ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2008.10.31

オレもかつてはバカ医者だった

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 寒くなって、風邪引き増えてきましたねー。
ウチの病院に、例えば滲出性中耳炎とかで通院中の子供が風邪を引いたとします。
「さて、どんな具合でしたか?」
「実は、先週の水曜日、熱を出しまして・・・。」
 (どきっ、高まる不安)
「それで、近くの小児科に行きまして、薬もらいました。」
 (あー、行っちゃんたんだー。)
「ど、どこ、行きましたか?」
「×○小児科です。」
 (あちゃー、よりによってあそこかよー。)
「で、どうなりました?」
「風邪って言われて、抗生物質が出て、おかげで熱が下がりました。」
 (不安はいよいよ頂点に・・・。)
「み、診てみますか。」
 不安は的中し、鼓膜が破れ耳だれが出ていた。
「あのね、風邪の時は抗生物質は効かないし、そもそもこの子は普段から耐性菌でてるから
こういう抗生剤飲むと、返ってバイ菌が元気になっちゃうのよ。」
熱が下がったのは、急に菌が元気になって、鼓膜破っちゃったからです。
(まったく、セフゾンなんか飲ますかよ、今どき・・・。
セフゾンは15年位前に出た抗生物質で、その抗菌力と味のよさで売れに売れましたが
使いすぎで、今はほとんどの菌に効きません。
ブドウ球菌に効くので、とびひの治療には今も使われるようですが・・・。)
 近年、耐性菌の増加で、こんなケースは良くあります。
 風邪の時は、熱が39度あっても40度あっても、それだけでは抗生剤を投与しない、
ってのは、いまや常識です。
 しかし、この間久しぶりに来た患者さんの昔のカルテを見ました。
もう、10年以上前の診察録です。
私の字で咽頭の所見が書いてあり
「おそらく、ヘルパンギーナ。」
との、コメントがあり、処方欄に抗生物質が4日間書いてある。
 「あー、オレもバカ医者だったんだなー。」
 毎年のように新しい抗生剤が出る、「抗生物質バブル」の頃に卒後教育を受けた我々は
風邪の本体は「ウイルス」で、抗生物質は無効、と知りながら
「念のために・・・」などと、せっせと抗生物質を処方していました。
 10年位前、新規の抗生物質の開発が行われなくなってから、
次第に、薬の効かない「耐性菌」増えてきたのです。
 5~6年前から「このままでは耐性菌だらけになり、薬が効かず大変なことになる」
と、研究者や学会で問題になり、抗生物質の適正使用が叫ばれ始めました。
 10年前は、それが常識だったとしても、抗生物質を安易に使って
世の中に耐性菌を増やしちゃった責任の一端はオレにもあるなー、と反省したわけです。
まったく、お恥ずかしい。
 数年前から、風邪の熱で抗生剤を処方しなくなって、
正直最初は、ちゃんと熱が下がるか不安だったんですけど、
ちゃんと下がるんですねー、これが。
 かつては、医者も母親も、抗生剤を飲んだから下がった、と思ってたのが、
まったく、幻想だったわけです。
中には、返って今回みたいに悪化しちゃうことも、少なくないし・・・。
 だから、そこらへんの小児科も、もっとがんばってよ。
(いや、もちろん、この街にも、そういうすぐれた小児科の先生もいますけどね。)

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