ロックな耳鼻科:小倉耳鼻咽喉科医院院長、小倉弘之が日々思うこと。

2010.03.24

「殺菌」と「静菌」

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 花粉症も多いのですが、季節の変わり目なのと、
冬の風邪シーズンの最終盤なのでここのところ中耳炎の方が多いですね。
 内科小児科で風邪といわれて薬を飲んでいたが、
急に耳が痛くなって来院、というケースが多い。
 大概の方が「風邪薬」と称して抗生剤を処方されているのには、
今更ながらあきれます。
 「風邪のときには抗生剤は無効」というのが今の常識なんですが。
 もう一つ気になるのが「抗生剤の併用」です。
 βーラクタム系の抗生剤とマクロライド系の抗生剤を同時に処方されてることがあります。
 これ、ちょっと疑問です。
 確かに抗菌スペクトル(対象とする細菌)が異なるので、
原因菌がはっきりしない時には「守備範囲」が広くなるような気がします。
 しかし、これらは同時に使うと効果を打ち消しあう恐れもあります。
 抗生剤はその作用機序から大きく分けて「殺菌的」な薬と「静菌的」な薬に分かれます。
 「殺菌的」な薬の代表はペニシリン系、セフェム系で、薬の名前だと
「メイアクト」とか「トミロン」「フロモックス」「セフゾン」「パセトシン」などが多く使われています。
 細菌の細胞壁の合成を阻害し溶菌させます。
 動物細胞には細胞壁がないため細菌への選択性が高く有効です。
 しかし、それゆえ細胞壁をもたない病原体、具体的には「マイコプラズマ」には無効です。
 一方「静菌的」なくすりの代表としてはマクロライド系、薬としては
「クラリス」「クラリシッド(これはクラリスと同じ薬です)」「エリスロシン」などがあります。
 これらは細菌のタンパク合成を阻害し増殖を抑えます。
 菌を殺すわけではありませんが、体の免疫、菌の寿命によって治療につながります。
 細胞壁をもたない「マイコプラズマ」にも有効ですが、その作用機序から
切れ味はやや悪いです。
 で、これらを併用するとどうなるか。
 ペニシリンやセフェムは細菌が細胞壁を合成する「増殖」の時に効果を発揮します。
 ところがマクロライドが増殖にストップをかけるとその効果を発揮する機会が無くなります。
 それで、実際より効果が弱くなってしまう可能性があります。
 ただしこれは、「試験管内」ではその作用がはっきり確認されてますが、
「生体内」では確かめるのがなかなか難しい。
 専門家は「薬を飲む時間をずらせば大丈夫」としていますが、
どれだけずらすかも、なかなか難しいですね。
 ただでさえ、子供さんにお薬飲ませるのは大変ですし。
 まあ、われわれ医者としては、なるべくデータを集め、所見を検討して
病原菌を想定した上で薬を処方すべきでしょう。
 これだけ出しときゃ、どれか当たるだろう、では困りますからね。
 
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