病院のレベルなんて、子供の中耳炎に対してはそんなもんです。
 私もその頃は、まだ何も出来ない研修医でした。
 やがて、何年もトレーニングをし、様々な耳鼻咽喉科の手術や処置の技術を身につけました。
大きな病院で、医長になり、たくさんの手術を術者としてやるようになりました。
チューブを入れるのも、かなり上手くなったと思っていましたが、
子供の手術はすべて全身麻酔でした。
 そんなある時、ある子供の手術をしました。
両方の耳にチューブを入れ、扁桃腺とアデノイドを切除する手術です。
ごくありふれた手術ですが、その時チューブを入れようと鼓膜切開してビックリしました。
 鼓膜はペナペナで中耳の向こう側に張り付いていて切開するのも大変です。
しかも、切開しても中耳にスペースがないので、チューブが入りません。
そう、まさにトモキ君と同じような鼓膜だったのです。
 私はそれまで、そんな鼓膜をみたことがありませんでした。
しかも、外来の診察では、それがわからなかったのです。
患者さんは、別の医療機関から手術目的で紹介されてきた子だったので、
ろくに、観察もせず、手術予定を組んでしまったのです。
 まことにお恥ずかしい話ですが、私はそのときの手術記録に書いた文章を覚えています。
「チューブが入れられるような鼓膜ではない。」
 今の私だったら、「全麻までかけて、何いってんだこのヘボ医者が。」と罵倒するとこです。
 あの時私にもっと技術があれば、と悔やまれます。
 その後、開業してまだ間もない頃、ある子供の診察をしました。
名古屋のほうの耳鼻科で中耳炎の治療をしていたが、引っ越してきたのでこちらで診てほしい、
ということでした。
両方の耳にチューブが入っています。
「どちらの病院で手術したのですか?」
「その先生のとこです。」
「外来で?」
「はい外来で、鼓膜麻酔で。」
 おー、こんな子供にも局所麻酔でチューブいれられるんだー、すげー。
正直、ビックリしましたし、また、自分でも考えていたことなので
何とかこの技術を身につけたいと思いました。
 そして、いろいろ、工夫、努力し、経験をつんで、 今ではすべての年齢の子供に
局所麻酔でチューブを入れられるようになりました。
 この技術のいいとこは、何より、外来で手術出来るので、
コストやリスク、時間、手間の面ではるかに有利です。
入院、全身麻酔となると、術前に採血、胸のレントゲン、心電図、術後は点滴です。
特に全身麻酔のリスクの高い0歳児などは助かります。
 もうひとつ、入れたチューブの管理もできます。
大きな病院で全身麻酔でチューブを入れても、
チューブがつまったり耳垢が固まってしまうと、処置が出来ません。
外来で、チューブ管理が出来れば、処置だけでチューブの状態を戻すことが出来ます。
 特に近年、滲出性中耳炎だけでなく、乳幼児の難治性、反復性の中耳炎に
チューブを入れると、ウソみたいに中耳炎を起こさなくなります。
 まあ、どんな子にも入れられる、といっても難しい子は難しいので
そういう手術の前は、かなりのプレッシャーです。
トモキ君のときは前の晩、夢見ちゃいました。
 あー、この子、やっぱチューブだなー、でも、あばれるし、大変そうだなー、
と思っていた患者さんの手術が終わると
「この子は、もうこれで大丈夫。」とほっとするのだが、
また少しすると、新手のツワモノが現れるんだよなー。

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